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クリスマス・メサイア公演2020
2020年12月6日(日) 15:00〜 石川県立音楽堂 コンサートホール

ヘンデル/オラトリオ「メサイア」HWV56 (抜粋)
(演奏曲:1,2-3,6,8,10-11,13-15,18/23,29-32,36,40,42-44/47-48,52-53曲,13の前に「きよしこの夜」を演奏)

●演奏
裄V寿男指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直)
韓錦玉(ソプラノ),小泉詠子(メゾソプラノ),青柳素晴(テノール),与那城敬(バリトン),春日朋子(オルガン)



Review by 管理人hs  

12月上旬恒例,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のクリスマス・メサイア公演が行われたので聞いてきました。ただし,この公演についてもコロナ禍の影響を受けており,「合唱なしメサイア」という異例の形になってしまいました。それでも,「メサイアの歴史は続く」という公演のサブタイトルどおり,北陸聖歌合唱団が70年以上に渡って継続してきた,年末メサイア公演の伝統はしっかりと引き継がれました。


開演前のステージ。文字が投影されています「へ2」ではなく,「72」です。このメサイア公演ですが,何と72回目ということになります。

「合唱なし」で「メサイア」を演奏するというのは,異例ではあったのですが,指揮の裄V寿男さんが公演前のプレトークで語っていたとおり,「合唱なしでも,ストーリーはほぼつながる!」というのも新たな発見でした。第2部と第3部の「締め」の音楽である,「ハレルヤコーラス」と「アーメンコーラス」を4人のソリストのみで歌った以外は,独唱曲ばかりになりましたが,すっきりとまとまったメサイアを聞いたという手応えがしっかり残りました。



もちろん「ハレルヤ」も「アーメン」も,華麗な雰囲気よりは,質実な雰囲気に変わりました。この華やか過ぎない,室内楽的気分は,むしろ今年1年の雰囲気に相応しいと感じました。お客さんの多くは,それぞれの心の中で音楽を膨らませて,「メサイア」を聞ける喜びを噛みしめていたのではないかと思います。

今回の演奏は休憩なしで,全体で70分ほどに納まっていました。裄Vさんのテンポ設定は,序曲から比較的速めで,誠実・率直に折り目正しくキビキビと音楽を進んでいく感じででした。いつもにも増して,弦楽器を中心にOEKの清々しい音を楽しむことができました。

そして何と言っても,今回の主役は4人のソリストたちだったと思います。上述のとおり,2つの合唱曲も歌っていましたので,のんびりとしている暇はなかったかもしれません。

序曲に続いてテノールのソロが出てくると,「「メサイア」開始!」という気分になります。青柳素晴さん声は大変柔らかでした。グイグイ進むテンポ感も快適でした。

その次に登場したのが,メゾソプラノの小泉詠子さん。第6番のアリア(But who may abide the day of His coming?)では,抑制された落ち着きのある声で始まった後,キレのよい弦楽の上で引き締まった歌を聞かせてくれました。

第10-11番のバリトンのアリアは,暗〜い感じの曲。バリトンの与那城敬の凄みを秘めた威力のある声からは,イエス生誕への期待が高まりました。ただし,この曲に続く,クリスマス公演には本来欠かせない第12番の合唱曲(For unto us a Child is born;ワンダフル"という歌詞が出てくる曲)は今回カット。この点については,指揮の裄Vさんも残念だったようで,プレトークで次のようなことを語っていました。

「今回の選曲で,1カ所だけストーリーのつながらないところがあります。それは,第1部12曲目のイエス生誕の場の合唱が抜けていることです。その代わりに,例年アンコールで歌ってきた「きよしこの夜」を,13曲目「ピファ(田園交響曲)」の後に入れるので,会場の皆さんもハミングで参加してください」というお願いがありました。

確かに「ワンダフル」のない「クリスマス公演」というのは,物足りなかったのですが,今回の「きよしこの夜」を入れるというのも素晴らしいアイデアでした。音楽的にも違和感がなかったし,何よりもハミングという形ではあれ,会場に居た合唱団の皆さんが参加する機会を作ってくれたことが良かったと思いました。この歌詞のない「きよしこの夜」は,多くの人にとって忘れられない瞬間になったのではないかと思います。

その後は,ソプラノの独唱以外にも合唱の見せ場(Glory to God in the highest)などが続くのですが,今年は省略されていました。ソプラノの韓錦玉さんの声は大変軽やかで天使のような軽やかさで,第18番のRejoice greatly,O daughter of Zionまでを優しく聞かせてくれました。

第2部最初の第23番のアルトのアリアHe was despisedも欠かせない曲です。小泉さんの声には落ち着きと深みがありました。所々で「情」が見え隠れするのが感動的でした。

その後,テノールとソプラノのアリアで,次第に気分が明転。その推移が美しく感じました。第2部後半の第40番のバリトンのアリア"Why do the nations"も欠かせない曲です。バリトンの与那城さんの颯爽とした声とスピード感あふれるテンポ感が実に格好良いと思いました。

ピリッとしまったテノールの声に続いて,第2部締めの「ハレルヤ」に。堂々とした歌でしたが,来年は是非,大合唱で楽しみたいと思います。

ここで拍手が入った後,一息入れて,第3部へ。すぐに第47-48番The trumpet shall soundになったので,見せ場の連続という感じでした。藤井さんのトランペットと一体となったように与那城さんが輝かしい声を聞かせてくれました。

第52番のソプラノによるしっとりとしたアリアの後,最後の「アーメン」に。最初の方は少しカットしていましたが,威厳と華やかさが伝わってくる演奏でした。4人だけの歌でしたが,フーガの部分は,かえって声部が聞きやすい感じもあり,誠実な歌がしっかりく染み渡るような音楽になっていました。

今回,特に北陸聖歌合唱団の皆さんが出演できなかったことは,大変残念ことだったと思います。が,その思いはしっかりと受け継がれたと思います。ある意味「コロナの年」を象徴するような,これまでにない公演になったと思います。プレトークの最後で,裄Vさんは,コロナ禍の後に北陸聖歌合唱団と再度共演したいとおっしゃられていましたが,その日が来ることを楽しみにしています。

PS. 公演に先だって,春日朋子さんによるオルガン独奏のプレコンサートがありました。こちらの方は聞けなかったのですが,次の曲が演奏されました(プログラムの情報)。

バッハ,J.S./プレリュード変ホ長調, BWV.552-1
ヴィエルヌ/オルガン交響曲第3番嬰ヘ短調, op.28〜第5楽章「終曲」

 
例年,終演後は「真っ暗」になっているのですが,今年は約70分で終了したので,まだ明るかったですね。

(2020/12/13)