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オーケストラ・アンサンブル金沢第423回定期公演フィルハーモニーシリーズ
ニューイヤーコンサート2020
2020年1月11日(土)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲
2) モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」〜むごい女よ!言わないで,私の愛しい人よ
3) モーツァルト/アイネ・クライネ・ナハトムジーク, K.525〜第1楽章
4) ヴィヴァルディ/協奏曲集「四季」〜「冬」op.8-4 第2楽章
5) ヘンデル/歌劇「アタランタ」〜いとしの森よ
6) ヘンデル/歌劇「セルセ」〜序曲,ジーグ
7) ヘンデル/歌劇「セルセ」〜なつかしい木陰よ(オンブラ・マイ・フ)
8) モーツァルト/アイネ・クライネ・ナハトムジーク, K.525〜第2楽章
9) ヘンデル/歌劇「リナルド」〜涙の流れるままに
10) オッフェンバック/バレエ音楽「パリの喜び」(抜粋)(序曲,第2曲 ポルカ,第6曲 アレグロ,第8曲 ワルツ,第23曲 舟歌,第22曲 ヴィーヴォ(カン・カン)
11) モンティ/チャールダーシュ
12) シュトラウス,J.II/田園のポルカ, op.276
13) シュトラウス,J.II/ポルカ「雷鳴と電光」op.324
14) シュトラウス,J.II/ワルツ「美しく青きドナウ」op.314
15) (アンコール)シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲

●演奏
ユベール・スダーン指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング),森麻季(ソプラノ*2,5,7,9),アビゲイル・ヤング(ヴァイオリン*4, 11)



Review by 管理人hs  

2020年最初の公演,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のニューイヤーコンサートを石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてきました。今年の指揮はプリンシパル・ゲストコンダクターのユベール・スダーンさん,ソリストとしてソプラノの森麻季さん,OEKの第1コンサートマスターのアビゲイル・ヤングさんが登場しました。



ニューイヤーコンサートについては,毎年,通常の定期公演とは少し違う趣向が凝らされていますが,今回は特にスダーンさんらしさが出ていたと思いました。前半は森麻季さんの得意のレパートリーを中心とした,バロック〜古典派のオペラ・アリア中心。後半は今年が没後140年(昨年は生誕200年でした)となるオッフェンバックの「パリの喜び」の抜粋の後,シュトラウス・ファミリーの音楽。その間に,ヤングさんのソロを交えた小品を数曲,といった構成でした。

カメラの調子が悪く(=良いカメラでないので...)すべてピンボケです。






色々な時代,ジャンルの小品中心ということで,雑然とした感じになるのかなとも思ったのですが,スダーンさんは意図的に多彩な小品の組み合わせの妙を楽しませようとしていたように思いました。モーツァルトのアイネ・クライネ・ナハトムジークの第1楽章と第2楽章を別々に演奏してその間に別の曲を入れたり,ヴィヴァルディの「四季」の「冬」の第2楽章だけを演奏したり...約2年前の北谷直樹さん指揮による,パスティッチョ特集の定期公演を思い出しました。

というわけで,曲と曲の間に何回も拍手が入りましたが,これも敢えてそういう形にしていたようで,拍手を積み重ねていきながら,新年のコンサートに相応しいお祭り感が自然に盛り上がっていくようでした。それでいて,全体がビシッとしまっていたのは,やはりスダーンさんの熟練の指揮の力だと思いました。OEKならば指揮者なしでも演奏できそうな弦楽合奏の曲もかなりありましたが,スダーンさんはきっちりリズムを取って指揮をするというよりは,曲のイメージを明確に示すような熟練の指揮ぶりで,どの曲についても,音楽の自然な勢いがあり,曲想に応じたメリハリが鮮やかにつけられていました。

