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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2019 秋の陣:ピアノの日
2019年10月22日(火・祝)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番イ長調,K.488
2) ショパン/ピアノ協奏曲第1番ホ短調, op.11
3) リスト/ピアノ協奏曲第1番変ホ長調
4) (アンコール)シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲(六手連弾)

●演奏
松井慶太指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:水谷晃)*1-3
山田ゆかり*1,4,竹田理琴乃*2,4,木米真理恵*3-4(ピアノ)



Review by 管理人hs  

毎年,春の連休中に行われている「風と緑の楽都音楽祭(ガル祭)」の延長戦企画といっても良い「ガル祭2019:秋の陣」を聞いてきました。この音楽祭については,ここ数年,秋にも実施する形に変わって来ているのですが,今年は「ピアノの日」,「声楽の日」と名付けて,2日に分けて,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と地元アーティストとが共演する演奏会が行われました。

この日は「ピアノの日」で,松井慶太指揮OEKと,金沢市出身の山田ゆかりさん,竹田理琴乃さん,木米真理恵さんの3人のピアニストが共演をしました。OEKと地元アーティストの共演といえば,北陸新人登竜門コンサートがありますが,3人とものその出身者です。このコンサートへの出演をきっかけとして,ガル祭を中心とした,地元での活躍が広がるという流れができつつありますが,今回の「秋の陣」はその総決算と言っても良い内容でした。

3人が演奏した曲は,山田さんがモーツァルトのピアノ協奏曲第23番,竹田さんがショパンのピアノ協奏曲第1番,木米さんがリストのピアノ協奏曲第1番でした。いずれも大変魅力的な作品。それを一気に3曲楽しめる,豪華さのあるプログラムとなっていました。もちろん演奏内容も安心して楽しめるものでした。3人とも金沢を中心にOEKメンバーとの共演を含め,頻繁に演奏会を行っていますので,いわばずっと応援している「ご当地アイドル(?)」の晴れ舞台を見るようなワクワク感のようなものを感じました。



最初に登場した山田さんは,白いドレスで登場しました。袖から入ってくる時,軽やかにドレスの裾が翻るような感じがモーツァルトの気分に合っているなと思いました。演奏も非常に軽やかでしたが,常に落ち着いた雰囲気がある,大人のモーツアルトだと思いました。

個人的にこの曲は,モーツァルトの全ピアノ協奏曲の中でも常にベスト3に入るぐらい好きな作品です。冒頭,弦楽器によるテーマが流れるように聞こえてくるだけで嬉しくなりました。山田さんのピアノも気負いなく流れていきましたが,その裏に常に悲しみが潜んでいるような深さを感じました。カデンツァはモーツァルト自身のもののでした。軽快に羽ばたけそうで,羽ばたかないような感じがこの曲らしくて良いなと思いました。

第2楽章もシンプルな明るさの裏に常に深い思いが潜んでいるような雰囲気がありました。クラリネット,フルート,ファゴットなどもしっかりと悲しみを彩っていました(ちなみにこの作品,オーボエが入らない編成なので,クラリネットでチューニングをしていましたね)。

第3楽章も歯切れ良くスタート。クラリネットを中心に木管楽器が楽しげに音階を上ったり下がったりする感じが良いのですが,その中にも影があるのがこの曲です。そのことがしっかりと感じられる演奏だったと思います。

続いて,竹田さんがショパンのピアノ協奏曲第1番を演奏しました。この曲は,竹田さんにとって,ショパンは最も得意としているレパートリーだと思います。数年前の新人登竜門コンサートでは,協奏曲第2番を演奏しましたが,今回の第1番も素晴らしい技巧に支えられた,美しく表現力豊かな演奏でした。

竹田さんは,紺色のドレスで登場。新人登竜門コンサートの頃に比べると,とても大人っぽい雰囲気になりましたね。竹田さんのショパンは,どの部分も磨かれた音でしっかりと演奏されていました。第1楽章第2主題でのクールだけれども,表情豊かな演奏は,特に竹田さんらしいなぁと思いました。

