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PFUクリスマス・チャリティオンラインコンサート 2020
2020年12月5日(土) 15:00〜 石川県立音楽堂(Streaming+ でライブ配信)

1) ベートーヴェン/交響曲第8番ヘ長調, op.93
2) ベートーヴェン/ピアノ, ヴァイオリン, チェロのための三重協奏曲ハ長調, op.56
3) 坂本龍一/戦場のメリー・クリスマス(ピアノ三重奏による)

●演奏
三ツ橋敬子指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:松浦奈々)*1-2
川久保賜紀(ヴァイオリン)*2-3,遠藤真理(チェロ)*2-3,三浦友理枝(ピアノ)*2-3



Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)初の有料ライブ配信,PFUクリスマス・チャリティ・オンラインコンサートが行われたので,自宅のリビングで視聴しました。この配信は1日ほど余裕を設け,1日ほど「後から視聴可能」になっていましたが,私はリアルタイムでストリーミングによるライブ配信を視聴しみました。


今回は上のような感じで,ノートPCとテレビをHDMIケーブルでつないで視聴しました

ちなみに今回の配信は,イープラスのチケット制ライブ配信サービスstreameng+を使ったものでした。
https://eplus.jp/sf/streamingplus

OEK設立当初から続いている,PFU主催のチャリティ・コンサートも今年はコロナ禍の影響を受け,オンラインコンサートという形を取ることになりました。試聴するための権利を購入して自宅のリビングで観るというスタイルは,私自身初めての経験でしたが,「拍手がない」「拍手をしても届かない」という寂しさは大いにありましたが,オンデマンドにはないライブ感は感じられ,こういう形もありかもという感想を持ちました。

今回のプログラムは,ベートーヴェン生誕250年の年にちなんで,ベートーヴェンの交響曲第8番と三重協奏曲の2曲が演奏されました。ソリストが3人揃う,三重協奏曲の方がメインプログラムという配列になっていました。



最初に演奏された交響曲第8番は,9月の定期公演に続いての登場となった三ツ橋敬子さん指揮による演奏。慌てるところのない,伸びやかで美しい響きを存分に味わうことができました。今回のコンサートミストレスは松浦奈々さんでしたが,松浦さんの表情豊かなリードがそのまま全体に広がっているような明るさがありました。こういう部分が分かるのはオンラインの良さですね。



第1楽章の冒頭部分は,パンチ力と端正さのバランスが良く,その後,しなやかにゆとりのある音楽が流れて行きました。OEKの1つ1つの音にもつやがあるなぁと思いました。呈示部の繰り返しを行った後,展開部以降は,ゴツゴツとした感じの雰囲気も交え,次第にテンションが上がり,大交響曲のような威厳もありました。

第2楽章も,落ち着いたテンポ設定による軽快で優雅な音楽になっていました。ベートーヴェンには珍しい,ユーモアもじんわりと伝わってくるようでした。

第3楽章も慌てすぎることはないけれども,滑らかな推進力のある音楽。トリオの部分で,ホルン,クラリネット,チェロを中心としたじっくりと聞かせる室内楽のようになるのはOEKらしいところだと思います。交響曲の中に室内楽が組み込まれているような立体感が感じられました。

第4楽章も速すぎないテンポで,弦楽器の細かい音型などもくっきりと演奏されていました。ニュアンスの変化もしっかりと感じられ,律義さの中からユーモアが伝わって来ました。最後の部分はティンパニの「見せ場」ですが,力感たっぷりの演奏で,威厳たっぷりに全曲が締められました。遅ればせながら「ブラーヴォ」です。

後半で演奏された,三重協奏曲のソリストは,ヴァイオリン:川久保賜紀,チェロ:遠藤真理,ピアノ:三浦友理枝の3人。考えてみると,指揮者も女性,コンサートミストレスも女性。特に男女の区別を意識する必要のない時代ではありますが,これだけ女性中心というのも珍しいかもしれません。



この曲は,ピアノ三重奏+協奏曲という独特の編成ということで,滅多に演奏されることがない曲です。第1楽章のひっそりと始まる序奏部は,「いかにもベートーヴェン」という「来るぞ,来るぞ」感が良いですね。3人の演奏は,トリオを作って10年目というだけあって,息がぴったりで,密度の高いアンサンブルをじっくりと楽しむような雰囲気がありました。ただし,曲の雰囲気としては,三重奏+協奏曲という「二重の制約」がある感じで,自由自在に羽ばたくいう感じが出しにくいような曲という気もしました。

その点で,冒頭の遠藤真理さんの緻密で伸びやかさのあるソロをじっくりと堪能できた,第2楽章がいちばん聞きごたえがあった気がしました。同じベートーヴェンの「皇帝」の2楽章に通じるような気分があるとも居ました。OEKと遠藤さんは,かなり以前,サン=サーンスのチェロ協奏曲のレコーディングを行っていますが,久しぶりに定期公演などに客演をしていただきたい奏者の一人です。その後,ヴァイオリン,ピアノにもそれぞれに聞かせどころがあり,じわりと広がる幸福感に浸ることができました。

第3楽章は,「ロンド・アラ・ポラッカ」ということで,軽快だけれどもじっくりと演奏されたポロネーズ風の楽章。ベートーヴェンが同時期に書いた「傑作の森」と呼ばれる他の曲に比べると,大きく盛り上がるという感じの曲ではないのですが,3人が一体となっての優雅な力強さが魅力的でした。速いパッセージなどがきっちりと揃うのも気持ちよく,最後は堂々と締めてくれました。

終演後は,OEKからの拍手。演奏後に拍手を送れないというのは,やはりももどかしさがあります。この曲の場合,ソリストが複数ということで,全員に送るとすれば,「ブラーヴィ(複数向け)」になると思います。が,せっかくなので「ブラーヴァ(女性向け)」というのも言いたくなります。

この2曲の後,三ツ橋さんと3人のソリストによるトークが入りました。こういう「公演後のインタビュー」的なものが入れられるのは,ライブ配信のメリットだと思います。

そして,クリスマスを意識したアンコール曲として坂本龍一による映画「戦場のメリークリスマス」の音楽がピアノ三重奏で演奏されました。最初の三浦友理恵さんのピアノのクリアな音を聞きながら,坂本さんの音楽だなぁと実感。途中,力強く音を刻みながら大きく盛り上がる部分があったり,大変聞きごたえのある演奏でした。

ちなみにこの日の3人のドレスは,「同じ生地から作った?」という感じの朱色(画面ではそう見えたのですが)でしたが,これはサンタ・クロースと同じ「クリスマス色」だったのだなぁと後から気づきました。

というわけで,初めての「有料ライブ配信」を十分楽しみました。期間限定ですが,「何回も視聴できる」というのもこの方式のメリットです。今後のアイデアですが,年数回,実際の「お客さんを入れた定期公演」について「有料ライブ配信」を行うのも面白い気がします(お客さんの拍手が入るので)。または,定期会員だけ「期間限定見逃し再送信」を受ける権利をもらえるというのも考えられそうです。いずれにしても,新しいファン層を広げるための試みとしても,今後も注目だと思います。

(2020/12/12)




公演開始前(前日)の画面

公演開始前(当日)の画面


公演終了後の画面