前半は,モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲で始まりました。そういえば,約1年前,富山市のオーバード・ホールで井上道義さん指揮OEKで「ドン・ジョヴァンニ」の全曲を聞いたなぁといったことを思い出しました。スダーンさん指揮による演奏は,暗く深刻になるところはなく,コンパクトにかっちりとまとまった古典派の作品らしい音楽を聞かせてくれました。続いて,森麻季さんが登場しました。森さんが歌ったのは,同じ「ドン・ジョヴァンニ」中のドンナ・アンナのアリアでした。森さんの声質は軽い方なので,この曲を歌う機会は少ないと思いますが,透明感と精緻な丁寧さのある声は,いつもどおり素晴らしかったですね。その声を聞きながら,時節柄,つきたての餅(?)などを思い出してしまいました。柔らかで滑らかさのある歌の中に,ぞくぞくさせてくれるような艶っぽさもあり,このアリアにぴったりだと思いました。前半のじっくりとした感じを受けて,後半にコロラトゥーラが入る構成で,とても聞き応えがありました。

続いて,モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の第1楽章が演奏されました。考えてみると,この曲をOEK全体で演奏する機会は意外に珍しいことです(弦楽四重奏など室内楽編成で演奏されることの方が多いかも)。この演奏ですが,速めのテンポで元気よく始まった後,曲想が変わるごとにくっくりと表情の変化が付けられていました。さすがOEKという演奏だったと思います。

その後に演奏されたのが,ヴィヴァルディの「冬」の第2楽章でした。アビゲイル・ヤングさんはコンサートマスターの席から立ち上がって演奏。今さらですが,「ヤングさんはすごい」と感じさせてくれるような演奏でした。堂々たる貫禄を持った,全くブレのない演奏。速めのテンポで流れるようにぐいぐい聞かせてくれました。低弦のリズムも生き生きと弾んでいました。

前半最後のパートでは,再度,森麻季さんを加えて,ヘンデルのオペラの中の曲を中心に演奏されました。歌われたのは,歌劇「アタランタ」の中の「いとしの森よ」,歌劇「セルセ」の中の「なつかしい木陰よ(オンブラ・マイ・フ)」,歌劇「リナルド」の中の「涙の流れるままに」でした。森さんの十八番の曲ばかりだったと思います。高音の弱音の美しさ,常にしなやかさのあるメロディライン。かゆいところに手の届くような,心地よさと親しみやすさのある歌でした。特に,最後に歌われた「リナルド」のアリアでの輝きのある声と落ち着いた雰囲気は絶品でした。

森さんは,前半の最初は,青いドレスでしたが,「オンブラ・マイ・フ」から後は,赤い花をあしらったドレスに着替えて登場。ニューイヤー・コンサートの時は,毎年ステージ上に花が並んでいるのですが,その色合いと見事にコーディネートされており,華やかな気分をさらに盛り上げてくれました。



このコーナーですが,「セルセ」の序曲とジーグの演奏も良いなぁと思いました。昨年末に聞いたヘンデルの「メサイア」の序曲もそうなのですが,キリッと締まった「付点リズム」を聞くと,妙にテンションが上がります。ちょっとぶっきらぼうな感じが最高ですね。続く,ジーグの部分での軽快な音の流れも心地良いものでした。

このヘンデル特集の中に1曲だけ,間奏曲のような感じで,モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の第2楽章が入っていました。こういう使い方も面白いと思いました。

プログラムの後半は,オッフェンバックの「パリの喜び」で始まりました。実はこの作品,個人的に大好きな作品で,一度,実演で聞きたかった作品です。全曲ではなく,抜粋だったのですが,この曲の持つ華やかさと軽妙さをしっかり伝えてくれました。個人的な定番はシャルル・デュトワのCDで,それに比べると,少々大人しいかなという気はしましたが,特に冒頭の序曲を実演で聞けたのは大きいな収穫でした。木管楽器などを中心にキラキラとした細かい音が生き生きと沸き立つように聞こえてきました。

序曲の後の「ポルカ」「アレグロ」は流れるような軽妙な演奏。「ワルツ」は,「天国と地獄」序曲の中間部に出てくるメロディ。対照的にゆったりととろけるような演奏を聞かせてくれました。その後は,「ホフマンの舟歌」。ロザンタール編曲版では最後に来る曲ですが,スダーンさんは明るく締めたかったのか,「ヴィーヴォ(カン・カン)」を最後に持って来ていました。「舟歌」の方には,「ワルツ」の延長のようなしっとり感が継続しており,この曲順で良かったと思いました。「カン・カン」は,誰もが知っている「天国と地獄」序曲の最後の部分をコンパクトにしたような曲です。序曲版のように,熱狂する感じで盛り上げるのではなく,スマートに軽く流してゴールインといった感じで締めてくれました。

