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いしかわ・金沢風と緑の楽都音楽祭2020 秋の陣オープニングコンサート
2020年9月6日(日)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ヴィヴァルディ(青島広志編曲)/協奏曲集「四季」〜「秋」第1楽章(箏合奏とオーケストラのための)
2) ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調, op.67〜第1楽章
3) モーツァルト/ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467〜第2,3楽章
4) プッチーニ/歌劇「ジャンニ・スキッキ」〜「私のお父さん」
5) モンティ/チャールダーシュ
6) 榊原栄/キッチン・コンチェルト
7) ビゼー/「カルメン」組曲〜前奏曲,第3幕への間奏曲
8) 古関裕而/オリンピック・マーチ

●演奏
川瀬賢太郎指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:町田琴和)
菊池洋子(ピアノ*3),町田琴和*1, 坂口昌優*5(ヴァイオリン),ルドヴィート・カンタ(チェロ*5),渡邉昭夫(打楽器*6),石川公美(ソプラノ*4), 石川県筝曲連盟のメンバー*1
司会:石川公美



Review by 管理人hs  

前日の岩城宏之メモリアルコンサートに続いて,日曜日の午後,いしかわ・金沢風と緑の楽都音楽祭2020 秋の陣 特別公演 オープニングコンサートを聞いてきました。今年の春に予定されていた「いしかわ・金沢風と緑の楽都音楽祭(ガル祭)」は,コロナ禍の影響で実施できなくなったのですが,ガル祭のサイトには音楽祭自体「中止」になったとは書いてなく,「延期」となっています。その言葉どおり,ガル祭2020が秋の陣として再起動した,記念すべき公演となりました。

 
照明も,やや「ガルっぽい」感じでしょうか

まず,谷本石川県知事,山野金沢市長,池辺晋一郎音楽祭実行委員長らが出席する,オープニング・セレモニーが行われたのに驚きました。この挨拶で池辺さんが語っていたとおり,金沢には芸術文化に関する底力のようなものがあると言えるのかもしれません。私自身にもそういうなのですが,こういう時だからこそ,芸術文化には役割があるはずと思ってしまいます。

今年のガル祭の当初のテーマ自体,「世界の国からこんにちは(ちょっと違ったか?)」で,何でもありでしたので,この日の公演も,世界各国の音楽が地元のアーティストも交えて演奏されるガラコンサートとなっていました。


この日は3階席から鑑賞

最初にヴィヴァルディの協奏曲集「四季」の中の「秋」の第1楽章が演奏されました。ここでのポイントは,OEKと箏(5面)が共演する編曲だった点です。これが実によい感じでした。基本的にヴィヴァルディの雰囲気そのままで,一部分を箏に振り分け,掛け合いをするという演奏でした。途中,箏のトレモロ(何というのでしょうか?)が入る辺りも面白かったですね。通常の弦楽合奏に,箏のちょっと甲高い感じの音が加わることで,何とも言えない雅な華やかさが加わり,「ちょっと控えめだけれども,祭りのオープニングを祝いましょう」という感じにぴったりでした。

ちなみにこの日のOEKのコンサートミストレスはベルリン・フィルの町田琴和さんでした。お名前に「琴」が入っているということで,絶妙の「琴つながり」のヴィヴァルディでした。

続いて,生誕250年のメモリアルイヤーということで,ベートーヴェンの交響曲第5番の第1楽章が演奏されました。川瀬さん指揮のこの曲は,「就任して最初の定期公演」で確か演奏したはずです。精悍で推進力のある,若々しいベートーヴェンでした。

菊地洋子さんのピアノが加わってのモーツァルトのピアノ協奏曲第21番の第2,3楽章は,今回のハイライトだったと思いました。菊池さんは7月のOEK定期公演で,川瀬さんとの共演でモーツァルトの23番の協奏曲を演奏するはずだったのですが,公演自体がキャンセルになってしまいました。この演奏は,そのリベンジの演奏ということになります。

