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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2019
春待つ北ヨーロッパからの息吹:北欧とロシアの音楽:グリーグ,シベリウス,チャイコフスキー,ショパン

【4月29日の公演】

Review by 管理人hs  

「いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭(ガル祭)」は,年々,プレイベントの方が充実してきている印象がありますが,例年どおり,4月29日の午後から石川県立音楽堂コンサートホールでオープニングコンサートが行われました。



OP オープニング コンサート
14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) グリーグ/劇付随音楽「ペール・ギュント」〜「朝」「山の魔王の宮殿にて」
2) 團伊玖磨/祝典行進曲
3) シベリウス/2つのユモレスク
4) ムソルグスキー/蚤の歌
5) グリーグ/劇付随音楽「ペール・ギュント」〜「ソルヴェイグの歌」
6) モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」〜「お手をどうぞ」
7) ショパン-ゴドフスキー/練習曲 op.10-3
8) ショパン/アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ〜後半部
9) チャイコフスキー/バレエ音楽「白鳥の湖」〜ロシアの踊り
10) チャイコフスキー/バレエ音楽「眠れる森の美女」〜ワルツ
11) シベリウス/交響詩「フィンランディア」
12) (アンコール)アルヴェーン/スウェーデン狂詩曲第1番

●演奏
ユベール・スダーン指揮オーケストラ・アンサンブル金沢祝祭管弦楽団(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)*1-6,8-12
アン=クリスティン・ジョーンズ(メゾソプラノ*5-6),森雅史(バス*4-5),内藤淳子(ヴァイオリン*3),ステファン・ヴァズズィッキ*7,白澤あまね*8(ピアノ)
バレエ:金丸明子バレエスタジオ、横倉明子バレエ教室*9-10
司会:池辺晋一郎,木村綾子

オープニングセレモニーでは,実行委員長の前田利祐氏から「今後,実行委員長は池辺晋一郎さんに交替します」とのお知らせがあいさつの中であった後,そのまま池辺さんが司会となってオープニング・コンサートとなりました。このオープニングの式典ですが...池辺さんが委員長になるのを機会にもう少しカジュアルな感じに見直してもらった方が音楽を聞きに来ている側としては嬉しいかなと思います。



オープニング・コンサートは,音楽祭のダイジェストのような充実した内容のガラコンサートとなっていました。オーケストラは,例年どおり,楽都音楽祭用にメンバーが増強された「オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)祝祭管弦楽団」。指揮はユベール・スダーンさんでした。

まず,音楽祭のテーマに合わせてグリーグの「ペール・ギュント」組曲から2曲。スダーンさんらしく,大げさ過ぎないけれども,迫力十分の音楽。「朝」では松木さんのフルートの清潔感,「山の魔王の宮殿にて」ではファゴットや低弦の迫力をしっかり味わえました。

團伊玖磨の祝典行進曲は,平成の天皇陛下の御成婚の時の音楽。どっしりとした風格のある行進曲です。代替わりのタイミングに合わせての選曲でした。今回,管弦楽用にアレンジした演奏で,中間部での行進曲らしからぬ流麗さが特に印象的でした。

金沢出身で,現在はロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の第1ヴァイオリンで活躍する内藤淳子さんを独奏によるシベリウスの2つのユモレスクは,実は初めて聞く曲でした。少しメランコリックな雰囲気に加え,少しクールなムードがある曲でしたので,内藤さんにぴったりだと思いました。2番の方は,少しタイプが違い,細かい音の動きが中心の曲でしたので,「北欧の妖精の踊り」といった感じがあると思いました。

続いては,声楽曲のコーナー。金沢ではおなじみの,富山県高岡市出身のバス,森雅史さんによる芝居っ気たっぷりの「蚤の歌」(日本語での歌唱がぴったり来ると思いました)の後,エーテボリ歌劇場専属のメゾ・ソプラノ,アン=クリスティン・ジョーンズさんが登場し,リアルに北欧の空気が伝わってくるような「ソルヴェイグの歌」を聞かせてくれました。独特の透明感をまとった不思議な魅力が伝わってきました。

