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オーケストラ・アンサンブル金沢第420回定期公演マイスター・シリーズ
2019年10月12日(土)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

ドヴォルザーク/スラヴ舞曲集,op.72
ドヴォルザーク/交響曲第9番ホ短調,op.95「新世界から」

●演奏
マルク・ミンコフスキ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)



Review by 管理人hs  

この日は,超大型の台風19号が関東・東海地方に迫る中,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の芸術監督,マルク・ミンコフスキ指揮によるマイスター定期公演を石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてきました。プログラムは協奏曲なしのミンコフスキさんの指揮を楽しむプログラム。前半がドヴォルザークのスラヴ舞曲作品72(全曲),後半がドヴォルザークの交響曲第9番「新世界から」というドヴォルザーク特集でした。

ミンコフスキさんとドヴォルザークという組み合わせは,意外な気はしましたが,前半後半とも,ミンコフスキさんの「ドヴォルザークへの愛」が伝わってくるような,素晴らしい演奏を楽しむことができました。


前半のスラヴ舞曲集は,CDはかなり出ていますが,実演でこれだけまとまって演奏されることは珍しいと思います。特に,作品46の「続編」である,作品72の8曲の方は,超有名曲の72−2以外は,知る人ぞ知るといった曲が多いのではないかと思います。私自身,作品72の全曲を実演で聞くのは初めてでしたが,「スラヴ組曲」といった感じの多様性を感じさせる,聴きごたえのある演奏になっていたと思います。

 当初は,op.46の抜粋の予定でしたが,op.72の全曲にプログラム変更

もともとスラヴ舞曲の方は,速いテンポの舞曲とゆったりしたテンポの曲がバランス良く混ざっています。ブラームスのハンガリー舞曲の方は,民謡を素材にしており,各曲の演奏時間が短いのに対し,ドヴォルザークのスラヴ舞曲の方は,すべてドヴォルザークのオリジナル作品。演奏時間が5分以上の曲もかなりあります。ミンコフスキさんは,今回の定期公演と次回登場する3月の定期公演で,作品72と作品46の全曲をそれぞれ取り上げますが,このアイデアはとても良いと思いました。

この日のOEKは弦楽器をかなり増強しており,12-10-8-8-4というフルオーケストラに近い編成でした。ソリストが入らない分を,エキストラの増強に当てていたのかもしれませんね。そのことにより音の重量感が増していました。その一方で,ミンコフスキさんの指揮は演奏全体にエネルギーを与えるような感じで,常に躍動感がありました。重量感とキレの良い動きが見事に合体していました。


弦楽器は対向配置。コントラバスはステージ奥に4人でした

第1番はストレートに目が覚めるような鮮やかさでスタート。聞きながら「鉄道好きのドヴォルザークが北陸新幹線「かがやき」をイメージして作曲したらこんな感じかも」などと思いながら聞いていたのですが...翌朝,長野市の車両基地で水没....虫の知らせだったのでしょうか。中間部の滴るような美しさ,瑞々しさも印象的でした。

音楽堂から見える新幹線ホーム。気のせいかずっと新幹線が止まっていたかも

第2番は,スラヴ舞曲集の中で最も有名な超有名曲。ミンコフスキさんの指揮は甘くなることなく率直に,しかし,しっかりと歌わせてくれました。中間部での慈しむような暖かさも良かったですね。増強されたチェロパートの引き締まった音が特に美しさを引き立てていました。

舞曲集の場合,1曲ごとに拍手するかどうかで迷います。特に超有名曲の2番の後だと入るかな?とも思ったのですが,この日は曲間では全く入りませんでした。この曲の後,ミンコフスキさんは動作を止めて拍手を入れる余地を少なくしていたせいもあるかもしれません。そのことにより,上述のとおり,8曲セットの組曲のように楽しむことができました。

第3曲以降は,CDでもあまりお馴染みの曲はなかったのですが,OEKの各パートのソリスティックな活躍も楽しむことができる曲が多いと思いました。静かな部分での詩的な気分と速い部分での「重く弾む」ような流動感の対比をここでも楽しむことができました。

テンポの速い第7曲もどこか鉄道を思わせる曲です。コントラバスの音がエンジンとなって全体がキビキビと進んでいました。ピッコロの音も良いスパイスになっていました。

そして,全曲を締める第8番が特に素晴らしい演奏でした。夢見心地のようなしっとりとした気分のある演奏で,第1番〜第7番までの生き生きとした世界を美しく,懐かしく振り返っていました。大きく間を取って,ミンコフスキさんが大きく息を吸い込んでいるのが分かるような演奏でした。すべて人生は夢の中へ,といった感じで前半が終了しました。

こうやってスラヴ舞曲をまとめて聞いてみると,ワルツ系の曲もあったこともあり,速いポルカとゆっくりとしたワルツとが組み合わさった,「シュトラウス・ファミリーによるニューイヤーコンサート」の構成と意外に似ているのではと感じました。

後半はお馴染みの「新世界から」が演奏されました。ホールの外は,雨が降り続いていましたが,ホールの中は「別世界」。ミンコフスキさんの指揮にもお馴染みの曲に,新たなエネルギーを注入したような,気合い十分の演奏を聞かせてくれました。縮めて言うと(?)「別世界から」という演奏でした。

