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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2020 秋の陣 C007 バレエ「くるみ割り人形」
2020年12月24日(木)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

チャイコフスキー/バレエ「くるみ割り人形」(全2幕)

●演奏
垣内悠希指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
バレエ:エコール・ドゥ・ハナヨバレエ,共演:永井与志枝バレエスタジオ 他



Review by 管理人hs  

コロナ禍に明け暮れた2020年のクリスマス・イブの夜に,風と緑の楽都音楽祭2020 秋の陣として行われた,チャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」(全2幕)を石川県立音楽堂で鑑賞してきました。この日と翌25日のバレエ公演が音楽祭の最終公演ということで,困難な状況,音楽祭をやり切ったことになります。バレエは地元のバレエスクール,エコール・ドゥ・ハナヨバレエ等のダンサー+ゲストダンサー,演奏はオーケストラ・アンサンブル金沢,指揮は垣内悠希さんでした。

まず,大好きなこの作品の全曲上演をコロナの年に楽しめたことに感謝したいと思います。第1幕のねずみや兵隊,第2幕のキャンディなどのお菓子役など,ステージに子どもたちが大勢出演していたのに加え,客席にも親子連れが多かったのが嬉しかったですね。色々と気を遣うことが多い状況の中,大勢の出演者を束ねて,見事な公演を作り上げた関係者の方々に感謝をしたいと思います。総力を結集したような公演に胸が熱くなりました。

今回の公演はとても正統的で,イメージ通りの「くるみ割り人形」の世界が石川県立音楽堂のステージ上に広がっていました。音楽堂にオーケストラ・ピットはないので,OEKは,1階席前方の座席を撤去した部分に配置し,ステージは純粋にバレエ用に使われていました。





小序曲が始まってしばらくすると,"Nutcracker"というタイトルがステージ奥上方のスクリーンに投影されました。この日の公演では,このスクリーンを上手く使っていました。OEKの演奏は,雰囲気がちょっと硬い感じでしたが,いつもと違う場所で演奏していたことが影響していた気がしました。私は3階席で聞いていたのですが,楽器の音がいつもよりも生々しい感じがしました。

第1幕が始まると,ステージ奥のクリスマスツリーを中心に,子どもたちが入ってきたり,パーティのお客さんが入ってきたり,沢山の人物が入れ替わり立ち替わり出演。「リアル・クリスマスイブ」の雰囲気が出ていました。バネ仕掛けの人形のアクロバティックなダンスが入ると気分が盛り上がりますね。

時計の時報の鐘の音が鳴り,夜が更けると,クリスマスツリーがしっかりと巨大化します。こういった部分でのオーケストラの分厚いサウンドは,「生チャイコフスキー」ならではの魅力です。そういえば...今回はアビゲイル・ヤングさんがコンサートミストレスでした。いつ以来の登場でしょうか。OEKファンにとっては大きなクリスマス・プレゼントだったのではないかと思います。

その後,ねずみ軍とおもちゃの兵隊の戦闘シーンになります。ステージ全体が赤い色に変化する中,見事に統制の取れた群舞になっていました。勝負の決着が付いた後は,マーシャ(主役の呼び名は色々あるようですが,今回はマーシャとなっていました)と王子のアダージョになります。この部分も素晴らしかったと思います。幸福感に包まれた音楽の上での初々しく,伸びやかなダンスを,「ずっと続いて欲しいなぁ」という感じで見ていました。

第1幕切れは,コール・ド・バレエによる,粉雪のワルツ。この部分も「くるみ割り人形」には欠かせない部分ですね(「くるみ割り人形」の場合,全編「見どころ」ですが)。この部分では,背景のスクリーンに雪の映像を投影していました。さすがに今回は児童合唱抜きでしたが,透明感溢れるイメージどおりの雰囲気に浸りつつ...密かにウルウルとしながら,雪の夜景のシーンに浸っていました。

第2幕冒頭は,第1幕後半のイメージの連続のような間奏曲風の部分。スクリーンに投影された青っぽい色(だったと思います)が,すっきりとしていて印象的でした。

続く,ディヴェルティスマンの部分では,色々な国のダンスがしっかりと描き分けられていました。今回の公演全体を通じて,衣装が素晴らしかったのですが,この部分は特に素晴らしかったと思いました。あまりにも次々と,色々な衣装を着たダンサーたちが出てきたので(例えば「中国の踊り」は,プログラムによると12人出演),「舞台裏はどうなっているのだろう?」と気になるほどでした。有名な組曲に収録されているキャラクターピースの中では,じっくりとしたテンポで3人で踊られた,「あし笛の踊り」が特にいいなぁと思いました。大人数で踊られた「中国の踊り」は,見るからに鮮やかで,元気がありました。

「メール・シゴンニュとポリシネルたちの踊り」については,以前,大きなスカートを履いた女性のスカートの中から,小さな子どもたちがゾロゾロ出てくる振付を見たことがありますが,これは,まさに「密」な状況になってしまいますので,今回は子どもたちが輪になって,ステージ上を踊り回るような振付になっていました。全員で25人ぐらいいたのですが,この中に1人だけ違う色の衣装を着た,とても小さなお子さんが混ざっており,遠くからちょっとハラハラしながら,見守ってしまいました。とても楽しい演出でした。

そして,ディヴェルティスマンの部分を締めくくる「花のワルツ」。乳白色〜薄いピンクの衣装を着たダンサーたちが,群舞を踊ったり,男女ペアのダンスになったり,優雅に魅せてくれました。垣内さん指揮OEKの演奏は,軽快さと同時に,安定感のあるテンポ設定で,ダンサーたちも踊りやすかったのではないかと思います。

続いて,こんぺい糖の精と王子による「パ・ド・ドゥ」に。これももたっぷりと魅せてくれました。最初の「アダージョ」の音楽は,「どうしたらよいのだろう」という閉塞感におおわれているコロナ禍の中で聞くと,特に感動的でした。抑圧されていた思いを大きく開放してくれるような音楽であり,ダンスだと思いました。その後,ヴァリアシオン1,ヴァリアシオン2(有名な「こんぺい糖の精の踊り」。一部,音楽をカットしていました),コーダ...と続くと,「バレエを観ているなぁ」という気分がどんどん高まりますね。

「パ・ド・ドゥ」の次に出てくる「終幕のワルツ」では,第2幕に出てきたキャラクターが勢ぞろいし,皆で踊ります。この曲の出だしの部分ですが,ダンサーたちが,音楽が始まる前にワーッと動き始め,オーケストラの方が「バーン」と振りに合わせて音を入れて,バチッと決めるという感じになっていました。こういうのもバレエらしく,良いですねぇ。キャラクターたち勢揃いの華やかな音楽ですが,音楽が進むにつれて「もうすぐ,このバレエも終わりだ」とちょっと寂しい気分にもなります。

終演後のカーテンコールについては,恐らく,長くなるのを避けるためか,アンコール的に「メール・シゴンニュとポリシネルたちの踊り」がもう一度演奏され,手拍子の中,次々と出演者がご挨拶をしていました。途中,曲が3拍子っぽくなるので,手拍子がし辛い部分もあったのですが,この趣向も良いと思いました。

気が付けば21時過ぎ。時間を忘れて鑑賞していた感じです。繰り返しになりますが,コロナ禍の中,今回のような総力を結集したような公演を楽しませてくれたことに敬意を表したいと思います。


終演後のステージ。司会の方が「お帰り」の案内をしているところです。

(2020/12/29)