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アフターセブンコンサート2019:夜のクラシック第2回
2019年11月19日(火)19:15〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) カサド/親愛なる言葉
2) カッチーニ/アヴェ・マリア
3) ガーシュイン(山本清香編曲)/パリのアメリカ人(チェロ,ピアノ版)
4) 加羽沢美濃/私の初恋
5) ピアソラ/ブエノスアイレスの冬
6) ピアソラ/ブエノスアイレスの秋
7)(アンコール)ポンセ(加羽沢美濃編曲)/エストレリータ

●演奏
宮田大(チェロ*1-3,5-7),ジュリアン・ジェルネ*1-3,5-6, 加羽沢美濃*4,7(ピアノ)
案内役:加羽沢美濃



Review by 管理人hs  

仕事が終わった後,夕食をサッと食べて,石川県立音楽堂で行われた,19:15開始の「アフターセブンコンサート2019:夜のクラシック(夜クラ)第2回」を聞いてきました。このコンサートのコンセプトどおり,開始時間が15分遅いだけで,結構,ゆったりとした気分になるものです。



今回のゲスト・アーティストは,チェロの宮田大さん,司会は加羽沢美濃さん,ピアノは,ジュリアン・ジュルネさんでした。演奏された曲は,「夜クラ」らしく(?),仕事帰りの大人向けの曲にぴったりの,ちょっと粋な感じの曲が並んでいました。カサド,ガーシュイン,ピアソラということで...お酒を飲みながら聞くのにぴったりの,ラテン系+アメリカの音楽が並んでいました。

宮田大さんの演奏を聞くのは初めてだったのですが(トークによると,宮田さん自信,金沢に来るのは今回が初めてだったそうです),まず,その音が素晴らしいと思いました。ご挨拶の代わりに演奏されたカサドの「親愛なる言葉」での,明るく,引き締まった音に一気に引きつけられました。輝かしい響きにもラテン系の曲らしかったですね。チェロの音の密度が高く,その音に浸っているだけで,充実した幸福感のようなものを感じました。

その後,加羽沢さんとのトークになったのですが,実は加羽沢さんは熱烈な宮田さんのファンで,プログラムに書いてなかったカッチーニのアヴェ・マリアが息長く,しっとりと演奏されました。このシリーズでは,お酒についてのトークをするのが定番になっているのですが,宮田さんはビール好きとのこと。お酒を飲むことで,オンとオフを切り替えているとのことでした。

この日のメインのプログラムは,チェロとピアノ用に編曲されたガーシュインの「パリのアメリカ人」でした。昨年のセイジ・オザワ・フェスティバルで演奏して,弾きたいと思ったそうです。編曲者は山本清香さんという方で,今回のツアーのための編曲とのことでした。

オリジナルのオーケストラ版の沸き立つような雰囲気感じはなかったのですが,小粋で品の良い雰囲気が出ていたと思いました。オリジナル版に入っているクラクションの音なども工夫して表現していたのが楽しいですね。中間部のブルースのような雰囲気が特に素晴らしいと思いました。内向的であると同時に,粋でしっとりとした情感が息の長いフレーズでしっかりと表現されていました。第3部のチャールストンのようなリズムになる部分も,オリジナルのトランペットの音に比べると,とても上品に感じました。軽快な気分が続いた後,最後,熱く歌い上げる辺りが良いなと思いました。

その後,加羽沢さんが宮田さんをイメージした作曲したピアノ曲(その名も「私の初恋」)が演奏されました。どこかドビュッシーの曲を思わせるような,ちょっと滲んだような空気感の漂う,魅力的な作品でした。

最後にピアソラの「ブエノスアイレスの冬」と「ブエノスアイレスの秋」が演奏されました。抒情的でほのかに甘い雰囲気が漂う「冬」と,野性味や躍動感が溢れる「秋」。そのコントラストが面白いと思いました。

「冬」の方は,ゆったりとしたロマンティックな気分を湛えながら,流れよく聞かせてくれました。最後の方,パッヘルベルのカノンのような感じになりますが,そういった部分での繊細な気分も素晴らしいと思いました。これは演奏会全体を通じて感じたのですが,ジュリアン・ジェルネさんのピアノの音には,透明感のある美しさがありました。特にピアソラのこの曲にぴったりだと思いました。

「秋」の方は,お二人とも楽器を叩く部分が入ったり,特殊奏法が入ったり,ピアソラらしい激しさがありました。タンゴというかブルースのような感じになる部分での「怪しさ」も良いなぁと思いました。

アンコールでは,加羽沢さんと宮田さんのデュオでポンセの「エストレリータ(小さな星)」が演奏されました。オリジナルはヴァイオリン用の曲ですが,チェロで演奏すると...夜の星(当たり前か...)という感じになりますね。クリーミーな声による大らかな歌を聞くような素晴らしさ。このコンサートにぴったりの(アルコールを飲みたくなるような)気分を残しつつ,演奏会を締めてくれました。

加羽沢さんは,宮田さんの演奏について「期待以上に素敵に着こなしてくれる方」とおっしゃられていましたが,まさにそのとおりで,仕事が終わった後,気分を変えてしっかりと別世界に連れて行ってくれるような公演でした。

終演後,宮田大さんとジュリアン・ジェルネさんのサイン会が行われました。宮田さんがトークの中で,自身の新譜のエルガーのチェロ協奏曲(10月30日発売)とジェルネさんの「vinophony」というアルバム(ワインと音楽の融合というコンセプトのアルバム)の紹介をされたこともあり,コンサートの魅力に寄ったお客さんで大盛況でした。

 

 銀色のサインが宮田さん,左下がジェルネさんのサイン

まだ火曜日ということで,お酒を飲むことなく,真っ直ぐ家に戻ったのですが,とてもリラックスした気分にさせてくれる演奏会でした。宮田さんのチェロは,また是非実演で聞いてみたいと思います。

(2019/11/24)



公演の立看板。11月の公演2つ分。


公演のポスター。夜のクラシックの2回分共通です。


公演の案内



音楽堂のお隣の,ANAクラウンホテルもクリスマス仕様。ツリーも出ていました。