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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2019 レビュー・トップページ
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2019
春待つ北ヨーロッパからの息吹:北欧とロシアの音楽:グリーグ,シベリウス,チャイコフスキー,ショパン

【 5月3日 本公演1日目の公演】

Review by 管理人hs  



本公演1日目も素晴らしい好天。まず午前中,石川県立音楽堂邦楽ホールで行われたリチャード・リンさんのヴァイオリンとミヒャエル・バルケ指揮OEKの公演へ。



H11 10:50〜 石川県立音楽堂邦楽ホール

1) シベリウス/「カレリア」組曲
2) チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調

●演奏
ミヒャエル・バルケ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
リチャード・リン(ヴァイオリン*2)

この共演ですが,何と言ってもリンさんの独奏によるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の驚きの鮮やかさに感激しました。演奏後はOEKメンバーも感心しきっている様子でした。リンさんは「真面目な好青年」といった雰囲気の方ですが,演奏の方もそのとおりで,時々,甘い気分を加えながらも,くっきりと雄弁な音楽を聞かせてくれました。邦楽ホールで聞いたこともあり,音がとてもよく聞こえ,名前どおりの「LIN」とした若々しい音に浸ることができました。

第2楽章の強靱さのあるカンタービレも素晴らしかった野ですが,唖然とするほど安定感のある急速な第3楽章もお見事でした。スピード感たっぷりで,白熱した感じもするのに,音楽に崩れたところのないのが素晴らしかったですね。この演奏にピタリと付けたOEKの演奏も見事でした。

最初に演奏された,シベリウスの「カレリア」組曲も気持ちの良い演奏でした。第1曲冒頭の弦楽器のトレモロとそれに続いて出てくるホルンの遠近感。臨場感たっぷりでした。第2曲「バラード」でのイングリッシュホルンなどの木管楽器の甘くほの暗い響きも大変魅力的でした。第3曲「行進曲風に」での軽やかの弾み方。いつものコンサートホールとは違う場所での演奏でしたが,ホールに応じたバランスで演奏しており,さすがOEKだと思いました。

 

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音楽堂前広場では,かがやきブラスさんが演奏中。このグループもすっかり常連ですね。金管アンサンブルと金沢駅にぴったりの「かがやき」というネーミングも素晴らしいのですが、トークも最高でした。



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その後,昼食を食べるために,もてなしドーム地下広場に行って,「北欧とロシアの広場」の様子を見てきました。この広場については,もう少し外光が入ると開放的な気分になるのですが,昨年までとは一味違う店舗が並んでいて,是非来年以降も継続して欲しいなと思いました。







というわけで,金大吹奏楽部の演奏を聞きながら,ビーフストロガノフを食べてみました。






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その後,本日は夜の公演に備えて,一旦帰宅しようと思ったのですが...「石川県立美術館では,IMA受講生による弦楽四重奏の演奏をしているはず」ということを思い出し,寄り道をして,石川県立美術館へ。


13:00〜 石川県立美術館ロビー
石川県立美術館公演

モーツァルト/アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク〜第1楽章
チャイコフスキー/アンダンテ・カンタービレ
ドビュッシー/弦楽四重奏曲ト短調, op.10
●演奏
いしかわミュージックアカデミー弦楽四重奏団(三澤響果,菊野凜太郎(ヴァイオリン),藤原右京(ヴィオラ),菊地杏里(チェロ))

演奏曲目の方は,ドビュッシーの弦楽四重奏曲の全曲が演奏されるなど,音楽祭のテーマからはかなり外れていましたますが,どれも大変熱のこもった演奏でした。4人の若手奏者の個性がぶつかって,色々な構築物を作り上げているようでした。特にドビュッシーについては,美術館で聞いたせいか,4枚の絵を観たような聞きごたえがありました。



ちなみに...第1ヴァイオリンとチェロが女性,第2ヴァイオリンとヴィオラが男性という編成は,数年前に放送されたドラマ「クワルテット」での設定と同様でしたね。

それにしても,音楽祭期間中の金沢市内は,どこに行っても緑が鮮やかで美しかったですね。何をするにも絶好の気候といった感じした。



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家で一休みした後,夕方からは,ギドン・クレーメルのヴァイオリン独奏の公演へ。

H13 16:10〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
失われた時間のための前奏曲

ヴァインベルク(クレーメル編曲)/24の前奏曲(ヴァイオリン版)
●演奏
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)

演奏されたのは,ワインベルクの24の前奏曲(クレーメル編曲によるヴァイオリン版)でした。A.ストゥクスのモノクロ写真が投影される中,1時間近く息が苦しくなるような世界が展開する公演で,恐らく賛否両論あったかと思います。


写真の方はコントラストの強いモノクロ写真ばかり。モチーフは,人物を正面から撮ったような写真が中心でした。何か深いことを考えていそう...という雰囲気が伝わったのですが,全体のコンセプトをしっかり理解できなかったので,写真についてはもう少し補足説明が欲しかったな,と思いました。

ワインベルクの音楽の方は,最初シンプルな感じの音楽かなと思ったのですが,同じ音型の繰り返しが多く,親しみやすいメロディが出てこなかったので,聞いているうちに段々と鬱々とした気分になってきました。写真の雰囲気やポーランドという国の歩んできた歴史などを考えると,「苦しみ」を表現しているのかなと感じました。

