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朝日新聞プレゼンツ OEKおしゃべりクラシック
2020年9月9日(日) 第1回11:00〜  第2回14:00〜 石川県立音楽堂交流ホール

モーツァルト/ロンド ハ長調, K.373
ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第5番へ長調, op.24「春」〜第1楽章
サン=サーンス(イザイ編曲)/ワルツ形式の練習曲による奇想曲
(アンコール)ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第5番へ長調, op.24「春」〜第3楽章
(アンコール)クライスラー/美しいロスマリン

●演奏
若松みなみ(ヴァイオリン),井口愛弓(ピアノ)



Review by 管理人hs  

この日は休暇を取って,「朝日新聞プレゼンツ オーケストラ・アンサンブル金沢おしゃべりクラシック」の11:00からの部を石川県立音楽堂交流ホールで聞いて来ました。このシリーズが行われるのは,コロナ禍後初めてでした。「交流ホールなのに指定席」というのは初めての経験。出演されたのは,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の第2ヴァイオリン奏者若松みなみさんとピアニストの井口愛弓さんでした。



プログラムに書かれていた曲は3曲だけで,しかも,ベートヴェンのヴァイオリン・ソナタ「春」も第1楽章だけだったので,「時間が余るのでは?」と思ったのですが...その心配はなく若松さんが沢山おしゃべりをしてくれました。お客さんとの距離が近く,おしゃべりをしやすい雰囲気は交流ホールならです。若松さんは,コロナ自粛期間中のことをはじめ,第2ヴァイオリンの魅力,ハ長調が好きといったことをとても楽しげに紹介。若松さんのキャラクターが大変よく分かるトークでした。

演奏された曲は,上述のベートーヴェンに先立ち,モーツァルトのロンド ハ長調K.373が演奏されました。若松さんは明るい感じのするハ長調が大好きと語っていましたが,その言葉どおりの明快な演奏でした。飾り気のない調性そのとおり,美しい音がスーッと耳に入ってきました。ロンドということで,少しずつニュアンスが変化していくのも魅力的でした。

ハ長調に関する若松さんのトークの中で,先日のOEKの定期公演で演奏された,シューベルトの交響曲ハ長調「ザ・グレート」の話題が出てきました。最後の「ド」の音に向かって盛り上げっていく感じが「たまらない」ということをおっしゃられていました。実は...私も同感です

第2ヴァイオリンの役割については,ヴィオラと一緒になって内声を担当することと説明されていました。一見目立たないのですが,第2ヴァイオリンの力で曲のカラーが変わるのが「面白くてたまらない」とのことでした。まさに,曲作りの影の実力者といったところですね。

ベートーヴェンの「春」も,快適なテンポ感による,「すっきり・明快」に流れていくような演奏でした。くっきりとした井口さんのピアノとのかっちりとした対話も楽しむことができました。

最後に演奏された,「ワルツ形式の練習曲による奇想曲」は,もともとは,サン=サーンスがピアノ独奏用に書いた6曲の練習曲中の1曲で,その中の1つをイザイがヴァイオリン用に編曲したものです。現在では編曲版の方が知られているのでは,ということでした。

若松さんは(同様なことは,OEKのチェロ奏者の大澤さんも別の機会で語っていましたすが),今回のコロナ自粛期間中,ヴァイオリン演奏の基礎的な部分からしっかりと練習を行ったそうです。これまで取り組んだことのなかった曲にも取り組んでみたそうで,その中の一つが,この作品です。しっかりと練習をされたということで,練習曲という感じはなく,とても優雅な曲として楽しむことができました。井口さんのピアノも大変力強いものでした。

最後,アンコールとしてベートーヴェンの「春」の3楽章が軽快に演奏されました。この楽章は,大変短く,「終わった?」という感じで終わるので,もう1曲,クライスラーの「美しいロスマリン」も演奏されました。おっとりとした感じがこの曲のムードにぴったりでした。というわけで,終わってみれは,ちょうど1時間でした。

公演の最初に若松さんが「みなさんおはようございます」とあいさつをされていましたが,考えてみると平日午前中の演奏会に行くのは大変珍しいことでした。交流ホールの客席の方は,このところすっかり恒例とんあった,間隔をあけての配置でしたが,久しぶりにアーティストの方と「身近に交流」できたな,と感じさせてくれるような演奏会でした。

PS. 若松さんと井口さんのトークの中で,次のような話題も出てきました。こういうお話がうかがえるのもこの演奏会ならではです。
  • 若松さんは,今年入団10年,ヴァイオリン開始30年とのことです(ほぼ,生まれた時から演奏していた感じ?)
  • 若松さんは,OEKの他のメンバーとベートーヴェンの弦楽四重奏についての勉強を開始(OEKのYouTubeチャンネルで公開されていますね)。その他,2つのヴァイオリンのための曲を1人で2人分演奏されたり(こちらはOEKのFacebookで公開),旦那さんと一緒に小学生向け音楽学習用動画を作ったり,色々とチャレンジをされていたようです。
  • 井口さんが先生をされているピアノ教室での,コロナ自粛期間のご苦労の話題も出てきました。大変ではあったけれども,色々と工夫を行ったこともあり,良い面もあったと前向きに語られていました。

(2020/09/13)




公演のポスター。これまで交流ホールには「定員」というものはなかったのですが,コロナ禍ということで,定員が設けられており,Sold outになっていました。




交流ホールの椅子の背に,席番号が貼られていました