演奏の方は,前半のスラヴ舞曲同様,どの部分にもミンコフスキさんの「ドヴォルザーク愛」が感じられ,それがOEKの演奏のエネルギーになっていました。この日のコンサートミストレスは,アビゲイル・ヤングさんでしたが,そのお隣には水谷晃さん。チェロの首席奏者の方は客演の辻本玲さん(日本フィルのソロチェロ奏者。IMAにも参加されていた記憶があります)。演奏全体を通じて,各パートが競い合いながらも一体となって盛り上がるような「熱気」がありました。

第1楽章冒頭,低弦の柔らかでデリケートな音に続いて,ホルンがくっきりとした音で「パパーン」。その後の「間」の絶妙の緊張感が新鮮でした。ティンパニの音も惚れ惚れするような格好良さ。強奏部分は厳しく引き締まっていました。

主部に入ってからはシリアスでありながら颯爽とした音楽。ミンコフスキさん指揮ということで,「何か変わった琴をするかな?」という予想もあったのですが,非常にストレートな演奏でした。呈示部の繰り返しは行っていました。

この楽章ではフルートが美しいメロディを演奏する部分がありますが,岡本さんの落ち着きのある音が郷愁を誘う雰囲気にぴったりでした。コーダの部分のトランペットにもいつも注目しているのですが,「ここで全開」という感じで颯爽と決めてくれました。

第2楽章はイングリッシュホルンのソロが有名ですが,落ち着いているけれども透明感のある響きがとても新鮮でした。オーケストラのメンバーも含め,「みんなじっと聞いているなぁ」という感じが良かったですね。途中,木管楽器を中心に楽しげなメロディが出てくる部分での「光が差してくる」ような雰囲気も新鮮でした。

楽章の後半,弦楽器のトップメンバーによる室内楽のような雰囲気になりますが,この部分の緊迫感をはらんだ静けさ。じっくりと間を取った凄みのある世界が広がっていました。最後,金管合奏の静かな響きの後,消えるように終わるのですが,この部分での空虚な感じ。こちらも凄いと思いました。

第3楽章は,一転してキビキビとした音楽になります。かなり速いテンポだったと思います。中間部は前半のスラヴ舞曲の世界を懐古するよう。木管楽器の鮮やかさ,ダンサブルでありながら滑らかに流れる優雅さを楽しむことができました。

この楽章の後,ミンコフスキさんはずっとストップモーション。アタッカという感じではなかったのですが,そのエネルギーをずっと蓄えたまま,第4楽章へ。堂々としたテンポで主題が演奏されました。トランペットの音が目立つ部分ですが,非常にまとまりが良いと思いました。続いて出てくる,弦楽器は非常に熱くダイナミックさのある演奏でした。

弱音でシンバルが入った後,クラリネットが引き継ぐ部分は,大好きな部分です。さらに「別世界へ」入っていく感じの雄弁さがありました。ファゴットの軽やかな音(この日はエキストラの方でした),金星さんのホルンの高音。その後も各パートが競い合うように歌い合う感じで非常に聴きごたえがありました。

コーダの部分は,ミンコフスキさんから発散されるエネルギーにオーケストラ全員が反応しているような素晴らしい音でした。ティンパニの音が続く中,大見得を切るような感じでテンポを落とし,トランペットが突き抜けるような音。「ミンコフスキさんのブルックナーも聞いてみたい」と一瞬思いました。最後は段々デクレッシェンドしていくのですが,ミンコフスキさんの手もだんだんと下に下がっていき,パタッと終了。

OEKにとって,「新世界から」は頻繁に演奏できる曲ではありません。恐らく,古楽系指揮者のイメージのあるミンコフスキさんにとっても,新たなレパートリーなのではないかと思います。その新鮮さが,「熱さ」と「深さ」につながったような演奏だったと思います。

というようなわけで,雨の中出かけてきて,本当に良かったと思いました。この日の演奏会は北陸朝日放送が収録を行っていましたが,いつものテレビ収録の時以上にマイクが沢山並んでおり,CD録音のような感じにも見えました。このマイクの本数を見ながら,そろそろ,ミンコフスキさん指揮OEKによるCD録音を期待したいと思いました。素晴らしい演奏会でした。

PS.この日の開演前のロビー・コンサートは,ドヴォルザークの弦楽四重奏曲「アメリカ」の中の第1楽章と第4楽章。雨に備えて,かなり早めに会場に到着していたので,いつもにましてじっくりと聞くことができました。メンバーは,青木恵音さん,若松みなみさん,古宮山由里さん,ソンジュン・キムさん。「ドヴォルザーク尽くし」の演奏会にぴったりの選曲で,気分を大いに盛り上げてくれる演奏でした。
 

若松さんは10月24日に行うピアノ三重奏公演のPRをされていましたが,是非,行ってみたいと思いました。

(2019/10/19)




公演の立看板


公演のポスター


公演の案内


JR金沢駅の掲示


JR金沢駅のモニター


音楽堂の外にあったはずの掲示版もいつもと違う場所に避難していました。

終演後,ミンコフスキさんのサイン会もありました。今回はオッフェンバックのチェロ協奏曲を中心としたCD。この曲,一度,ミンコフスキさん指揮の実演でも聞いてみたいものです。