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オー ケストラ・アンサンブル金沢第436回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
2021年1月9日(土) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) モーツァルト/交響曲第31番ニ長調,K.297「パリ」
2) ヘンデル/オルガン協奏曲第4番ヘ長調,HWV.292
3) ハイドン/交響曲第104番ニ長調,Hob.I:104「ロンドン」

●演奏
鈴木優人指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング),鈴木優人(オ ルガン*2)



Review by 管理人hs  

大雪の中,2021年最初のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演を石川県立音楽堂コンサー トホールで聴いてきました。指揮は鈴木優人さん。オルガン協奏曲でのオルガンの演奏も担当されました。

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まずこの日の金沢ですが,約30cmの積雪があり(その後さらに積もり,翌日には60p以上になっていまし た),市内の交通はかなり混乱していました。我が家の周辺でも幹線道路までの道路の除雪が行われておらず, 下手に自家用車を使うと動けなくなりそうだったので,一番確実な「徒歩」で石川県立音楽堂に行くことにしま した。約1時間歩いたので,音楽を聴く前に,ホールに到着しただけで「達成感+疲労感」を感じてしまいまし た。

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公演は,モーツァルトの交響曲第31番「パリ」,ハイドンの交響曲第104番「ロンドン」という2つのニ長 調の交響曲の間に,ヘンデルのオルガン協奏曲第4番が入る「音楽堂でGO TOヨーロッパ」的な構成。内容的には「普通の」定期公演でしたが,2曲のニ長調の交響曲の演奏には,何とも言えない品の良い華やかな気分があり,昨年までのニューイヤー コンサート同様,ホール内には沢山の花が飾られていたこともあり,新年を祝う気分には相応しいと雰囲気があ りました。

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最初に演奏された,モーツァルトの「パリ」交響曲を実演で聴くの方は久しぶりですのこと。第1楽章の冒頭の 雰囲気から大らかな華やかさがありました。鈴木さんのテンポ設定には慌てた感じはなく,OEKの各楽器が しっかり聞こえてきて,充実感がありました。丁寧な中から華やかさが立ち上がり,微笑みが漂ってくるようで した。途中に出てくる軽妙でしなやかな主題の品の良さも印象的でした。楽章を通じて,テンポ感は一定で, まったく揺るぎがなかったので,スケールの大きさも実感できました。

この日の楽器の配置は,コントラバスとチェロが下手側に来る対向配置で,ティンパニとトランペットが上手奥 に並んでいました。

       Cl  Fg    TP
Hrn  Fl  Ob       Timp
        VC   Va
Vn1     指揮者       Vn2


ちなみに,この演奏会の翌日,鈴木優人さんの父上の鈴木雅明さん指揮NHK交響楽団による公演をNHK Eテレで放送していたのですが(図らずもハイドンとモーツァルトの交響曲の組み合わせ),その配置と全く同じだったのが面白かったですね。

第2楽章には,しっとりとした脱力感がありました。静かな落ち着きと丁寧で温かみのある音楽は,鈴木さんの 雰囲気そのものだと思いました。

第3楽章も,第1楽章同様,じっくりとしたテンポ感で演奏され,各パートの絡み合いが特に面白く感じられま した。立体感のある盛り上がりがあり,曲の最後の部分も,大きく花が開くように締められました。

その後,ヘンデルのオルガン協奏曲第4番が演奏されました。もともとこの曲は,オラトリオの幕間に演奏され た曲ということで,今回もそのことを意識して演奏会の真ん中に置かれたのだと思います。楽器の設置に少し時 間がかかったので,場つなぎに鈴木さんによる楽器の説明などのトークが入りました。この内容も面白いもので した。

今回使われたオルガンは,音楽堂備え付けのパイプオルガンではなく,鈴木さん所蔵のポジティフオルガンとい う小型のオルガン(チェレスタと同じぐらいの大きさでしょうか。譜面立てがなかったので,見た感じ「立派な 机=演台」のようでした)が使われました。雪の中,鈴木家から搬送されたものですが,ヘンデルのこの曲につ いては,この楽器を使っていたはずとのことでした。

その他,今回「パリ」「ロンドン」と旅を意識した曲を選んだこと,どちらも「お祝い」の調性と言っても良い ニ長調であること,レの音(ニ長調の基音)はドより先にあった音でること...とても興味深い話が続きまし た。

