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とやま室内楽フェスティバル2019 スペシャルコンサート
2019年10月25日(金)19:00〜 富山市民プラザアンサンブルホール

1) ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第16番へ長調, op.135〜第1楽章,第4楽章
2) ラヴェル/ヴァイオリン・ソナタ第2番ト長調〜第1楽章,第3楽章
3) ラヴェル/ピアノ三重奏曲〜第1楽章,第2楽章
4) シューマン/ピアノ五重奏曲変ホ長調, op.44

●演奏
クワルテット・インテグラ(三澤響果,菊野凛太郎(ヴァイオリン),山本一輝(ヴィオラ),菊地杏里(チェロ))*1
渋谷優花(ヴァイオリン*2),戸島園恵(ピアノ*2)
トリオ・ムジカ(柳田茄那子(ヴァイオリン),田辺純一(チェロ),岩下真麻(ピアノ))*3
原田幸一郎,池田菊衛(ヴァイオリン)*4,磯村和英(ヴィオラ)*4,毛利伯郎(チェロ)*4,練木繁夫(ピアノ)*4



Review by 管理人hs  

金曜日の夕方,仕事が終わった後,北陸自動車道で富山市まで行き,とやま室内楽フェスティバル2019のスペシャルコンサートを聞いてきました。9月上旬に富山市に行った時に,このコンサートのチラシを発見したのですが,原田幸一郎,池田菊衛,磯村和英という元東京クヮルテットのメンバー3人+チェロの毛利伯郎さん,ピアノの練木繁夫さんという,いわば,「室内楽のレジェンド」が揃って,シューマンのピアノ五重奏曲を演奏するということで,これは聞かねばなるまいと思い出かけてきました。

その演奏ですが...期待をはるかに上回る,素晴らしいものでした。冒頭からどっしりと重厚。枯れた雰囲気もあるけれども,音楽が大きく息づいていているような豊かさを感じさせる部分が随所にありました。テンポはゆっくり目でしたが,音楽の裏には常に熱い情熱があり,レジェンドたちの心意気が感じられました。練木さんのピアノは,弦の音に丁寧に付けており,演奏の充実感をさらにアップさせているようでした。楽章の途中,5人だけの演奏でありながら,次々の違ったテクスチュアが感じられ,ワクワクとさせてくれました。

第2楽章は,ピアノによる美しい響きに導かれ,じっくり・しみじみとした音楽が続きました。中間部でのせつない優しさ,ヴィオラの磯村さんの渋くかくしゃくとした演奏が素晴らしいと思いました。

第3楽章スケルツォにもズシッとくる,老練さを持った迫力がありました。中間部では,各楽器が主張し合うと同時に,軽妙な鯵を感じさせてくれました。第4楽章ではゴツゴツとした力感のある響きで開始。練木さんのピアノが全体を下支えする中,ビシッと締まった響きを聞かせてくれました。コーダの部分は,フーガのように盛り上がり,スケール感たっぷりの壮麗さがありました。大きく花が咲き誇って終わるような素晴らしい演奏でした。

この曲はもともと大好きな曲ですが,その魅力を堪能させてくれるような演奏でした。

前半は,レジェンドたちから指導を受けている,若手奏者による室内楽曲が3曲(いずれも抜粋)演奏されました。こちらも素晴らしい演奏の連続でした。今回の会場の富山市民プラザ アンサンブルホールに来たのは初めてでしたが,その名のとおり,室内楽の「アンサンブル」にぴったりのホールで,各楽器が音が非常によく聞こえる一方,天井が高いこともあり,適度な残響もあり音楽が伸びやかに聞こえてきました。若手奏者たちの演奏には,音楽の緻密さと生きの良さが同居しており,集中して楽しむことができました。



最初に登場した,クァルテット・インテグラは,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第16番の第1楽章と第4楽章を演奏しました。まず冒頭のヴィオラの響きが豊かで,4人が一体となってしなやかで有機的な音楽を作り上げていました。第1ヴァイオリンの思い切りの良い弾きっぷりを中心に,ダイナミックな気分もありました。

第4楽章の方は,音による「謎かけ」みたいな感じで始まりました(ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲に通じる部分もあるかも)。ここでも各楽器の音に力感があり,パシッと揃っているのが素晴らしいと思いました。緊迫感を持って音が絡み合い,途中,耳鳴りを思わせるようなテンションの高い音が連続する辺りが特に印象的でした。北陸地方でベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲を聞く機会は滅多にないので,全曲を聞いてみたかったなぁと思いました。

ラヴェルのヴァイオリン・ソナタは,渋谷優花さんのヴァイオリンの音の鳴り方が素晴らしいと思いました。戸島園恵さんの暖かさのあるバックアップの上で,優雅で健康的な音楽が豊かに響いていました。第3楽章は,無窮動のような生き生きとした音楽でした。しっかり鳴らすと同時にキレの良い音楽が素晴らしいと思いました。

ラヴェルのピアノ三重奏曲は,ピアノの心地良い音に,ヴァイオリンとチェロがくすんだ音で応えて開始。詩的な美しさとミステリアスな空気感を漂わせた演奏でした。儚げな揺らぎを聞きながら,波のようなものを感じました。第2楽章はピチカートで開始後,三者三様の動きで,ダイナミックさのある演奏を聞かせてくれました。

この「とやま室内楽フェスティバル」は,若手アーティストに対しての教育プログラムも行っているせいか,すべてが無料公演というのが特徴です。今回の公演も,無料というのが信じられないぐらいのレベルの高い演奏の連続でした(さすがに入場整理券が必要でしたが)。

この日は17:30ぐらいに金沢を出発したので,間に合うか微妙なところでしたが,無事開演5分前にホールに到着。高速料金は,金沢森本IC〜富山IC片道1260円(軽自動車),それに駐車料金500円(意外に安かったです)ということで,総額約3000円ぐらい掛かったのですが,来年度も行われるのならば,同様の感じで聞きに行っても良いかなと思いました。

PS.この日ですが,「貴重な機会なので,何とかサインをもらおう」と思い,「出待ち」をして,伝説の元東京カルテットの3人から,うまい具合にサインをいただけました。こちらもまた良い思い出になりました。色紙がわりになっているのは,バルトークの弦楽四重奏曲全集です。

(2019/10/29)



公演のポスター


富山市民プラザの外観


富山市民プラザで行われる公演のチラシ。活発に活用されているようでした。

市民プラザ内...何気なく見てみると...バスケットの八村選手(富山県出身)の発言でお馴染みとなった,白えびビーバーが文字通り,山のように積んでありました。