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石川フィルハーモニー交響楽団特別演奏会:2019ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭
2019年10月6日(日) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

バースタイン/「キャンディード」序曲
ウィリアムズ,J./「スターウォーズ」組曲
マーラー/交響曲第1番ニ長調「巨人」
(アンコール)マーラー/花の章

●演奏
花本康二指揮石川フィルハーモニー交響楽団



Review by 管理人hs  

2019ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭の一貫で行われた,石川フィルハーモニー交響楽団特別演奏会を石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてきました。この日は同じ時間帯に,話題のピアニスト,藤田真央さんのリサイタルが市内で行われるなど,いくつか演奏会が競合しており(ついでに言うと大相撲金沢場所もやっていましたね),どれに行くか迷ったのですが,マーラーとジョン・ウィリアムズに惹かれて,石川フィルの演奏会を選びました。



公演パンフレットにも書かれていたとおり,石川フィルさんは,通常の定期公演とビエンナーレの特別公演の場合とで方針を変えているようで,今回は大編成の難曲に挑戦する形になりました。

プログラムの前半は,バーンスタインのキャンディード序曲とウィリアムズのスターウォーズ組曲でした。

キャンディード序曲は,開幕にぴったりの充実感のある演奏でした。最初の音が鳴った途端,原色的な音が耳に飛び込んで来るようでした。この部分も良かったのですが,中間部に出てくる「求婚のテーマ」にも落ち着いた味があって特に印象的でした。曲の最後の方には,「ロッシーニ・クレッシェンド」を思わせるようなユーモアもあるなぁなど新たな発見もありました。それにしても...この曲は結構長い間「題名の音楽会」のテーマ曲だったので,曲が始まると,佐渡裕さんの顔が浮かんできてしまいますね。

「スターウォーズ」の音楽については,近年では,ベルリン・フィルが取り上げたり,グルターヴォ・ドゥダメルが取り上げたり,徐々にクラシック音楽化して来ている印象もありますが,金沢で「メインタイトル」以外の曲をまとめて聞く機会は少ないと思います。今回演奏された組曲は,作曲者自身が選曲した5曲で,最初の三部作の音楽から成っていました。

メイン・タイトルについては,最初のファンファーレが鳴った途端,「サントラと同じだ!」と嬉しくなりました。途中,ホルストの「惑星」のような感じになっていくのですが,この辺は実演で聞くと,特に良いですね。組曲全体を通じて,フルートが素晴らしい演奏でした。SFにぴったりのクールな音が良かったと思いました。

「レイア姫のテーマ」と「ヨーダのテーマ」は,しっかり意識して聞いたことはなかったのですが,プログラムの解説を読みながら聞くと,「なるほど」と思いました。ライトモチーフをしっかりと組み合わせて,意味を込めていたり,素直な調性にして,健全な響きを出していたり,という作曲者の意図がよく伝わってきました。

「レイア姫」のテーマは,ヴァイオリン・パートのしっとりとした響きを聞きながら,「マーラーに通じる?後半のプログラムの伏線かも」と思いました。「ヨーダ」のテーマの方も,交響曲の緩徐楽章に通じる気分がありましたが,より健全な感じで,コルンゴルトの気分があるのではと思いました(ジョン・ウィリアムズの方が影響を受けているのだと思います)。

「ダース・ベイダーのテーマ」は,「帝国のマーチ」として,メイン・タイトルの次に有名な曲ですね。指揮者の花本さんは,指揮棒を指揮台の下に用意してあったライトセイバーに持ち替えての指揮でした。長さ的に弦楽器のトップ奏者の頭を叩けそうな感じでしたね。この曲は,重苦しい気分を持っていますが,テレビ番組を始めとして,結構,色々な場所で聞くようになってきたこともあり,実演で聞くと妙に嬉しくなってしまうところがあります(私だけ?)。

