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ランチタイムコンサート:チェロとピアノの調べ
2020年8月24日(月)12:15〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第5番ニ長調,op.102-2
2) ソッリマ/嘆き
3) ピアソラ/ル・グラン・タンゴ
4) (アンコール)曲名不明
5) (アンコール)バッハ, J.S./管弦楽組曲第3番〜エア

●演奏
大澤明(チェロ),木米真理恵(ピアノ*1,3-5)



Review by 管理人hs  

この日は,夏休みの休暇を取って,石川県立音楽堂コンサートホールで行われた,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のチェロ奏者,大澤明さんと木米真理恵さんのピアノによるランチタイムコンサートを聞いて来ました。

コロナ禍の影響で,クラシック音楽の演奏会の開催についても大きな影響を受けていますが,演奏者自体が密にならず,発声を伴わない公演については,ほぼ問題ないと言えます。この日の公演も,チェロとピアノによる室内楽を広々としたコンサートホールで行うもので,客席の方も「市松模様」配置でしたので,安心して参加できました。


今回,聞きに行こうと思ったのは,まず,演奏曲目に引かれたからです。ベートーヴェンのチェロ・ソナタ第5番とピアソラのル・グラン・タンゴという,いかにも聞き応えのありそうな曲が並んでいました。

最初に演奏されたベートーヴェンの曲は,木米さんによる,明快な美しさのあるピアノで鮮やかに始まった後,大澤さんの大らかな渋さの感じられるチェロが続き,次第に後期のベートーヴェンの深い世界へと導いてくれました。この曲をこれまでじっくり聞いたことはあまりなかったのですが,人生を振り返るような気分のある第2楽章が良いなと思いました。ブツブツつぶやくような暗い感じで始まった後,明転し,線の太い歌が続いていきました。大澤さんの年季の入った味のあるチェロの魅力がしっかり感じられる部分でした。第3楽章にそのまま続き,チェロとピアノが一体になったフーガが延々と続くあたりは,ピアノ・ソナタの大作,「ハンマークラヴィーア」に通じる世界があると思いました。一つ一つのフレーズに意味と味がある感じの演奏でした。

2曲目は,大澤さんの独奏(唱)で,ソッリマの「嘆き」が演奏されました。大澤さんの十八番の曲だと多いもいます。数年前の「ふだん着ティータイムコンサート」で大澤さんの演奏で聞いてインパクトを受けたのですが,コンサートホールで聞くとさらに楽しめた気がしました。

チェロがどこかの民族音楽風のシンプルなメロディを演奏する一方(モンゴルの民族音楽といった感じかな,と勝手に想像して聞いていました),大澤さんが謎めいた雰囲気の歌を歌います。チェロとは全く関係ないメロディなので,合わせずに歌うのは難易度が高いのではないかと思います。その後,曲想が激しくなり,どこかロックを思わせる感じになります。こういう部分を聞くと,チェロという楽器は本当に表現の幅が広い楽器だなと思います。コンサートホールの空間いっぱいに響くのが心地良く感じました。

最後に演奏されたのは,ピアソラのル・グラン・タンゴでした。往年の名チェリスト,ロストロポーヴィチのために書かれた作品ということで,そのエピソードが紹介された後(来日した時,築地で早朝から延々と飲んでいた...といった豪快なお話です),演奏が始まりました。

ピアソラらしく,純粋に踊るためのタンゴではなく,中間部はかなりセンチメンタルな気分になります。この部分では,木米さんのピアノの怪しくも美しい雰囲気が良いムードを作っていました。両端部分は,ダイナミックなタンゴで,最後はピアノとチェロが一体となって,格好良く締めてくれました。曲が終わった瞬間,私の近くに座っていたお客さんからは,思わず「ホーッ(かっこいいねぇ)」という感じで声が漏れていました。こういう時間にはずっと浸っていたいなと,思わせる演奏でした。

約1時間の演奏会だったのですが,アンコールは2曲演奏されました(制限時間ギリギリまで使った感じでした)。最初の曲は「くまばちの飛行」を思わせるような高音域の速い動きが無窮動的に延々と続く技を見せる曲,2曲目はバッハのいわゆる「G線上のアリア」でした。「チェロの場合,何線になるのだろう?」と思いながら聞いていました。

というわけで,大らかな気分で楽しむことのできる,コンサートホールで行う室内楽公演には,今後も注目したいと思います。

(2020/08/29)



公演の看板

公演の案内


帰宅途中,近江町市場付近を通りかかりました。この時期恒例の「氷柱」はさわらないでくださいとのことでした。