菊池さんは,真っ赤なドレスで登場。まずこの華やかな雰囲気で「音楽祭気分」を盛り上げてくれました。それにしてもこの曲の2楽章の美しいメロディは染みます。コロナ禍のことなど全く気にせず,静かな水面上を滑らかに進む白鳥(私の勝手な想像ですが)を思わせるような優雅さと伸びやかさのある演奏でした。名技性を楽しませてくれる第3楽章との対比も鮮やかでした。品の良い愉悦感をたっぷり楽しませてくれました。少々大げさかもしれませんが,「生きていて良かった」という気分にさせてくれるような曲であり演奏でした。

この日の司会は,金沢での演奏会ではすっかりおなじみの石川公美さんだったのですが(大変スムーズな進行でした),今回1曲だけ歌手としての出番があり,プッチーニの「私のお父さん」を歌いました。この歌も素晴らしかったですね。円熟味のようなものを感じました。安心して美しいメロディに身を任せることのできる歌でした。

この曲の前だけ,指揮の川瀬さんがマイクを持っていたのですが,石川さんは歌唱後,すぐに司会者に戻り(もう少し拍手したかったのですが...),声も「普通」の声になっていました。その切り替えの早さにも驚きました。

続くモンティのチャールダーシュは,石川県出身のヴァイオリン奏者,坂口昌優さんとOEK名誉団員のルドヴィート・カンタさんのチェロをフィーチャーしての演奏でした。この音楽祭のコンセプトの一つは,地元アーティストの活躍の場を作ることがあります。その実力をしっかりと聞かせてくれるような,緩急自在の演奏でした。

ちなみに...この曲ですが,OEKのコンサートミストレス,アビゲイル・ヤングさんとカンタさんのデュオというのが定番だったことを思い出しました。OEKの公演が再開する中,OEKの顔と言っても良い,ヤングさんがまだ日本に戻ってきていない点が,OEKファンとしては寂しいところです。

次の榊原栄作曲「キッチン・コンチェルト」は,どういう流れでこの曲なのかな?と思っていたら,「コロナ禍でお父さんが台所に立つことが増えたので...」という素晴らしい説明でした。ルロイ・アンダーソン的なリラックスした雰囲気の中(サンド・ペーパー・バレエのような感じですね),OEK打楽器奏者の渡邉昭夫さんが,各種台所用品を楽器として叩きまくる(?)楽しい曲で,OEKのレパートリーの中でも隠れた名作だと思います。

もちろん衣装は「コックさん」の帽子+衣装。音楽祭のキャラクター,ガルちゃんのぬいぐるみを持って登場。大型の鍋の中にスポッと入れてのパフォーマンスでした。ちなみに,川瀬さんもお玉を持って指揮されていました(遠くだったので不確かですが)。

途中のカデンツァもお見事でしたが...延々と続きそう...ということで,川瀬さんがキッチンタイマーで「そろそろ切り上げてくれ」と督促。年々パフォーマンスも進化している曲です。

ビゼーの「カルメン」前奏曲と第3幕への間奏曲は,大らかな余裕たっぷりの演奏(ちなみに,前曲でコックさんだった渡邉さんもすぐに大太鼓で参加していました)。間奏曲では,松木さんのフルートがホール内に染み渡っていました。

最後は古関裕而作曲の「オリンピック・マーチ」で締められました。東京オリンピックについては,「本当に実現するのだろうか?」という思いもあるのですが,この曲の素晴らしさには変わりがありません。行進曲はやはり,ピッコロが「肝」だなぁとか(岡本さんが担当),弦楽器が入る行進曲も良いなぁ,川瀬さんのジャンプしながらの指揮も決まっているなぁなどと思いながら聞いているうちに,「派手でなくてよいから,東京五輪・パラは実現して欲しいものだ」という気分になりました。

ガル祭秋の陣については,従来の短期集中型とは違う,12月までの「長丁場」音楽祭になります。OEKの定期公演と並行して行われるので,定期公演のシリーズがもう一つ増えるような感じでもあります。せっかくなので,金沢に新しい音楽文化をさらに根付かせる「実験の一つ」として期待をしています。この間,音楽に親しむ人が少しでも増えるきっかけになってくれると良いですね。

(2020/09/12)



音楽祭の案内


公演の案内。そういえばこの日は岩城宏之さんの誕生日でした。


公演のポスター


プログラム配布はセルフサービス


この日は家族連れの姿もよく見かけました。


Webでの発信も定着してきましたね。


ホテル日航金沢の中の生け花(?)。そろそろ秋っぽくなってきましたね。