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ウィーン,ベルリン,金沢の響き:2019ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭
2019年10月1日(火)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) モーツァルト/交響曲第35番ニ長調, K.385「ハフナー」
2) モーツァルト(シェーファー編曲)/歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」(ウルフ=グイド=シェーファーによる木管五重奏版)K.588〜「僕のドラベッラにはとてもできないね」「岩のように動かず」「恋人の愛の息吹は」「恋は小さないたずらっ子」「二人の花嫁と,美しい花嫁に祝福あれ」
3) モーツァルト/フルート協奏曲第1番ト長調, K.313(285c)
4) モーツァルト/協奏交響曲変ホ長調,K.297b
5) (アンコール) /クルークハルト/木管五重奏曲op.79〜第2楽章

●演奏
ユベール・スダーン指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
アンサンブル・ウィーン=ベルリン(カール=ハインツ・シュッツ(フルート*2-3,5),ジョナサン・ケリー(オーボエ*2,4-5),アンドレアス・オッテンザマー(クラリネット*2,4-5),リヒャルト・ガラー(ファゴット*2,4-5),シュテファン・ドール(ホルン*2,4-5))



Review by 管理人hs  

ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭の一環で行われた,アンサンブル・ウィーン=ベルリン と ユベール・スダーンさん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)によるモーツァルト尽くしの演奏会を聞いてきました。

アンサンブル・ウィーン=ベルリンは,ウィーン・フィルとベルリン・フィルの首席管楽器奏者を中心とした木管五重奏団です。管楽器のソリストとOEKの共演ならば,過去何回もありましたが,管楽アンサンブルとOEKとの共演というのは初めてのことかもしれません。超有名な2つのヴィルトーゾ・オーケストラの首席奏者たちとOEKの共演ということで,お客さんだけではなく,OEKメンバーにとってもスリリングな公演だったのではないでしょうか。



まず,5人の奏者を歓迎するように,OEKお得意のモーツァルトの「ハフナー」交響曲がビシっと演奏されました。今回はバロック・ティンパニを使っていたこともあり,スダーンさんが指揮するモーツァルトには,古楽奏法を思わせるような響きがありました。ビシッと引き締まった雰囲気の中,さらっと流れるような雰囲気もあり,開演にぴったりの華やかさと軽やかさがありました。

第2楽章は速めなテンポで,リラックスした雰囲気の中に優雅さが漂っていました。第3楽章も速目のテンポで,トリオでもそのまま行きそう?と思ったところで,絶妙のテンポの揺れが入り,遊びの気分を感じさせてくれました。第4楽章にもキリっと引き締まった感じと祝祭感があり,メリハリがしっかり付けられていました。

スダーンさんの指揮はいつもそうなのですが,曲中の部分部分の描き分けがくっきりしており,さらっと流しているように見えて,曲の構造をしっかり見せてくれるような明快さがあります。それが安定感がつながっていると思います。

続いて,お待ちかねのアンサンブル・ウィーン=ベルリンの5人が登場しました。このアンサンブルは,1980年代から活躍していますが,現在のメンバーは次のとおりです。

  • フルート:カール=ハインツ・シュッツ(オーストリア出身,ウィーン・フィル首席奏者)
  • オーボエ:ジョナサン・ケリー(英国出身,ベルリン・フィル首席奏者)
  • クラリネット:アンドレアス・オッテンザマー(オーストリア出身,ベルリン・フィル首席奏者)
  • ファゴット:リヒャルト・ガラー(オーストリア出身,ウィーン交響楽団首席奏者)
  • ホルン:シュテファン・ドール(ドイツ出身,ベルリン・フィル首席奏者)

錚々たるメンバーです。今回はチラシに書かれていた曲目から変更があり,モーツァルトの歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」」の中の5つの曲を木管五重奏に編曲したものが演奏されました。当初はモーツァルトの木管五重奏曲(弦楽五重奏を木管で演奏する編曲)の予定でしたが,演奏時間的に見ると,今回の「コジ・ファン・トゥッテ」の方が丁度良いのではないかと思いました。



この演奏を聞いて,まず5人の奏者が作り出す,スケール感が素晴らしいと思いました。5人による演奏にも関わらず,最初の音を聞いたとたんに「オーケストラが演奏を始めた?」と思わせる,豊かさを感じました。ホルン,ファゴットによる安定したベースの上にフルート,オーボエ,クラリネットが極上の柔らかな音を伸びやかに聞かせてくれました。石川県立音楽堂コンサートホールの音響との相性が抜群だったとも言えそうです。

途中の曲では,5人の奏者それぞれが対話をするように進んだり,各奏者の華やかな見せ場があったり,全く退屈しませんでした。モーツァルトのオペラでは,各幕のフィナーレで,重唱によるアンサンブルが長く続くのを聞くのが楽しみですが,その気分を彷彿させるような鮮やかで生き生きとした感覚が湧き上がっていました。

3曲目の「恋人の愛の息吹きは」では,ホルンがアリアを歌うように演奏していました。そのしっかりとコントロールされた安定感,美しさ。テノールの声を聞くような柔らかさがありました。シュテファン・ドールさんの演奏を実演で聞くのは初めてでしたが,「さすが」と思いました。

複数のオーケストラのメンバーによるアンサンブルとは思えないほど,演奏全体に安定感とまとまりがあるのに加え,演奏全体にスケールの大きさもあり,安心してモーツァルトのオペラの世界に身を任すことができました。

後半はOEKとアンサンブル・ウィーン=ベルリンとの共演になりました。最後に演奏された協奏交響曲K.297b(モーツァルトの作品なのか疑われているけれども,とても良い曲で,有名な作品)には,オーボエ,クラリネット,ファゴット,ホルンのみが参加するということで,まず,フルート協奏曲第1番が演奏されました。