このコーナーの最後では,昨年のガル祭のオープニングでも歌われた,モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」の中の「お手をどうぞ」。ツェルリーナは本来,「軽めのソプラノ」の役柄ですので,「大は小を兼ねる」といったところでしょうか?最後は,かなり大柄のジョーンズさんが,ドン=ジョヴァンニ役の森さんを引っ張っていく感じで終了。

その後はピアノのコーナー。今回のガル祭の,チェックポイントの一つが「左手のピアニスト」の参加です。オーディションで選ばれた4人のピアニストと,舘野泉さんが今回参加していました。オープニングコンサートでは,ステファン・ヴァルズィッキさんが登場し,ゴドフスキーが左手用に編曲したショパンの「別れの曲」が演奏されました。

中間部では多少オリジナル版よりダイナミックさが不足するかなと思いましたが,非常に豊かな音による演奏でした。ゆったりとした間を取っており,オリジナルにない魅力も感じました。

続いてこちらもガル祭のためのオーディションで選ばれた,地元出身の若手ピアニスト,白澤あまねさんが登場し,ショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」の後半(ポロネーズの部分)が演奏されました。この地元アーティストの活躍もガル祭のコンセプトの一つです。白澤さんのピアノはとても軽やかかつ繊細。タイトルどおりの華麗な空気感もありました。

その後,チャイコフスキーのバレエ音楽から2曲演奏されました。プログラムには地元のバレエ・スクールの名前が出てくるので,「そろそろ出番かな?」「ステージが狭いけれどどうなる?」などと思いながら見ていると...オーケストラの前のスペースに加え,パイプオルガンの前のステージ,さらには客席まで使っていました。場所が狭くて大変だったと思いますが,ロシア風の衣装や優雅なドレスをまとったダンサーがホール内に散らばりましたので,会場内はとても華やかな雰囲気になりました。

「白鳥の湖」の中の「ロシアの踊り」では,コンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさんのヴァイオリンが大活躍でした。濃厚なロシアの歌を聞かせてくれました。「眠りの森の美女」のワルツは定番中の定番のワルツですね。しあわせ感いっぱいの演奏と踊りでした。

最後に演奏されたシベリウスの「フィンランディア」は,金管楽器の引き締まった力強いアンサンブルで始まった後,勢いのある音楽が続きました。終結部はスパッと切るように終わっており,非常に爽快に締めてくれました。

アンコールでは,アルヴェーンのスペイン狂詩曲第1番が演奏されました。



池辺さんは「日本のある曲とそっくりです」というコメントを付けていましたが...正解は「きょうの料理」のテーマ曲でしょうか。ちなみに,ここでは,いわゆる「イージーリスニング」のジャンルでよく演奏される編曲版が演奏されていました(オリジナル版の方は,本公演中でエーテボリ歌劇場管弦楽団が演奏していました)。

以下終演後のホール内の様子です。







*

この日は,一旦帰宅後,夕食後再度,出直してきて「夜の部」の「市民オーケストラ&市民合唱団の祭典」を聞いて来ました。

C01 市民オーケストラ&市民合唱団の祭典
19:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ムソルグスキー(ラヴェル編曲)/組曲「展覧会の絵」
2) ヴェルディ/歌劇「トロヴァトーレ」〜アンヴィル・コーラス
3) ヴェルディ/歌劇「ナブッコ」〜行け,我が思いよ,金色の翼に乗って
4) ビゼー/歌劇「カルメン」〜ハバネラ
5) マスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」〜間奏曲
6) プッチーニ/歌劇「蝶々夫人」〜ハミングコーラス
7) ヴェルディ/歌劇「アイーダ」〜凱旋行進曲
8) ヴェルディ/歌劇「椿姫」〜乾杯の歌

●演奏
小松長生指揮楽都音楽祭市民オーケストラ
アン=クリスティン・ジョーンズ(メゾ・ソプラノ*4),石川公美(ソプラノ*8),近藤洋平(テノール*8)
合唱:楽都音楽祭市民合唱団*2-3,6-8