第2楽章では,濃厚なロマンを感じさせつつも,クリスタルのような音で憧れに満ちた瑞々しい気分を感じさせてくれました。この楽章では,いつもファゴットに注目してしまうのですが,今回も柳浦さんは優しく包み込むような良い味わいを出していました。

第3楽章は特に素晴らしいと思いました。キリッと引き締まったくっきりとしたタッチで非常に雄弁に主題が演奏された後,ぐいぐい音楽に引き込まれました。技巧的に難しい楽章だと思うのですが,楽々と演奏しており,楽章全体の形がしっかりしているのが素晴らしいと思いました。コーダの部分も恐るべき軽やかさで決めてくれました。

後半は,木米さんによるリストのピアノ協奏曲第1番が演奏されました。トロンボーン3本が入る曲なので,楽器編成的にOEKが演奏する機会が少ない曲です。そういった作品を堂々たる演奏で楽しむことができました。

木米さんは,ライトブルーのドレスで登場。ソリストが複数登場する演奏会の場合,ソリストの個性や選曲を反映したドレスを楽しめるのも楽しみの一つです。

第1楽章の冒頭は,金管楽器のパリッとした音を含むオーケストラのがっしりとした響きで始まりました。木米さんのピアノはこれをがっしりと受け止め,浮ついた感じになることなく,正攻法で弾き切っていました。こういう部分を聞くと,リストの曲は良いなぁと思います。この楽章では,途中,しっとりと入ってくる遠藤さんのクラリネットも印象的でした。

第2楽章と第3楽章は,両端楽章に比べると静かな雰囲気になります。ピアノの方が引き立て役になり,木管楽器やトライアングルが活躍する部分もありますね。第2楽章の抒情的な歌,第3楽章でのトライアングルとの掛け合いなど,安心して楽しむことができました。

第4楽章は,ピアノのキラキラとした軽快な動きが大変鮮やかででした。終盤は,全体にもう少し燃え上がった感じでも良いかなと思ったのですが,金管とピアノががっぷり四つに組んだような迫力は,聴きごたえ十分でした。

各奏者の後,もう少し盛大な拍手が続くと良いなぁと思っていたのですが,アンコールについては,最後に「3人まとめて」行われました。3人の連弾で,アンコールの定番曲,ラデツキー行進曲が演奏されました。3人寄り添っての演奏ということで,どこか微笑ましくアットホームな雰囲気がありました。お約束どおり,お客さんの手拍子も入りましたが,この拍手の「仕切り」については,この日,コンサートマスターだった水谷晃さんが担当されていました。この「サポート」も良いなぁと思いました。

今回の公演で少し気になったのは,前半の演奏時間の長さでしょうか。モーツァルトとショパンが前半だったので,1時間以上かかり,少々疲れていたお客さんがいたような気がしました。竹田さんの演奏中,盛大にくしゃみをしている人がいましたが...ホール内が少々寒かったかもしれませんね。というわけで,この際ゆったりと休憩2回でも良かったのかなと思いました。

余談になりますが,今年になってからOEKと地元ピアニストが共演する協奏曲公演が続いているのが嬉しいですね。ガル祭のクロージングコンサートでの,グリーグのピアノ協奏曲(平野加奈さんとの共演),岩城メモリアル公演でのベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番(鶴見彩さんとの共演),そして今回の3人。音楽祭の名前に「楽都」という単語が入っていますが,確実にそうなりつつあるなぁと実感をしているところです。

というわけで,初めての試みである「秋の陣:ピアノの日」は大成功だったと思います。是非,今度は「弦の日」「管の日」にも期待したいと思います。

PS. 10月24日の「声楽の日」にも行ってみたかったのですが,OEKのヴァイオリン奏者,若松みなみさんとチェロ奏者,ソンジュン・キムさんを中心とした室内楽公演とバッティング。プログラムを見ると(「ピアノの日」公演と共通のプログラムでした),「声楽の日」公演の方も非常に楽しそうでしたが,今回は残念ながら断念しました。

(2019/10/25)




公演のポスター


公演の案内


ガル祭のスタンドも出ていました


先日の台風19号の災害義援金も募集を行っていました。

JR金沢駅に行ってみると,本日は次のような状況でした。