# 「パリの喜び」は,オッフェンバックの代表作ですが,この際,専門家でもあるミンコフスキさん指揮OEKでも聞いてみたいものだと思いました。ひそかに期待しています。

続いて,ヤングさんのソロ・ヴァイオリンを加えて,モンティのチャールダーシュが演奏されました。技巧的にも難しい曲ですが,ヤングさんは,その辺を軽々とクリアした上で,変化に富んだ曲想を持つ,内容のある音楽として,「どうだ!」という感じで楽しませてくれました。演奏後は,頼りになるコンサート・ミストレスに対して,この日いちばんと言っても良い盛大な拍手が送られました。

プログラム最後は,新年の定番,ヨハン・シュトラウスのポルカとワルツが演奏されました。「田園のポルカ」という作品は,オーケストラのメンバーによる「ラララ」という声が楽しげに入る曲でした。数年前のウィーン・フィルのニューイヤーコンサートで聞いた記憶があります。リラックスムードたっぷりでしたが,メンバーの声の方はもう少し大きい方が良かったかな?

「雷鳴と電光」は,スダーンさんらしくブレのないテンポ感で,心地良くビシっと決めてくれました。最後は,定番中の定番「美しく青きドナウ」で締められました。ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートでは,この曲の冒頭の弦楽器による弱音のトレモロの部分で拍手が入って一旦中断。指揮者が挨拶...という流れになります。今回はこの形でした(拍手は入らないけれども一旦中断,という感じだったと思います)。ちなみに,ウィーン・フィルの場合は,指揮者が音頭を取った後,全員で「おめでとう」と声を合わせる感じですが,この日は,スダーンさんが「Happy new year!」と一言発するという流れでした。

スダーンさんのテンポ感は,ここでもとてもスムーズでしたが,中間部では,思い入れたっぷりにテンポを落としたり,所々で思いの強さが伝わってきました。アンコールの方も,これがないと納まらない「ラデツキー行進曲」でした。拍手しやすいテンポ(スダーンさんは,お客さんに向かって拍手のタイミングを指揮されていました)によるリラックスしたムードのある演奏でしたが,全体の雰囲気が,がっちりとした行進曲になっていたのが良いなぁと思いました。

終演後,スダーンさんのサイン会が行われた後,OEKのニュー・イヤー・コンサート恒例の茶菓工房たろうさん提供による,「OEKどら焼き」のプレゼントがありました。今年も,多彩なプログラムを楽しませてくれそう,という期待感いっぱいのニューイヤーコンサートでした。


この日は終演後,ステージ上に乗って写真撮影OKということになっていました。着物を着られた方を中心にOEKメンバーと記念撮影をされている方の姿がありました。

恒例の茶菓工房たろうさん提供のどら焼き。今年は次の写真のとおりでした。イチゴ+ミルクの味のように感じました。毎年味が違っているようなので,こちらも新年の楽しみの一つになってきました。


この日は成人の日。音楽堂の隣のホテルでも成人の日のイベントを行っていました。ホテル日航金沢の方には,前田利家の甲冑。これは特に外国からのお客さんが喜びそうです。

(2020/01/18)




公演の立看板と門松


公演のポスター


公演の案内。同じ時間帯,桂文珍さんもいらっしゃったのですね。


着物を着てきた人には,音楽堂マネーを進呈ということで,着物姿の方も目立ちました。


恒例のサイン入り立看板。ツァーにも「同行」していたようです。


この日も地元の北陸朝日放送が収録を行っていました。


プレコンサートの様子。ロッシーニの弦楽のためのソナタ第3番を演奏中。ロッシーニはねずみ年というつながりだったと思います。


ロビーには,OEKの活動を紹介する,日本経済新聞の記事がパネル化されて貼ってありました。

本日のサイン会は,スダーンさんでした。

東京交響楽団と録音してブルックナーの交響曲第8番のCDを持参。このCDを見せたところ,スダーンさんは第1楽章の主題を口ずさんでくれました。一度,金沢で聞いてみたい作品です。

森さんの方は来られなかったのですが,先ほどの立看板にしっかり森さんも書かれていました。