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オーケストラ・アンサンブル金沢第437回定期公演マイスター・シリーズ
2021年1月30日(土) 石川県立音楽堂コンサートホール

1) モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調,K.216
2) モーツァルト/セレナード第6番ニ長調,K.239「セレナータ・ノットゥルナ」
3) モーツァルト/交響曲第29番イ長調, K.201

●演奏
三浦文彰指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
三浦文彰(ヴァイオリン)*1



Review by 管理人hs  

石川県立音楽堂コンサートホール行われた,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)第437回定期公演マイスター・シリーズを聞いてきました。指揮とヴァイオリン独奏は,三浦文彰さんで,プログラムはすべてモーツアルトのK.200番台の作品という,OEKならではと言っても良い構成でした。



三浦さんとOEKは,過去何回か共演していますが,弾き振り+指揮者としての登場は初めてのことです。プログラムのプロフィールを見ても「近年は指揮活動も行っている...」といった記述はなかったので,本日の公演は,三浦さんにとっても大きなチャレンジだったのではないかと思いました。

今回のプログラム中,最後の交響曲第29番だけは,三浦さんはヴァイオリンを持たず純粋に指揮者として登場しました。公演前は,きっと,コンサートマスターの位置で「弾き振り」としてリードするのだろうと思っていたので,ヴァイオリンなしで指揮棒を持って登場された時は,「おお」と思ってしまいました。29番については,この公演の1週間ほど前に,OEKは「指揮者なし,アビゲイル・ヤングさんのリード」という形で静岡県三島市で演奏してきたばかりです。三浦さんにも,プレッシャーもあったかと思うのですが,特に両端楽章ではしっかりとした音が鳴り,推進力のある音楽をOEKから引き出していました。

第1楽章には凜としたたたずまいがあり,瑞々しい音楽がホールに広がっていました。第2楽章も中庸のテンポでしっかりと歌っていましたが,個人的には,楽章の最後の方に出てくるオーボエ・ソロ(この部分が大好きです)などは,もう少しピリッと効かせて欲しいかなと思いました。第3楽章のメヌエットは,速めのテンポでのキビキビとした音楽。第4楽章は力強く締めてくれました。

全体としてきっちりとした音楽でしたが,自然に湧き上がってくるような伸びやかさや音楽の持つ起伏という点で少々物足りなさを感じました。三浦さんの指揮ぶりは,この曲を熟知しているヤング+OEKを指揮するには,やや指示が多過ぎるように見えましたが,この辺は仕方がないところかもしれません。

演奏内容的には,2曲目に演奏されたセレナータ・ノットゥルナが大変ノリの良い楽しい演奏で特に素晴らしかったと思いました。バロック時代の合奏協奏曲のようなスタイルで,ヴァイオリン2,ヴィオラ1,コントラバス1がソリストグループとして登場し,それ以外の「トゥッティ」のティパニ+弦楽合奏と交互に演奏していくような,独特のスタイルの曲です。

ちなみに,この「各首席奏者1人だけが前に出る配置」ですが,コロナ対策として7〜8月頃に取っていた配列と似ているなと思いながら見ていました。

この演奏で,三浦さんは第1ヴァイオリンのソロも担当していたのですが,その滴るような音がオーケストラの上に重なり,他のソリストとコミュニケーションを取りながら,ニュアンス豊かな音楽が展開していきました。推進力のある速いテンポ設定で,冒頭の行進曲風の部分も野暮ったくなることなく,全体としてオーケストラの仲間と作る楽しいセッションといった雰囲気を作っていました。弦のピチカートとティンパニとが弱音で重なる独特の軽やかさも大変魅力的でした。

第2楽章は力強くダイナミックな演奏。聞いていて元気が出ました。第3楽章も速めのテンポによるキビキビした演奏。楽章中に次々出てくるエピソードごとに表情が変わったり,テンポをぐっと落としたり,音楽仲間との楽しいセッションといった楽しげな気分がありました。このパターンで,OEKとの室内楽などを聞いてみたいものだと思いました。

演奏会の最初に演奏されたヴァイオリン協奏曲第3番では,三浦さんのたっぷり,しっかりとした音を存分に楽しめました。この日のOEKの配置は,近年のOEKの定期公演ではかえって珍しくなった感のある「第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが並ぶスタンダードな配置でした。演奏全体にも「これがスタンダード」といった感じの堂々とした自信と余裕があり,明るい大らかさを感じました。ヴァイオリンの音がとてもよく鳴り,音楽全体が自然に輝いているようでした。神経質な雰囲気は全くないので,心置きなくモーツァルトの音楽に浸ることができました。

第2楽章でも,心地良いヴィブラートの効いた豊かな音楽を聞かせてくれました。この楽章にだけフルートが入るのですが(モーツァルト時代は,何とオーボエとフルートを持ち替で演奏していたとのこと),三浦さんのヴァイオリンと一体となって,晴れやな気品のようなものが漂ってきました。第3楽章でも朗らかで率直,推進力のある音楽を聞かせてくれました。全曲を通じて,若々しく健康的な美しさにあふれた演奏だと思いました。公演ポスターの「青年モーツァルトの肖像」というキャッチコピーにぴったりの内容でした。

三浦さんとOEKは,今後も共演を繰り返していくと思いますが,OEKファンとしては,セレナータ・ノットゥルナのような感じで,OEKメンバーとの室内楽を期待したいと思いました。三浦さんは,約1年前の東芝グランドコンサート金沢公演では,ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番をエーテボリ交響楽団と共演予定でしたが,コロナ禍で公演自体がキャンセルになってしまいました。こちらの方も機会があれば,再演を期待しています。この際,編成を増強したOEKとの共演でも良いかもしれませんね。

PS. この日も前回の1月9日の定期公演同様,雪が降っていましたが...雪の量は全く違っていました。

パラパラと降っていたのですが,カメラでは写らないぐらいでした。


もてなしドームの「屋根雪」で比較してみましょう。

1月30日の屋根雪


1月9日の屋根雪
yane

1月30日


1月9日
yane

(2021/02/05)





公演の立看板




OEKの名前が入ったスクリーンが入口付近にありました。OEKの公演の時に出すのでしょうか。演奏旅行の時などに持っていくと,印象が変わるかもしれませんね。

また別のデザインのものもありました。季節ごとに色が変わっても面白いかも。