カール=ハインツ・シュルツさんの演奏からは,どこまでも広がっていくような,伸びやかな自由さを感じました。凜として雄弁に歌い上げる演奏を聞きながら,演奏する姿同様に「男前な感じ」だなぁと思いながら聞いていました。

曲のテンポは,「ハフナー」同様,速めでした。スダーンさんは,オランダ出身のベテラン指揮者ということで,「すごい5人」と堂々と渡り合うようなバックアップを聞かせてくれたと思います。ちなみにこの曲ですが,独奏フルート以外にもオーケストラにもフルート2本が加わっており,第2楽章などではOEKのお二人も暖かな音を聞かせてくれていたので,「フルートの饗宴」といった趣きもある楽章だと思いました。

第3楽章はメヌエット風の楽章で若々しさと同時に典雅さがありました。シュッツさんのフルートは,常に微笑みをたたえているようで,曲の最後の部分では,どこかいたずらっぽく「ペロッ」と舌を出すような感じで軽く終わっていたのが魅力的でした。

演奏会の最後に演奏された,協奏交響曲には,トリに相応しい華麗な気分がありました。OEKによる,スッと流れるような瑞々しい序奏部に続いて,4人の管楽器奏者がしっかりとしたゆとりのある音で入ってきました。くっきり,バシッと決まったジョナサン・ケリーさんのオーボエ,明るく楽天的な心地よさのあるアンドレアス・オッテンザマーさんのクラリネット,楽々と柔らかい音を操るシュテファン・ドールさんのホルン,そして,存在感たっぷりだけれども,しっかりと全体を包み込むようなリヒャルト・ガラーさんのファゴット。闊達に対話をするように演奏する一方で,しっかり,OEKと溶け合うようなオーケストラ的な音を聞かせてくれました。

第2楽章は,4人の奏者を中心に静かで落ち着きのある至福の音の世界が広がっていました。そのまま第3楽章に入ると,気分が一転しケリーさんのオーボエがリードするような感じで,楽しい変奏が続きました。4人の奏者による名人芸やアンサンブルが,これでもかこれでもかと軽やかに競い合うように続く贅沢さがあり,すっかり満腹という感じになりました。一人だけが突出するのではなく,バランスが取れているのが良いと思いました。

コーダの部分も軽やかでしたが,ここでも十分な余裕があり,全曲を通じて「大人の音楽」になっていました。名優のセリフが延々と続くような贅沢な気分のある協奏交響曲で,すっかり満腹しました。さすがのアンサンブルでした

アンコールではクルークハルトという作曲家の作品がアンサンブル・ウィーン=ベルリンのメンバー5人で演奏されました。自在で粋でカッコよい演奏で,演奏全体が一つの生き物のように生き生きと動き回っていました。

この日のお客さんの数は,もったいないことにあまり多くなかったのですが,盛大な拍手が続き,皆さん大満足といった感じで演奏会は終了しました。ベルリン・フィルやウィーン・フィルのメンバーとOEKとは,ヴェンツェル・フックスさんをはじめとして,結構頻繁に共演をしていますが,木管アンサンブルとオーケストラの共演には,また格別の面白さと贅沢さがあると感じました。

PS. 実は初代アンサンブル・ウィーン=ベルリンの演奏を27年前に聞いたことがあります。東京にたまたま出張があった際にサントリー・ホールで聞きました(このホールに入った初めての機会でした)。プログラムが残っていましたので演奏曲目とともにご紹介しましょう。



アンサンブル・ウィーン=ベルリン&シュテファン・ヴラダー1992年日本公演
1992年11月22日(日)19:00〜 サントリー・ホール(東京)


ダンツィ/木管五重奏曲ホ短調,op.67-2
モーツァルト/ピアノ,オーボエ,クラリネット,ホルン,ファゴットのための五重奏曲変ホ長調,K.452
ロッシーニ/フルート,クラリネット,ファゴット,ホルンのための四重奏曲第4番変ロ長調
テュイレ/ピアノと管楽のための六重奏曲変ロ長調,op.6
(アンコール)プーランク/ピアノと管楽のための六重奏曲〜第2楽章
(アンコール)イベール/3つの小品〜第1楽章
(アンコール)ベートーヴェン/ピアノと管楽のための五重奏曲〜第3楽章
(アンコール)シュトラウス,J./ポルカ(曲名まではメモしてありませんでした)

●演奏
アンサンブル・ウィーン=ベルリン
  フルート:ウォルフガング・シュルツ(ウィーン・フィル)
  オーボエ:ハンスイェルク・シェレンベルガー(ベルリン・フィル)
  クラリネット:カール・ライスター(ベルリン・フィル)
  ファゴット:ミラン・トゥルコヴィッチ(ウィーン交響楽団)
  ホルン:ギュンター・ヘーグナー(ウィーン・フィル)
ピアノ:シュテファン・ヴラダー


カラヤンやベームの時代の名残の残る,非常に豪華なメンバーですね。近年,OEKと数回共演しているシュテファン・ヴラダーさんがゲストで参加していました。当時は大変若かったはずです。

(2019/10/05)



公演の立看板


この日は,吹奏楽部の部員のような若い人の姿を大勢見かけました。5人によるレッスンの機会も,別途行われていたようですね。



サイン会は行われませんでしたが,終演後,音楽堂の横で待っていると,ホテルに向かうメンバーがバラバラと登場。女子高生に混ざって,サインをいただきました。


最初フルートのシュッツさんにはジャケットの裏に書いていただいたのですが,その他の方には自身の写真付近に書いていただきました。