「市民オーケストラ&市民合唱団の祭典」も,ガル祭になってから加わったプログラムですね。前半は石川県内の市民オーケストラの有志メンバーによる「展覧会の絵」,後半はガル祭のために公募で編成された市民合唱団との共演によるイタリア・オペラの合唱曲を中心としたプログラムでした。


まず「展覧会の絵」です。小松長生さんの指揮は,冒頭から速いテンポでグイグイ攻めてくるような演奏で,多少アラはありましたが,曲のクライマックスでグッと燃えるような,熱い演奏でした。

それにしても「展覧会の絵」では,トランペットが大活躍しますね。遠くから見ると「エリック宮城?」という雰囲気の方がハイトーンをしっかり聞かせてくれ,拍手喝采を受けていました。「古い城」では,アクィユ・サクソフォーン・カルテットの方がサクソフォーンを担当されていましたが...これは是非,リーフレットにお名前をクレジットしておいて欲しかったところです。余裕たっぷりの心地良い歌を楽しませてくれました。

その後の曲でも,「ブイドロ」でのユーフォニウム(多分),「殻をつけたひなの踊り」のフルートやオーボエ,「カタコンブ〜死者とともに」のトランペットなど,生だと特にソロ・パートの生々しい音を楽しめる曲ばかりです。「バーバ・ヤーガの小屋」では,がっちりとした迫力のある音が見事でした。中盤以降,チェレスタであるとかコントラファゴットであるとか,色々な音が出てきて,改めて,ラヴェルのオーケストレーションの素晴らしさを味わうことができました。

最後の「キエフの大門」でも,大げさになり過ぎず,しっかりとした音楽を聞かせてくれていたのですが,最後の最後の部分で,指揮者のパッと「火」を付けたような感じで音楽が燃え上がったのが素晴らしかったですね。素晴らしい反応だと思いました。

後半はイタリアオペラの合唱曲やアリアを中心とした構成でした。ガル祭の今年のテーマの「北欧」とは真逆の世界ですが...この辺は堅いこと抜きでしょうか?

まず,ヴェルディの「トロバトーレ」のアンビル・コーラスで始まりました。合唱団の声,特に男声合唱が元気で,聞いている方も元気になりました。「ナブッコ」の「行け,我が思いよ...」も,小松さんの指揮の下,のびのびと率直に盛り上がる歌を聞かせてくました。

その後,オープニング・コンサートに続いて,メゾ・ソプラノのアン=クリスティン・ジョーンズさんが登場し「カルメン」のハバネラを歌いました。オープニング・コンサートの時は3階だったのですが,今回は2階席で聞いたこともあり,声の美しさや艶だけでなく,余裕たっぷりの豊かな声量もしっかりと味わうことができました。

マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲は速めのテンポで,くっきりと聞かせてくれました。この市民オーケストラですが,弦楽器のトップにはOEKメンバーが加わっていましたので,音に芯の強さがあるような気がしました。

プッチーニの「蝶々夫人」のハミング・コーラスは,少々高音が苦し気でしたが,この曲独特の美しさは伝わってきました。ちなみに,この曲を聞くと,使っている音階のせいか,何となく沖縄の曲を聞いている気分になります。

続く「アイーダ」の凱旋行進曲は,後半のハイライトでした。前半に続き,ここでもトランペット大活躍でした。通常のステージの2人に加え,オルガンステージに6人のバンダが配置し,気持ち良い音を聞かせてくれました。そして,ここでも小松長生さんが燃えるような盛り上げを作っていました。ギアを入れ替えてスピードアップするような,音楽の切り替え方が見事でした。

演奏会の最後は,石川県ではおなじみのテノールの近藤洋平さんとソプラノの石川公美さんの歌を加えて,「椿姫」の中の「乾杯の歌」で締められました。音楽祭のスタートを盛り上げるような晴れやかな歌でした。アンコールでもう一度,「アイーダ」の凱旋行進曲の最後の部分が演奏されて公演は終了しました。

終演は21:00過ぎになりましたが,会場には親子連れも多く,皆さん気持ちよく楽しんでいるようでした。これもまた,連休ならではです。




以下は,4月30日と5月1日に行われた公演のポスターです。


(2019/05/14)