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市制15周年記念 オーケストラ・アンサンブル金沢 白山公演
2020年2月11日(火・祝)14:00〜 白山市松任文化会館ピーノ大ホール

1) 木下牧子(作詞:長橋正宣)/白山市民の歌
2) 岡野貞一(作詞:高野辰之,編曲:榊原栄)/ふるさと
3) 草川信(作詞:中村雨紅,編曲:三善晃)/夕焼小焼
4) 佐藤眞(作詞:大木惇夫)/大地讃頌
5) ベートーヴェン/交響曲第9番ニ短調,op.125「合唱付き」

●演奏
広上淳一指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:松浦奈々)
鈴木玲奈(ソプラノ*5),高野百合絵(アルト*5),吉田浩之(テノール*5),岡昭宏(バス*5), 合唱:白山市の第九特別合唱団,白山市内小学生特別合唱団*1-4



Review by 管理人hs  

快晴になった「建国記念の日」の午後,白山市松任文化会館ピーノまで車で出かけ,広上淳一さん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と総勢170名の特別合唱団による,べートーヴェンの第9を中心とした公演を聞いてきました。白山市は,2005年2月に,松任市,鶴来町,白山麓の町や村が合併して出来た市ですが、本日はその市制15周年記念の演奏会でした。ちなみに市が誕生した時にも第9を歌い,その後,5年ごとに演奏しているとのことでした。

 
ホールの外観です。が,ピンボケになってしまいました。

今回この公演を聞きに行こうと思ったのは、広上さんの第9が聞けること,若手を中心としたソリストの声を聞けることに加え,白山市松任文化会館ピーノに一度行ってみたかったことがあります。かなり前に一度、来た記憶はあるのですが、OEKの演奏をこのホールで聞くのは,私自身,初めてでした。

今回の公演は,市民合唱団が出演するとあって,会場は超満員でした。ステージ上にも客席にも人が溢れていました(客席には補助席も出していました)。

そのこともあるのか、ホールの響きが非常にデッドだと感じました。弦楽器の音など,いつも石川県立音楽堂コンサートホールで聞いているOEKよりはかなり痩せた感じで,奏者にとっては少々つらかったのではと思いました。その分,木管楽器を中心に各楽器の音が非常に鮮明に聞こえてきました。

前半まず,「プログラムに先立ち」という感じで,白山市の小学生も加わった大合唱団とオーケストラの共演で白山市民の歌が歌われました。合唱曲を沢山作曲されている木下牧子さん作曲ということで,古くさい感じはなく,とても爽やかな曲でした。白山市には,石川県でいちばん長い手取川が流れていますが,どこかその流れを思わせるような豊かさのある合唱でした。

ちなみにこの曲では,山田憲昭市長も合唱団の真ん中で参加されていました。こういう雰囲気は良いですね。その後,山田市長による挨拶がありました。このホールに入るのは,2回目で,前回はピーノという愛称が付くかなり以前のことでした(確か清水和音さんのピアノリサイタルだったと思います。25年以上前ですね)。そういえば,その時も市長さんが挨拶をされていたな,と妙なことを思い出しました。

続いて,同じ編成で「ふるさと」「夕焼小焼」「大地讃頌」というお馴染みの曲が歌われました。子どもたちの声が加わることで,さらに親しみやすさが増していたように思いました。「夕焼小焼」は三善晃編曲版ということで(合唱組曲の中の1曲でしょうか),最初はアカペラで素朴に始まった後,どんどん多彩な響きになっていき、特に面白いなぁと思いました。ソプラノが力のこもった高音を聞かせてくれたり,さすがという編曲だと思いました。ちなみに,この曲が始まる前のチューニングでは,広上さんが鍵盤付きハーモニカで音を出して音を取っていました。こちらも「広上さんらしい」と思いました。

「ふるさと」のアレンジの方は,こちらもOEKファンには懐かしい榊原栄さんでした。榊原さんのアレンジもOEKの資産として受け継がれているのだなぁと思いました。

「大地讃頌」は,卒業式で歌われることの多い曲です。オーケストラとの共演というのは,一緒に歌った小学生にとっては,一生の思い出になるのではと思いました。威厳を保ったまま,落ち着いた気分で大きく盛り上がるような演奏で,人数に相応しいスケールの大きさを感じさせてくれました。

