OEKfan > 演奏会レビュー
金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第80回定期演奏会
2020年1月18日(土) 18:30〜 金沢歌劇座

グラズノフ/祝典序曲, op.73
ハチャトゥリアン/組曲「仮面舞踏会」(抜粋,第1曲ワルツ,第3曲マズルカ,第4曲ロマンス,第5曲ギャロップ)
ラフマニノフ/交響曲第2番ホ短調, op.27

●演奏
山下一史指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団



Review by 管理人hs  

金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の第80回定期演奏会を聞いてきました。1年前の第79回は年末に行われていましたので,今回は,従来からの「センター試験の日」に戻った形になります。この定期公演の「80回」という回数も考えてみると凄いですね。年1回行っているはずなので,金沢大学の創設の頃からずっと続いていることになります。伝統のイベントといえます。


今回の定期公演は,久しぶりに金沢歌劇座で行われました。

その記念すべき回の指揮者は,オーケストラ・アンサンブル金沢でもお馴染みの山下一史さんでした。金大フィルとのつながりも30年近くになるのではないかと思います。そして演奏された曲は,オール・ロシア(ソ連)プログラム。メインとしてラフマニノフの交響曲第2番,前半はグラズノフの祝典序曲とハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」組曲の抜粋が演奏されました。ここ数年,金大フィルは,ロシア音楽をよく演奏している気がしますが,その総決算といったところでしょうか。

その中では,やはり最後に演奏された,ラフマニノフの交響曲第2番が大変聞き応えがありました。55分近くかかる大曲ですが,全く長さを感じさせない,前向きなエネルギーを感じさせる演奏でした。山下一史さんは,常にエネルギッシュな指揮をされる印象があったのですが,曲全体の設計が素晴らしく,冷静に各楽章を構築しているように感じました。そこに若い大学生たちの演奏が加わり,各楽章の聞かせどころでは,自然に熱気を帯びた盛り上がりがありました。

第1楽章の最初の方で,木管楽器の和音がパーンとバランス良くくっきりと登場したのを聞いて,「素晴らしい演奏になりそう」と感じ,そのとおりになりました。その後は,ラフマニノフらしく鬱々とした感じで進むのですが,時折,チャイコフスキーのバレエ音楽などに通じる,瑞々しい美しさを持った部分が出てくるのも魅力です。随所に出てくる,ラフマニノフ節といってもよい弦楽合奏だけでなく,管楽器のソロもしっかりと決まっていおり,安心して練り上げられた音楽に浸ることができました。音楽全体としては,確かに長いけれども,「浸っている感」が快感になってくるような第1楽章でした。

第2楽章は若々しく軽快な音楽でした。ホルンなどに出てくる野性的な音楽と,甘く流れるような音楽とのバランスがとても良かったと思いました。楽章最後の無窮動的な動きのある部分もとても面白いと思いました。

第3楽章は甘いメロディが特に有名ですが,みずみずしい雰囲気がいっぱいだったので,もたれるような感じはしませんでした。最初の方に出てくるクラリネットの長いソロもお見事でした。このソロ同様,音楽全体に心地良い開放感があり,ぐいぐいと進んでいく感じがあったのが良いと思いました。これから広い世界に向かって羽ばたく直前といった希望に満ちた音楽だと思いました。

全曲を通じても,暗く沈み込むような感じではなく,前向きな明るさを感じました。こうやって生きの良い演奏で聞いてみると,最終楽章もタランテラといった感じに聞こえました。若い学生たちの前に広がる未来を祝福するような音楽だったと思いました。最後の部分には,達成感でいっぱいといった感じの感動がありました。

前半に演奏された2曲も楽しめました。グラズノフの祝典序曲は,初期のチャイコフスキーの交響曲に通じるような雰囲気のある明るい親しみやすさのある曲でした。「祝典」という感じはあまりしなかったのですが,とても品良くまとまっていたと思いました。

ハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」組曲からの4曲は,第1曲の「ワルツ」が,女子フィギュアスケートの浅田真央さんが使ってから一気に有名になった作品ですね。個人的には,もっと重苦しく憂鬱で退廃的なあるイメージを持っていたので,少々軽いかなと感じたのですが,曲が進むにつれてノリの良さが出てきた気がしました。

演奏された4曲の中では,ビシッと引き締まった,終曲の「ギャロップ」が大変鮮やかで,特に印象的でした。その前の「ロマンス」での,しっとりとした気だるい気分も魅力的でした。ここでは,トランペット・ソロのまろやかな音が素晴らしいと思いました。

金大フィルの今後の予定として,配布されたプログラムには,6月のサマーコンサートで,チャイコフスキーの「悲愴」を演奏と書いてありました。3月のカレッジコンサートにも金大フィルのメンバーが多数参加しますが,ここではショスタコーヴィチの交響曲第5番。ロシア3大作曲家を代表する名曲を立て続けに演奏する感じですね。学業を行いながら,取り組むにはハードな曲ばかりですが,逆に考えると,そういう学生生活を送ることができるのもうらやましいなぁという気もします。是非,これらの公演も聞きにいってみたいと思います。

(2020/01/25)




公演の立看板


公演のパンフレット


開場を待つ列