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第48回きらめきコンサート 〜イタリアに憧れて〜
2019年12月21日(土)14:00〜 金沢市安江金箔工芸館 多目的展示ホール

シュニトケ/古典様式による組曲
タルティーニ/ソナタ「悪魔のトリル」
ストラヴィンスキー/イタリア組曲
(アンコール)プニャーニ/ラルゴ・エスプレッシーヴォ
●演奏
江原千絵(ヴァイオリン),白河俊平(ピアノ)



Review by 管理人hs  

2019年最後の「演奏会通い」は,金沢市安江金箔工芸館で行われた,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)首席第2ヴァイオリン奏者の江原千絵さんとピアノの白河俊平さんによる,「きらめきコンサート:イタリアに憧れて」でした。

 公演のプログラム

金箔工芸館では,入口付近の多目的スペースを使って定期的にミニ演奏会を行っており,今回で48回目になります。金沢市内には色々な博物館や文芸館があり,金沢蓄音器館などでも定期的に公演を行っていますが,スペース的には金箔工芸館のこのスペースがいちばん行いやすいのではないかと思います。


椅子も金色。江原さんの使っていた譜面はかなりの横長。楽章を続けて演奏したいためとのことでした。

プログラム(+曲目解説も)は,江原さんが考えたもので,とてもよく考えられたものでした。サブタイトルは,「イタリアに憧れて」でしたが,演奏された3曲は,バロック〜古典派的な雰囲気を持つイタリア的な雰囲気のある3曲で,見事に統一感が取れていました。

最初のシュニトケの「古典様式による組曲」だけは,イタリアと一見関係なさそうでしたが,最後に演奏されたストラヴィンスキーの「イタリア組曲」と同じようなアイデアで書かれた曲で,現代の作曲家が過去の作品に,新鮮な光を当てて,蘇らせたような新古典派的な気分がありました。最初のシュニトケは,OEKの小松定期公演・秋で,弦楽合奏版を聞いたばかりでしたので,その点でも,ストラヴィンスキーの「プルチネルラ」と,それをヴァイオリンとピアノ用に編曲して「イタリア組曲」としたパターンと似ているなと思いました。

今回聞いた場所は,かなり前の方だったこともあり,ヴァイオリンとピアノの音を本当に間近で聞くことができました。白川さんのピアノの音は,会場内にたっぷりと染み渡り,江原さんの音は,曲想の変化に合わせて,多彩なニュアンスの変化を楽しませてくれました。シュニトケもストラヴィンスキーも,大半は明るく心地良い響きなのですが,特にシュニトケの方では,小松定期で聞いた時同様,突然不協和音が長く出てきて,音楽の雰囲気が一転するなど,捻りが効いていました(江原さんによる解説には「シュニトケらしい突発的な不協和音」と書かれていましたが,ぴったりの表現だと思います)。江原さんのヴァイオリンの音には,甘さよりは,引き締まった密度の高さのようなものがあり,これらの曲想にマッチしていると思いました。

ストラヴィンスキーの「イタリア組曲」は,バレエ版の「プルチネルラ」の方が有名かもしれません。イタリアの古典的な道化劇に音楽を付けたもので,最後はめでたし,めでたしという音楽なのですが,古典組曲に入っているような多様なテンポ,ムードの曲が連続しており,冒頭の伸びやかなメロディから,最後のしみじみと幸福感を噛みしめるようなフィナーレまで,純粋に生き生きとした音楽の世界を楽しむことができました。

間近で聞くと本当にささやいているように聞こえたセレナータでは,ピアノの音型に鐘のような音が聞こえてきて面白いなと思いました。変奏曲付きガボットは,昔から好きな曲です。ヴァイオリンの音色の変化がしっかりと楽しむことが出来ました。

この2曲の間に演奏されたのが,タルティーニのヴァイオリン・ソナタ「悪魔のトリル」でした。江原さんのトークによると,「ヴァイオリニストならば,一度は取り上げてみたいと思う曲」ということで,満を持しての演奏でした。この曲は,純正のバロック〜古典派の曲ですが,「夢の中に悪魔が出てきて...」というエピソードがある点で,ロマン派的なアプローチも可能な曲かもしれません。実際,クライスラー版というのもあるようですが,今回の演奏は,センチメンタルな気分にはならず,快活さと壮麗さが交錯するような聴きごたえのある演奏を聞かせてくれました。

最初の楽章は,シチリアーノ風だったのですが,シュニトケの組曲の最初の曲もパストラーレで,少し似た感じだったので,その点でも「連想ゲームのようにつながった良いプログラムだなぁ」と思いました。

アンコール演奏されたのも,イタリアの作曲家プニャーニによる,ラルゴ・エスプレッシーヴォという甘いデザートのような小品でした。我が家では,今年はクリスマスケーキを食べなかったのですが,この夢見るようなムードは,クリスマス直前の気分にもぴったりだと思いました。

今回の公演は江原さんのトークも歯切れが良く,気持ちよく楽しむことができました。白河さんは,江原さんにとっては,「ほとんど我が子のような感じ」とのことで,これからの活動を応援したいとのことでした。今回の選曲は,「古くて新しいイタリア・プログラム」でしたが,是非また,一捻りあるデュオの続編に期待したいと思います。


次回の案内チラシが同封されていました。クラリネット,ホルン,ピアノによる「春を待つ」気分のコンサートです。

(2019/12/30)




公演の案内


金箔工芸館の外観


この日,2階の展示室で行っていた展示のポスター。演奏会の入場者は自由に見ることができました


家具は金色だらけです。


どんな音なのか聞いてみたくなるような蓄音器。畳に妙にマッチしていました。


終演後,浅野川大橋から上流を眺めてみました。枯れた風景もなかなか良いですね。