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若松みなみ,ソンジュン・キム,ジヌゥ・パク ピアノトリオの夕べ金沢公演
2019年10月24日(木)19:00〜 金沢市アートホール

ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲第1番変ホ長調,op.1-1
ドビュッシー/ピアノ三重奏曲ト長調
シューベルト/三重奏曲変ホ長調「ノットゥルノ」
ブラームス/ピアノ三重奏曲第1番ロ長調,

●演奏
若松みなみ(ヴァイオリン),ソンジュン・キム(チェロ),ジヌゥ・パク(ピアノ)



Review by 管理人hs  

この日,同じ時間帯,石川県立音楽堂では,楽都音楽祭「秋の陣」の「声楽の日」コンサートも行われていたのですが...そちらの方は断念し,金沢市アートホールで行われた,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のヴァイオリン奏者,若松みなみさん,同じくチェロ奏者のソンジュン・キムさん,そして,ジヌウ・パクさんのピアノによるピアノトリオの夕べの方を聞いてきました。金沢でピアノ三重奏曲をこれだけまとめて聞ける機会は少ないと思い,こちらを選択したのですが,期待以上にボリューム満点の演奏会となり,大満足でした。



演奏されたのは,ベートーヴェン,ブラームス,ドビュッシーのピアノ三重奏曲のそれぞれ「第1番」(ドビュッシーの曲は,「1番」ではないのですが,これ1曲しか作っていません)とシューベルト最晩年のノットゥルノの4曲でした。シューベルトを除くと各作曲家の若い時の作品が中心でしたが,今回の3人の演奏にも若々しさがありました。

最初に演奏されたベートーヴェンのピアノ三重奏曲第1番は,「作品1の1」ということで,「1尽くし」の曲です。特に若々しい気分のある曲で,まず,今回,ゲストのような形で参加したジヌゥ・パクさんのピアノが冴え渡っていました。速いパッセージになるほど精気が増してくるような鮮やかさがありました。3人の演奏にはリラックスしたスピード感があり,一気呵成に若々しい音楽を楽しませてくれました。

第2楽章は若松さんのヴァイオリンとキムさんのチェロが作り出す落ち着きのある響きが魅力的でした。ノリの良いスケルツォ楽章に続く,第4楽章も大変軽妙でした。パクさんのピアノを中心としたキビキビ感が延々と続くような精気のある演奏となっていました。

続くドビュッシーの作品については,そもそもピアノ三重奏曲があったことを今回初めて知ったのですが,「こんな素直で分かりやすい曲を作っていたのだなぁ」と思わせるほど,親しみやすい作品でした。ベートーヴェンの曲とは別の空気に代わり,ヴァイオリンとチェロを中心とした「しあわせ感」たっぷりの響きが,本当に心地よく響いていました。

第2楽章のスケルツォでは,ユーモアと同時に物語性を感じさせてくれました。第3楽章では,キムさんのロマンティックなチェロの響きに聞き惚れました。2枚目的な雰囲気のある,格好良い演奏だったと思いました。第4楽章はほの暗い情熱と切迫感を持った楽章でした。しっかりと歌を歌わせながら,幸せを噛みしめているような味わいもありました。

前半の2曲と最後のブラームスは,25分以上はかかる4楽章から成る規模の大きな作品でしたが,後半の最初に演奏されたシューベルトのノットゥルノは,全プログラム中の間奏曲のような位置づけでした。この曲はその他の3曲とは対照的にシューベルト最晩年の作品で,美しく透明感のあるハモリの中に不思議な寂しさが漂う,この世のものとは思えない気分を持った作品であり演奏でした。弦楽器の作る儚げな響きをピアノがしっかりと縁取るような演奏で,本当にじっくりと聞かせてくれました。

最後に演奏されたブラームスのピアノ三重奏曲第1番は,ソンジュン・キムさんの朗々とした伸びやかさのあるソロで始まった後,若松みなみさんのヴァイオリンを加えて,さらにゴージャスに盛り上がり,速めのテンポで,気持ちよくぐいぐいと進んで行くような演奏でした。第2楽章のスケルツォも音の動きがダイナミックでした。ヴァイオリンとチェロのための二重奏ソナタのような豪華さがありました。

第3楽章は神秘的な雰囲気を持ち,深い世界を感じさせてくれました。第4楽章にもどこかミステリアスな気分がありました。3つの楽器が一体となって,ほの暗く熱い雰囲気で力強く進み,最後は大きく盛り上がって終了しました。

ピアノ三重奏というスタイルは,室内楽でありながら,ヴァイオリンとチェロがソリスティックに活躍したり,二重奏のように美しくハモったり,各楽器が名人芸を聞かせたり...他の室内楽にはない,華やかさがあると感じました。演奏会の最後で,若松さんは,「ピアノ三重奏曲には名曲が沢山あります。これからもこの3人で演奏していきたい」といったことを語っていました。是非,今後も続けていって欲しいと思います。

ソンジュン・キムさんが最後に「本日は好きな曲を盛り込みすぎたので,アンコールはありません」と語っていました。まさにとおり。充実の4曲を充実の演奏で楽しませてくれました。この3人による,ピアノ三重奏曲シリーズには,今後も期待したいと思います。

(2019/10/29)




公演のポスター