最後は,「王座の間」の音楽でした。この音楽には,落ち着きと華やかさがあり,映画同様,組曲の最後に聞くとしっかりと締まります。最後,2台の小太鼓のロールで大きく盛り上がるのが,祝祭的で特に良かったと思いました。そして,ジョン・ウィリアムズと言えば,トランペット。全曲を通じて爽快な演奏を楽しませてくれました。お疲れ様でした。その他,チェレスタとピアノの出番が結構あり,忙しそうに席を移動していたのが,「見た目」的に印象的でした。こういうのは,実演で見ないと分からない点ですね。

というわけで,5曲セットで,小型交響曲を聞いたような充実感のある演奏でした。

後半はマーラーの交響曲第1番「巨人」が演奏されました。石川フィルは11年前にもこの曲を演奏しており,花本さんの指揮で聞いたことがあるのですが,熟練の指揮ぶりで,第4楽章のクライマックスに向けて大きく盛り上がる音楽を聞かせてくれました。

プレトークで,第1楽章の冒頭は弦楽器のフラジオレットを使っていること,第3楽章にはコントラバスとテューバという低音楽器による珍しいソロがあること,金管楽器以外にも木管楽器もベルアップする部分がある,などオーケストラのメンバーを交えて紹介をしてくれました。プログラムの解説もとても充実しており,曲をさらに楽しむことができました。

第1楽章では,このフラジオレットの部分(自然の描写ですね)の後,初めのうちは「目が覚めきらない感じかな」と思って聞いていたのですが,楽章の後半,一気に目が覚めて,「自然」が動き出すような感じが鮮やかに表現されていたと思いました。ホルン全員で力強く演奏する部分もバシッと決まっていて良かったですね。

第2楽章は落ち着いたテンポのレントラー舞曲でした。トリオではの弦楽器の優しい音も非常に魅力的でした。第3楽章のコントラバス・ソロからは,素直な民謡風のメロディから,自然に哀愁がにじみ出ていました。テューバのソロは,実はこれまであまり意識して聞いたことはなかったのですが,良い味を出しているなぁと思いました。

第4楽章は,まず冒頭の吊るしシンバルの強烈の響きが良かったですね。今回は,プログラムの解説に書いてあった,「半音階で下がっていく不吉なモチーフ」に注目してみたのですが,このモチーフが結構しつこく何回も出てくるのが分かり大変面白く聞くことができました。全体に落ち着いたテンポで,しっかりとオーケストラを鳴らした演奏でした。

途中対照的に弦楽器による美しいメロディが出てきますが,こちらの方は非常にねっとりと演奏されており,「マーラーの音だ!」と思いました。このメロディを聞くといつもずっと浸っていたいと思います。その辺の対比が続いた後,最後の大きな盛り上がりへとつながっていきます。

ちなみに楽章の最後の部分,「ホルンは起立かな?」と思って見ていたのですが,この日は座ったままでベルアップでした。最後の音に向けて,じっくりとエネルギーを溜めていく感じが良かったですね。

この日は,前半のジョン・ウィリアムズの時から「トランペットが大変」というプログラムということもあって,7人もトランペットがいましたが,この最後の部分では全員一斉に演奏していたでしょうか。ティンパニ2台を中心とした打楽器の激しい連打と一体となって,滅多に味わえないような強烈な響きで全曲を締めてくれました。こういう響きを聞くと,アマチュアオーケストラの熱い演奏はいいなぁと思います。

マーラーの交響曲の後だったので,アンコールはないかも,と思ったのですが,何と「花の章」(「巨人」のオリジナル版にはあった楽章)が演奏されました。そうなってくると,最初から「花の章付き」で演奏しても良かった気はしましたが,今回の演奏を聞いて,アンコールにぴったりの曲だと思いました。

とてもリラックスした感じがあったので,大曲の演奏後にぴったりでした。トランペットが大活躍する曲なので,「お疲れのところ,もうひと頑張り」という感じもあったのですが,今回は7人も奏者がいたので,「花の章」のトランペットのパートを全員で分担して演奏されていたようでした。こういう「協力」もとても良いと思いました。

というわけで,大編成のオーケストラ作品を,熱い演奏で気持ちよく楽しめた演奏会でした。

(2019/10/14)




公演のポスター


公演の案内