この後休憩となり,後半は第九交響曲が演奏されました。

上述のとおりホールの響きがかなりデッドだったので,第1楽章の最初の方の弦楽器の刻みの音などがとても生々しく聞こえてきました。広上さんのテンポ設定もじっくりした感じで,堂々としていると同時に,非常に精妙な演奏に聞こえました。第2楽章も落ち着いたテンポでクリアに始まったので、「大人のスケルツォ」といった感じでした。対照的に中間部は流れるように爽やかでした。加納さんのオーボエも大変くっきりと聞こえてきました。

この楽章のあと,4人のソリストが入場して,指揮者の前に着席しました。

第3楽章も静かだけれども、一つ一つの音がしっかりと聞こえてくるような演奏で、いろいろな曲想がクリアに描き分けられていました。ホルンが音階を朗々と演奏した後,曲想が変わり,サラサラと音楽が流れ出す辺り,個人的に大好きな部分です。

第4楽章は、特に面白く聞くことができました。まず,独唱や合唱が入る前の「このメロディではない」と低弦を中心に何回も「否定」する部分がとても雄弁だと思いました。最後に,ヴィオラ,チェロ,ファゴットなどで柔らかいメロディが出てくる辺り,良いなぁと思いました。

その後,合唱団が立ち上がって,バスの独唱が始まります。岡さんの声は素晴らしいと思いました。この部分はとても音程を取るのが難しい部分だと思うのですが,ビシッと決まっており,瑞々しさと力感に溢れていました。その後に続く,男声合唱もそれを受けるように晴れやかでした。

広上さんは大合唱団をしっかり伸び伸びと歌わせており、聞いていて大変爽快でした。行進曲風になる直前の”Vor Gott"と長く伸ばす部分などでは、広上さん自身、大きく反り返るように指揮をしており(後ろに倒れないかちょっと心配しながら見ていました)、気持ちよさそうだなぁと思いました。

行進曲風の部分は、非常に速いテンポでしたが、その若々しい表現が素晴らしいと思いました。テノールの吉田浩之さんはお馴染みのベテラン歌手ですが、その明るい声は全く変わりなく、晴れやかそのものでした。この部分では,少しせかされているような感じで歌っており,「民衆代表」という感じの高揚感を感じました。

この部分をはじめ,第4楽章の「肝」の一つがピッコロだと思うのですが,この日はNHK交響楽団の方がエキストラで参加していました(多分)。バランスが取れているのに,とてもよく音が通っており,さすがと思いました。

有名な「歓喜の合唱」の部分もしっかりと伸びやかに歌われていました。大編成にも関わらず,弾むようなリズム感があったもの良かったと思いました。

4人のソリストの皆さんも素晴らしかったですね。ベテランの吉田さん以外は,いずれも近年、注目を集めている若手歌手ばかりで、4人の瑞々しい声の競演となっていました。鈴木玲奈さん,高野百合絵さんの女声2人の方は,男声に比べると独唱的な部分は少なかったので,是非,また違った曲でOEKとの共演を期待したいものです。お二人とも最近、日本コロンビアからCDを出された注目の歌手ということで、これからの活躍が非常に楽しみです。

会場でもお2人のCDを販売していました。今回は買わなかったのですが,収録されている曲目がとても面白そうです。

曲の最後の部分では、熱狂的にテンポを上げるのではなく、どっしりとしたテンポ感のまま、沸き立つようなリズムを感じさせてくれ、充実感満点でした。さすが広上さんの指揮だと思いました。


終演後に撮影。退場する合唱団に拍手。観客総立ち...のようにも見えますが...皆さん帰ろうとしているところです。

というようなわけで,全体的にみると,やはり,石川県立音楽堂コンサートホールで聞くOEKの音の方が好きなのですが,いつも聞けない音が聞こえてきたり,違った角度から第9を楽しむことができました。我が家からだと、白山市松任までは車で片道1時間ほど掛かったのですが(意外に道路や駐車場が渋滞していたので)、午後からは予想以上の快晴に恵まれ、ドライブと合わせて,新鮮さを味わうことのできた演奏会でした。


金沢に戻る途中,コストコ付近を通りかかった時,右手に白い山が見えました。これは白山ですね。こんなにきれいな姿を見たのは初めてかもしれません。

(2020/02/16)



公演のポスター


公演のパンフレットのデザインも「白山」


ホールには,ピーノという愛称がついていますが,どういう意味なのでしょうか。


ホールの隣は城址公園

今回はJR松任駅のすぐ横の立体駐車場に駐車しました。

上の写真の奥に見えるのが松任駅


その名も「新幹線が見えるパーキング」。金沢以西には来ていませんが,車両基地に入るところが見えるのでしょうか。


駐車場(5階)から線路を見るとこんな感じ。確かによく見えそうです。屋上からだともっとよく見えたかもしれません。