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オーケストラ・アンサンブル金沢第421回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
2019年10月31日(木)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ハイドン/ピアノ協奏曲ニ長調, Hob.XVIII:11
2) ハイドン/交響曲第83番ト短調, Hob.I:83 「めんどり」
3) プロコフィエフ(バルシャイ編曲)/束の間の幻影, op.22(抜粋)
4) ベートーヴェン/交響曲第8番ヘ長調, op.93
5) (アンコール)エルガー/弦楽のためのセレナード〜第1楽章
●演奏
ラルフ・ゴトーニ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
ラルフ・ゴトーニ(ピアノ*1)



Review by 管理人hs  

石川県立音楽堂には5年ぶりの登場となる,ラルフ・ゴトーニさん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演を聞いてきました。10月12日に行われたマルク・ミンコフスキさん指揮によるマイスター定期公演同様,ソリストが登場しない演奏会でしたが(協奏曲は1曲ありましたが,ゴトーニさんの弾き振り),オーケストラの編成は対照的で,ほぼOEKのスタンダード編成(コントラバスが1名増強されていただけ)による,古典派の交響曲を中心とした演奏会となりました。



ミンコフスキさんの時の「フル編成オーケストラ」的OEKの演奏も良かったのですが,今回の「スタンダード編成」OEKによる,熟練のハイドンやベートーヴェンを聞いて,改めて古典派の交響曲の楽しさを実感しました。ゴトーニさんについては,クールな音楽作りの印象を持っていたのですが,この日の演奏を聞いて,旧知の仲間と一緒に暖かみとユーモアのある音楽を作っているような,アットホームな雰囲気を感じました。

前半に演奏された,ハイドンのピアノ協奏曲ニ長調と交響曲第83番「めんどり」では,スッキリと古典的な清潔感も感じさせてくれました。

ピアノ協奏曲は,ゴトーニさんによる弾き振りでした。第1楽章は軽やかでスピード感たっぷりの弦の響きで始まりました。続いて出てくるゴトーニさんのピアノも快活でしたが,しっかりとインテンポで抑制されており,まろやかな美しさを感じました。第2楽章は静かな歌の中に暖かな気分が流れるような演奏でした。平穏の美と豊かさを実感できました。第3楽章には,第1楽章同様の快活さがありましたが,品の良い落ち着きがありました。途中で「ハンガリー風になる」というのは,「ハイドンあるある」といった感じでした。メランコリックな気分になったり,ダイナミックに盛り上がったり,曲想の変化の妙を味わわせてくれました。

交響曲第83番は,ト短調の曲ということで,オッと思わせるようなドラマティックで引き締まった音で始まりました。この日はコントラバスが3人に増強されていたこともあり,低弦のリズムがズシッと効いていました。第2主題になると,スッっと空気が変わったように穏やかな気分になり,「コッコ,コッコ...」というフレーズが弦楽器やオーボエに出てきて「めんどり」的気分になりました。ハイドンの交響曲には,正直を言うと「意味不明」のニックネームが多いのですが,この曲については,「納得のめんどり」だと思います。このシリアスさとリラックスした感じの自然なコントラストが良いなと思いました。楽章の所々で,大きく間を取る部分がありましたが,これも効果的で,精妙で深い味わいを醸し出していました。

第2楽章も「めんどり」に通じるような,「同音連打」で始まりましたが,途中,急に音量がアップする部分があったので,「驚愕」を先取りするような雰囲気もあるなと思いました。第2楽章でフルートが美しいメロディをシュッと聞かせてくれるのも,よくあるパターンです。松木さんのフルートの豊かな音が聞きものでした。

第3楽章は,大らかで優雅に流れるメヌエットでした。この楽章でも途中テンポを落とし,じっくりと慈しむような音楽を聞かせてくれました。第4楽章は,キビキビとした演奏でしたが,慌てた感じはありませんでした。楽章最後の大らかな雰囲気もハイドンらしいと思いました。