途中,ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番(?)の冒頭のモチーフが出てきた気がしました。ショスタコーヴィチの音楽に通じる密度の高い息苦しさが特徴的だと思いました。

それにしてもクレーメルさんはタフです。多彩な奏法を駆使しながら,ヴァイオリン1本で表現しつくすエネルギーは凄いと思いました。難解な作品ではありましたが,クレーメルさんの音の引き出しを全部聞いたような聴きごたえのある公演だったと思います。

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その後,この日初のコンサートホールへ。

C14 17:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) グリーグ/演奏会用序曲「秋に」
2) ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番ハ短調
3) (アンコール)ラフマニノフ/「音の絵」第5番,op.39

●演奏
ヘンリク・シェーファー指揮エーテボリ歌劇場管弦楽団*1-2
バリー・ダグラス(ピアノ*2-3)




最初にグリーグの演奏会序曲「秋」という曲が演奏されたのですが,エーテボリ歌劇場管弦楽団の音に鋼のような重さがあるなと思いました。かなりの大編成だったこともありますが,オーケストラの音色の違いを味わうのもこの音楽祭の楽しみの一つです。曲自体も,少し「ペール・ギュント」を思わせるところのある親しみやすい曲でした。

続いて,バリー・ダグラスさんをソリストに迎えて,ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番が演奏されました。ダグラスさんのピアノは軽く弾いているようでいて,よく響く音でした。オーケストラの音は,第1曲同様,何とも言えない重さ・強さがあり,この曲にぴったりだと思いました。どこかビロードの絨毯の上をゆっくり進んでいくような贅沢さを感じました。ヘンリク・シェーファーさん指揮による息の長〜いメロディの歌わせ方もスラヴ的だなと思いました。

ダグラスさんのピアノを聞いていると,どこか男のロマン(?)のようなものを感じました。器用な感じはしないけれども,常に落ち着きがあり,思いの強さがこもっていました。第3楽章も貫禄たっぷりの演奏で,オーケストラともども,線の太い音楽がしなやかに流れていきました。

それにしても,初めて聞くエーテボリの音は魅力的でした。エーテボリ歌劇場管弦楽団は,昼の公演で,「展覧会の絵」を演奏したはずです。これはどんな演奏だったのでしょうか。今回は協奏曲中心で前売券を買っていたのですが,次の日のチャイコフスキーの4番の公演も聞きに行くことをここで決意しました。
 

*

そして,本公演1日目の締めは,ガル祭名物のピアノ・チクルス公演へ。交流ホールには半券で入れるのがありがたいですね。

K12 石川県立音楽堂交流ホール
ショパン ピアノ名曲チクルス第1夜

公演の途中だったこともあり,ホールに行ってみると,大入りでした。交流ホールは固定座席はないので補助席を次々出せると思いますが,最後列になってしまいました。

休憩後は,お客さんがかなり入れ替わったので,次の写真ぐらいの場所に移動。


この日はショパンのワルツ,練習曲,即興曲を中心のプログラムでした。一見,ピアノの発表会的だったのですが,その中に,ゲオルギス・オソーキンス,若林顕,藤田真央といったピアニストが参加しているところが面白い点です。この3人は次の曲を演奏しました。

ゲオルギス・オソーキンス
ショパン/ノクターン第20番嬰ハ短調遺作

若林顕 
ショパン/ノクターン第3番ロ長調,op.9-3

藤田真央
ショパン/練習曲第12番ハ短調,op.10-12「革命」

こうやって次々と並べて聞くと,やはり世界で活躍しているピアニストの音や表現や技の凄さが実感できます。オーソキンスさんの磨き抜かれた音。若林さんの演奏の高級な車に乗って音楽を楽しんでいるような安心感。藤田さんの演奏の切れ味の素晴らしさ。それぞれ1曲ずつでしたので,翌日以降の公演への絶好のプロモーションになっていました。

それに加え,木米真理恵さんなど実力のある地元アーティストの演奏も楽しむことができました。

というわけで,色々なピアニストの演奏を次々と楽しんでいるうちに,(SMAPではありませんが)各奏者はそれぞれ色々な「花」を持っているのだなぁと実感できました。このチクルスの面白いところだと思います。

さて,石川県立音楽堂前広場の王者(?)といえば,エーデルワイス・カペレです。この日も遅くまで多くのお客さんと盛り上がっていました(以下の写真は,もう少し明るい時に撮影してものです)。

何となく北欧・ロシアと関係なさそう?と勝手に思っていたのですが,しっかりテーマに合わせており,入口付近からは,ショスタコーヴィチの昔懐かし風ワルツが聞こえてきました。アコーディオンが入ると雰囲気が盛り上がりますね。これを聞きながら帰路につきました。

ホテル日航側に向かったところ,車椅子に乗った舘野泉 さんに遭遇。「明日聞きに行きます!」と言いたかったのですが,突然だったので声にならず残念。


邦楽ホールに向かう途中には,「ステッセルのピアノ」も展示中


恒例のガル祭の写真コーナー。スタートしたばかりです。


(2019/05/14)