ヘンデルの曲は,小型のオルガンを使っているということもあり,第1楽章の最初から,可愛らしい感じの音が 鳥の鳴き声のように聞こえたり,軽快な音が印象的でした。第2楽章では音色がくぐもった感じに代わり,シン プルで素朴な音が夢見心地にさせてくれました。この日は徒歩で歩いてきて,少々疲れていたこともあり,絶好 の癒しの音楽になりました。オルガンによるつなぎの音楽的な第3楽章の後,明るく前向きな気分で世界を祝福 するような第4楽章で締められました。OEKの弦楽器とオルガンとが一体となったキラキラ光るような音色が 素晴らしいと思いました。

後半のハイドンの「ロンドン」は,OEKが頻繁に演奏している曲です。数年前の定期公演では,ハインツ・ホ リガーさん指揮による,非常に個性的で表現力豊かな演奏を聞きましたが,この日の演奏も,王道を行くような 立派さと,鈴木さんならではのアイデアに溢れた,素晴らしい演奏だったと思います。まず,第1楽章冒頭の序 奏部の鋭く切れ込むような感じのインパクトがまず素晴らしかったですね。鋭い音でピ リッと引き締めていたトランペットの音を中心に,各楽器の音がとても美しく聞こえました。

主部に入ると,ゆったりとしたテンポ感になり,高級な音楽に身をひたしているような優雅な気分にさせてくれ ました。ファゴットの演奏する対旋律など,これまで聞き逃していたようなフレーズがフッと浮き上がって聞え てきたり,自然な中にもこだわりを感じました。展開部での,同じリズム音型を繰り返し積み重ねていく部分も 心地良く感じました。全曲を通じて,「パリ」同様,OEKの各楽器の音がソリスト集団のような感じでしっか り聞こえて来て,楽章の終結部を中心に大交響曲を聴いた充実感を感じました。

第2楽章は,落ち着いた気分をベースに,雰囲気が生き生きと変化していました。近年,「ハイドンの2楽章」 の持つ「おだやかな日常の中の変化に富んだドラマ」的な気分が好きになっています。程よく短調になり,程よ くドラマティックになり,程よく甘い夢を見させてくれ,最後は平穏に戻る。ここでも色々な楽器が活躍 し,OEKファミリーの中に自分も加えてもらったようなリラックスした気分で音楽を楽しむことができまし た。

第3楽章は,輝きと力感のあるメヌエットが印象的でした。ここでもトランペットの輝きのある音が良いスパイ スになっていました。途中,リズムが変則的になる部分で独特の強調など,細部まで磨かれているなぁと思いま した。トリオの部分では,気分がスーッと変わり,別世界に連れて行ってくれました。この転調,大好きです。

第4楽章は低音楽器による持続音で始まります。この日の楽器配置は,コントラバス,チェロ,ホルンが近くに 並んでいたので,この部分で特に効果的だと思いました。リラックスした気分でスタートした後,次第にキビキ ビと音楽が絡み合い,大きく盛り上がる充実感のある音楽になっていました。最後の部分では,大きくテンポを 落として,「おしまい」と語りかけるような感じで終わっていました。曲全体を通じて,威圧的になる部分はな く,自然なユーモアが漂ってくるような余裕を感じました。

OEKの定期公演では,コンサートマスターを中心に全員が「礼」をしてお開きになるのですが,この日のコン サートマスターは,定期公演に登場するのは,本当に久しぶりのアビゲイル・ヤングさんでした。最後にその笑 顔を見てこちらも嬉しくなりました。OEKメンバーにとっても,最高のスタートを切れた2021年最初の定 期公演だったのではないかと思います。

と,書いたのですが,翌日の「射水公演」は記録的な大雪のため中止に。鈴木さん,OEKメンバー,そして, 何よりもお客さんにとって残念なことになりました。上記のポジティフオルガンは,射水市のホールまで長時間 を掛けて届いていたのですが(通常ならば高速道路で1時間ぐらいで到着でしょうか),もしもOEKのメン バーが移動していたら,長時間バスの中に閉じ込められるような自体になっていたのかもしれません。その点で 妥当な判断だったと思いました。

終演後は,恒例の「たろうのどら焼き」のプレゼントもありました。例年のような,OEKメンバーからの手渡 しではなかったのですが,この点も仕方がないところです。このお土産も嬉しかったですね。毎年違う味なのも 楽しみです。

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(付録)今回の大雪の写真を掲載しましょう。

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JR金沢駅前はこんな雰囲気。

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ようやく鼓門に到着

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この日は,石川県立音楽堂の地下入口から入 りました。

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全面ガラス張りのもてなしドームの屋根にこ んなに雪が積もっているのを見るのは初めてかも。

yane
いかにも重苦しい感じでした。

(2021/01/15)



kadomatsu
門松と立看板
annai

tatekan

kingasinnen
恒例のメンバー のサイン入りの新年のご挨拶
 broadcast
こ の日の公演は,北陸朝日放送(石川県内限定)で放送される予定