振り返ってみるとOEKは,これまで色々な指揮者とハイドンの交響曲を演奏してきました。同じようでありながら,指揮者によって,毎回毎回,違った味わいが出てくるのがとても面白いと思います。

この日のプログラムは古典的な曲が中心でしたが,後半最初の1曲だけは,プロコフィエフの作品で,ルドルフ・バルシャイ編曲による「束の間の幻影」の抜粋が演奏されましたオリジナルは20曲ですが,バルシャイはそのうち15曲を編曲。さらに今回ゴトーニさんは10曲を抽出。何らかの意図があったようです。

1分前後の短いピアノ曲による組曲を弦楽オーケストラ用に編曲した作品で,美しさと同時に,「怪しさ」のようなものが漂っていました。幻想的な曲,ユーモアの感じられる曲。くすんだ感じの曲からバルトークを思わせる激しさのある曲まで,短い時間の間に多彩な表現が詰め込まれており,演奏する方は結構大変だったのではないかと思います。「束の間」というタイトルどおり本当に短い曲が多かったのですが,そのフッと消えてしまう感じが,儚さを表現しているようで,空虚さの中に美しさが漂っているような魅力を感じました。演奏会の流れの中で,不思議な時空間を作っているようでした。

メインで演奏された,ベート-ヴェンの交響曲第8番はいろいろなキャラクターを持った曲で,解釈によっては大変立派で豪快な雰囲気にもなりますが,今回の演奏は,基本的にすっきりと端正に聞かせながらも,神経質な雰囲気はなく,非常に伸びやか。そして,所々,かなり大胆なルバートを入れるなど,「遊び」の感覚がある演奏だと思いました。

第1楽章の冒頭,バシッと開始した後,伸びやかさと同時にカッチリとまとまった端正さを感じました。第2主題でテンポをぐっと落とす辺り,前半のハイドン同様のベテランの味のようなものがありました。ところどころで出てくる,力強いアクセントの付け方にも,独特の雰囲気がありました。

第2楽章は,速めのテンポで軽快に始まりました。キリッと引き締まっているけれども神経質なところはなく,この楽章にぴったりのユーモアがじわじわと感じられました。

第3楽章は,ダイナミックな動きを感じさせる演奏で始まりました。トランペットのくっきりとしたファンファーレ,それを受けるティンパニの音をはじめ,各楽器がしっかり連携しているのが,OEKらしいなと思いました。トリオの部分は,低弦の上でホルンやクラリネットが自在に掛け合いを行います。自発性あふれる生々しい演奏を楽しむことができました。

第4楽章はキビキビとしているけれども,速すぎる感じはなく,くっきりと音楽の表情を聞かせ,歌わせるような演奏だったと思います。途中,色々な楽器の音が立体的に絡み合う部分が非常に雄弁でした。曲の最後の方では,かなり大胆にテンポを変化させており,大らかな遊びの気分がありました。

この日の演奏は,若々しく張り切ったような生きの良い演奏...というよりは,きっちりと切れよく演奏しつつも,随所でしみじみとした味わいを感じさせてくれました。ゴトーニさんの円熟味のようなものを感じさせてくれるような演奏だったと思いました。

アンコールでは,エルガーの弦楽のためのセレナードの第1楽章が演奏されました。ヴィオラが刻むリズムの後,ちょっとメランコリックな気分のある弦楽合奏が続く,大変魅力的な演奏でした。

というわけで,編成的にもプログラム的にも,非常にOEKらしい内容の演奏会だったと思います。パワーや華やかさでアッと言わせるような感じはありませんでしたが,心地良い充実感が後に残るような,非常に味わい深い内容の演奏会でした。

(2019/11/05)



公演の立看


公演のポスター


今回も放送用の収録を行っていました。

終演後,ゴトーニさんのサイン会が行われたので参加。プログラムにいただきました。