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冨田一樹オルガン・リサイタル:真冬のバッハ
2020年1月29日(水)19:00〜石川県立音楽堂コンサートホール

バッハ,J.S./前奏曲とフーガ ハ長調, BWV.547
バッハ,J.S./コラール「最愛なるイエスよ,我らここに集いて」,BWV.731
バッハ,J.S./フーガ ト短調, BWV.578「小フーガ」
パッヘルベル/コラール「おお,汚れなき神の子羊」P.393
ベーム/コラール「天にまします我らの父よ」
ブクステフーデ/前奏曲ト短調, BuxWV.149
バッハ,J.S./トッカータとフーガ ニ短調, BWV.565
バッハ,J.S./コラール「おお人よ,汝の大いなる罪を嘆け」, BWV.622
バッハ,J.S./コラール「我らを救い給うキリストは」, BWV.620
バッハ,J.S.-マルチェッロ/オーボエ協奏曲 ニ短調〜アダージョ, BWV.974/2
バッハ,J.S.-グノー/アヴェ・マリア
バッハ,J.S./前奏曲とフーガ ホ短調, BWV.548「楔」
(アンコール)バッハ,J.S./コラール「神のひとり子なる主キリスト」BWV.698

●演奏
冨田一樹(オルガン)



Review by 管理人hs  

「真冬のバッハ」と題された,冨田一樹さんのオルガン・リサイタルを石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてきました。冨田さんのオルガン・リサイタルが音楽堂で行われるのは2回目ですが,前回以上に楽しめる演奏会になっていたと思いました。



演奏された曲はタイトルどおり,バッハの曲が中心でした。トッカータとフーガ ニ短調,小フーガト短調という有名曲を交えつつ,演奏会の最初と最後に,聞き応え十分の内容と構成を持つ「前奏曲とフーガ」を配置する見事な構成。万全のプログラムという感じでした。

最初に演奏された,前奏曲とフーガ,BWV.547は,シンプルなファンファーレのようなフレーズで始まる作品で開演にぴったり。冨田さんはゴツゴツとした感じでじっくりと聞かせてくれました。コンサートホールいっぱいに広がるペダルの重低音も素晴らしかったですね。

その後,冨田さんのトークが入りました。前回,石川県立音楽堂で行ったリサイタルの時よりもトークが増えた印象があります。オルガンの演奏会の場合,演奏する曲や楽器についての解説が入る方が面白く聞ける気がしました。

コラール「最愛なるイエスよ,我らここに集いて」BWV.731では,音色が一変し,息の長いメロディをヴィブラートたっぷりの甘い感じの音でじっくり聞かせてくれました。こちらもまた,曲の性格の雰囲気にぴったりの演奏だと思いました。

小フーガ ト短調は,中学校の音楽の時間などでも取り上げられる名曲中の名曲ですが,実演で聞くのは...意外に少ないかもしれません。速めのテンポでくっきり,軽快に演奏されていました。

その後,バッハに影響を与えた,パッヘルベル,ベーム,ブクステフーデの曲が演奏されました。パッヘルベルのコラール「おお,汚れなき神の子羊」P.393は,どこか「キラキラ星」を思わせる主題で,文字通りキラキラとした音色の変化を楽しめました。ベームのコラール「天にまします我らの父よ」は,私でも聞いたことのある祈りの言葉そのままですが,朴訥な音でしっかりと歩んでいく感じが良かったですね。音色の方も独特でした。

前半最後は,ブクステフーデの前奏曲ト短調, BuxWV.149で締められました。パッヘルベル,ベーム以上にバッハ的(もしかしたら,バッハの方がブクステフーデ的なのかもしれません)な感じがあり,ダイナミックな聞き応え十分でした。まず,出だし部分から格好良く,シリアスな壮麗さと幻想的な雰囲気が楽しめました。そのうちに,ブクステフーデー特集などに期待したいと思います。

後半は定番中の定番,トッカータとフーガ ニ短調で始まりました。CDなどで聞き慣れている演奏よりは,即興的な要素が多く入っているようで,自由奔放なエネルギーの動きを感じることができました。中間部では,大昔のディズニー映画「ファンタジア」の1シーンを彷彿とさせるような,千変万化の色合いの変化を実感しました。最後の部分での重〜く,崩れ落ちていくような感じも印象的でした。

演奏後のサイン会の時に,この日の演奏がいつも聞いているのと違う部分があったことについて尋ねてみたところ,「楽譜は同じだが,トッカータという曲の性格上(演奏者の裁量の部分が多い)」といったことをおっしゃられていました。なるほど,と思いました。

その後,コラールが2曲演奏されました。同じコラールでも性格が対照的なのが面白いと思いました。コラール「おお人よ,汝の大いなる罪を嘆け」 BWV.622の方がシンプルな歌,コラール「我らを救い給うキリストは」 BWV.620の方には,低音と高音とが交錯するような刺激的な味がありました。

続いて,バッハがアレンジした曲(マルチェッロのオーボエ協奏曲の第2楽章)とアレンジされたバッハの曲(グノーのアヴェ・マリア)が演奏され,プログラムにアクセントがつけられていました。マルチェロの方は,1人で協奏曲を演奏しているようでした。低音の音の動きもオルガンならではの面白さでした。グノーのアヴェ・マリアは,少しロマンの香りが加わったような演奏で,少し違った空気が入ってくるような開放感を感じました。

最後に演奏された,前奏曲とフーガホ短調BWV.548は,演奏会を締めくくるのに相応しいスケール感豊かな演奏でした。曲の最初の部分で,シリアスにびしっと切り込んだ後,澄み切った世界が立ち上がってくるような壮麗さがありました。フーガの部分も重厚で緊迫感がありました。最後は息もつかさぬ感じで,クライマックスに向けて,音楽がどんどん巨大に盛り上がって行くのが見事でした。バッハに圧倒された,という感じの演奏でした。

冨田さんの演奏には,「大きい曲はより大きく」,「かわいらしい曲はよりかわいらしく」といった感じがあり,それぞれの曲の持つキャラクターを最大限に活かすような,演奏ばかりだと思いました。

最後に繊細な美しさを持ったコラールが1曲演奏されて演奏会は締められました。

冨田さんのトークには折り目正しいと同時に,とても流暢で分かりやすく,一見取っ付きにくいところのあるオルガン音楽を大変親しみやすく楽しませてくれました。お客さんの反応も素晴らしく,大満足の公演になっていたと思いました。

冨田さんは,トークの中で「大きなパイプオルガン」を演奏できる機会は少ない,と語っていましたが,是非,今回のような感じの演奏会の続編を期待したいと思います。今年の金沢は暖冬なので,「真冬?のバッハ」という感じでありましたが,今後,「秋のバッハ」そして「春のバッハ(「春の小川」ですね)」にも期待したいと思います。

終演後の冨田さんのサイン会も大盛況でした(冨田さんのセールストークがよく効いていたと思います)。この際,石川県立音楽堂コンサートホールのパイプオルガンを使ったバッハのレコーディングにも期待したいと思います

 
冨田さんが西東京教会の小オルガンでライブレコーディングしたCDを,この日会場で購入。部屋の中でじっくり聞くのにぴったりの演奏でした。

(2020/02/05)




公演の立看板


公演のポスター


冬とは思えない,意表を突く色合いのプログラム