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オーケストラ・アンサンブル金沢 白山公演2020:白山市文化協会結成10年記念
2020年11月14日(土) 14:00〜 白山市松任文化会館ピーノ

1) メンデルズゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調, op.64
2) モーツァルト/交響曲第40番ト短調, K.550
3) (アンコール)モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲

●演奏
太田弦指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:青木高志)
,郷古廉(ヴァイオリン)


Review by 管理人hs  

快晴の秋晴れの土曜日の午後,白山市松任まで出かけ,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)白山公演2020を聞いてきました。指揮は11月3日の「ピアノ協奏曲尽くし」公演に続いて太田弦さん,ヴァイオリン独奏は郷古廉さん。2人の若手アーティストの共演でした。

 
ホールの正面です。完全に逆光になってしまいました。

今回の会場,白山市松任文化会館ピーノに来るのは,2月上旬以来のことです。思い起こせば,コロナ禍が拡大する直前の公演で,しかも演奏曲目は,現時点では演奏が難しい曲となってしまったベートーヴェンの第9ということで,遙か遠い昔のことに思えます。

本日のプログラムは休憩なしで,前半がメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲,後半がモーツァルトの交響曲第40番でした。両曲とも10月の定期公演で取り上げた曲+11月の定期公演で取り上げる曲ということで,それらとの比較の楽しみが聞き所といえます。

メンデルスゾーンは過去何回もOEKが色々なヴァイオリニストと演奏した曲ですが,今回の郷古さんの演奏は,非常にたくましく,力強さを感じさせる演奏だったと思います。宮城県出身の郷古さんが東日本大震災直後に登場した「忘れられない」定期演奏会以来,数回OEKと共演をしています。この日の演奏を聞いて,ますます立派なアーティストに成長しているとなぁと実感しました。

今回の会場の白山市松任文化会館については,やはり音楽専用でない多目的ホールということで,サイズ的にはOEKに丁度良いのですが,音が客席まであまり飛んで来ず,残響も少なめです。石川県立音楽堂コンサートホールで聞くような優雅な気分が味わえなかったのが残念でしたが,その分,郷古さんの切れ味の良い技巧をしっかりと感じることができました。



第1楽章の冒頭部分などはたっぷりと歌わせるというよりは,トツトツと語り始めるような感じで,独特の雰囲気がありました。全般に辛口の雰囲気があり,ニヒルな雰囲気が漂っていると思いました。カデンツァの部分などでは,バッハの無伴奏ヴァイオリンを聞いているような切実さな迫力が伝わってきました。

第2楽章は,しっかりとした密度の高い音で歌われました。孤高の美しさといった気分がありました。第3楽章の最初の部分は,木管楽器とバッチリと音が合い,軽妙に進んでいきました。楽章の最後の方ではテンポをぐっと上げ,大変,生き生きとした音楽に。力強く,勢いよく歌い上げる郷古さんのヴァイオリンが全開になっていました。

全曲を通じて,太田弦さん指揮のOEKもぴったりと息の合ったバックアップでした。OEKの公式ツイッターでは,「太田さんと郷古さんは同級生」と書かれていましたが,これからも何回も共演をしていくコンビになっていくのかもしれませんね。

後半(休憩なしでした)のモーツァルトの40番は,10月に高関健さん指揮による,「全部繰り返しを行う」形での演奏を聞いたばかりでしたが,今回は「全部繰り返しを行わない」形での演奏でした。この両極端を楽しめるのがOEKですね。どちらが良いとは簡単には言えませんが,「全部繰り返す」のは,時々ならば良いというのが正直なところでしょうか。今回の演奏時間は25分ぐらいでした。

太田さんの指揮ぶりは,ここでも安定感抜群でした。第1楽章冒頭から力んだような部分はなく,要所要所のみで力を入れ,こだわりの表現を聞かせる,といった感じでした。その結果として,音楽全体としての形の良さやバランスの良さが出てくると思いました。各楽章とも,オーケストラの各楽器の音がしっかりと聞こえ,モチーフの積み重ねで曲が構成されていることが実感できるような,職人的な音楽なのではと思いました。

第2楽章は,落ち着きのある自然な優雅さのある音楽になっていました。しっかりと時を刻んでいくような深い味わいがありました。第3楽章はキビキビとした感じでしたが,極端に成りすぎることはありませんでした。じっくりと演奏されたトリオは夢見るような味わい。

第4楽章も速すぎず,遅すぎず,無理のないテンポでくっきりと演奏されていました。各パートの音がしっかりと聞こえる立体感のある展開部の後,悲しみをたたえつつも力強く締め。

すべてがきっちりと設計された,お見事という感じの演奏だったと思います。太田さんは,非常に若い指揮者ですが,これから,色々な曲について,味わい深く聞かせてくれるような指揮者になっていくのではと思いました。

アンコールでは,これもまたOEK定番曲の「フィガロの結婚」序曲が演奏されました。無駄のない指揮の動作から,音楽の流れがしっかり伝わってくるような鮮やかな演奏で,メリハリも効いていました。余裕の指揮ぶりを眺めつつ,太田さんはオペラの指揮にも向いているかも,と勝手に想像してしまいました。

この日の公演の演奏時間は丁度60分程度と短めでしたが,終わってみれば,序曲,協奏曲,交響曲が揃っており,きっちりとしたプログラムを聞いたという充実感が残りました。このお二人は来年早々,七尾市で行われるOEKの公演に登場します。その共演の方も聞いてみたくなりました。

PS. 今回のコンサートマスターについて,OEK事務局の方にお尋ねしたところ,「青木さん」とのこと。顔写真などと照合しながら調べてみると,東京フィルのコンサートマスターの「青木高志」さんと分かりました。
https://www.kunitachi.ac.jp/faculty_list/50on/a/aoki_takashi.html

色々なオーケストラからの客演で来ていただけるのも面白いのですが,そろそろアビゲイル・ヤングさんの復帰も近いでしょうか?ヴィオラのダニール・グリシンさんの方は,再来日されているようですね。



せっかくなので,終演後に松任駅付近を散策しました。

   

   

 
手取川が流れる白山市は日本酒の産地ですね。今回停めた駐車場は「新幹線が見えるパーキング」。ホール利用者は,3時間無料というのはありがたいですね。

当然,新幹線ままだ見えませんでした。いつのことになるのでしょうか。


個人的には新幹線が見える...というよりは「白山が見える」としても良いのではと思いました。鉄道側の反対側からは大変よく白山方面(多分)が見えました。


(2020/11/21)



公演のポスター

以下はおなじみの光景