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平原綾香&オーケストラ・アンサンブル金沢 ファンタスティック・オーケストラコンサート
2021年2月3日(水)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

第1部
1) ロジャース(渡辺俊幸編曲)/ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」〜メインテーマ
2) 内池秀和(平原綾香作詞,沢田完編曲)/Voyagers
3) 渡辺俊幸(岡田恵和作詞,渡辺俊幸編曲)/おひさま〜大切なあなたへ
4) リムスキー=コルサコフ(平原綾香作詞,渡辺俊幸編曲)/シェヘラザード
5) ギャニオン(松井五郎作詞,沢田完編曲)/明日

第2部
6) ビゼー/歌劇「カルメン」〜前奏曲
7) ビゼー(平原綾香作詞,坂本昌之,渡辺俊幸編曲)/CARMEN〜Je t'aime〜
8) アイルランド民謡(平原綾香作詞,渡辺俊幸編曲)/Danny Boy
9) マスカーニ(平原綾香作詞,西山勝編曲(ストリングス))/CARMEN〜Je t'aime〜
10) ホルスト(吉元由美作詞,宮川彬良編曲)/Jupiter
11) (アンコール)マンシーニ(編曲者不明)/映画「ティファニーで朝食を」〜ムーン・リバー

●演奏
平原綾香(歌)*2-5,7-11,渡辺俊幸指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング),紺野紗衣(ピアノ),伊藤史朗(ドラム)



Review by 管理人hs  

「コロナ」の影響で昨年4月11日から延期されていた,歌手の平原綾香さんと渡辺俊幸指揮オーケストラ・アンサンブル金沢によるファンタスティック・オーケストラコンサートを聞いてきました。半年以上チケットを持ち続けるのは,私としては異例のことで,ようやく使えることにちょっとした感慨を持ちました。この間を振り返ってみると,自粛気味の生活が続いていることもあり,「一体何をしていたのだろう?何もしていなかったなぁ」という気分ですね。


左が今回の公演チラシ。右側が当初のチラシです。

昨年3月にこの公演のチケットを買ったときは「4月になれば,OEKの公演も再開するだろう」と(今から思えば呑気に)思っていたのですが,第2波,第3波と続き,影響が1年以上になることは必至という状況。それでも,「コロナの要所」に注意しつつ,クラシック音楽系のコンサートについては,対策を取れば再開できる状況になってきていることには感謝したいと思います。


今回は当初のチケットのまま入場できました。座席も変更なしでした。

今回のプログラムは,平原さんの代名詞でもある「クラシック音楽のカバー曲」を中心に8曲。オーケストラのみで2曲演奏が演奏されました。平原さんの歌を生で聞くのは今回が初めてだったのですが,表現力豊かな歌唱の連続で,聴きごたえ十分でした。素人の私が書くのもおこがましい面はありますが,どの曲も音程が素晴らしく,「ビシッと」決まっていました。一声聞いてプロの歌手の磨き上げられた声だなぁと感じました。

平原さんの声は,音域が非常に広く,音域ごとに表情が変わるようなところが魅力だと思いました。ドスの効いた低音,輝きと力強さのある中音域,可愛らしさを感じさせる高音。さらには,聴き手の耳に絡みついてくるような少し粘り気のあるような声。こういった多彩な声を使い分けて,安定感たっぷりの歌を聞かせてくれました。

個人的には,マイクとスピーカーを通した大音量が苦手なのですが,石川県立音楽堂コンサートホールでの生OEKと共演ということで,音量のバランスも最適だったと思いました(私は3階席前方で聞いていました)。


開演前の写真。ステージ上には緑色の照明。3階席でしたが,とてもよく見えました。

平原さんについては,「音楽大学卒業の歌手」ということで,声楽科卒だとずっと思っていたのですが,実はサックスが専攻,その後ジャズの勉強をしていたということで,「クラシック音楽の専門家ではない」とのことでした。言われてみれば,歌唱法はジャズっぽい感じですね。音楽大学時代,朝早い1限目の授業でたまたま聞いたホルストの「木星」がきっかけとなって,クラシック音楽のカバー曲でデビューして,大当たりしたという話を聞いて,世の中のめぐりあわせというのは面白いものだと思いました。

公演は第1部,第2部に分かれていましたが,特にタイトルは付いていなかったので,休憩をはさんで,前半・後半に分かれていたというだけの意味のようでした。

第1部の最初,全体の序曲のような雰囲気で,ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」のテーマ曲がOEKの演奏のみで演奏されました。ゆったり+キラキラといった感じの演奏で期待を高めてくれました。

その後,平原さんがクリーム色っぽい衣装で登場し,アップテンポの「Voyagers」でスタート。切れの良い発声が心地良かったですね。

その後は,曲間で指揮の渡辺俊幸さんを交えてのトークをはさみつつ進行しました。ちなみに,OEKと平原さんの共演は「確か3回(もっと共演していたかな)」で,演奏会のあった2月3日は渡辺俊幸さんの誕生日だったそうです。リハーサルの時には,サプライズ(お決まりのサプライズかもしれませんが)で「ハッピー・バースデー」の歌のプレゼントがあったようです。

続いては,平原さんと渡辺さんが共演するからには欠かせない,NHK朝ドラ「おひさま」のテーマ曲が歌われました。もともとは短めだけれどもとても音域の広い「歌なし」の曲だったのですが,「平原さんなら歌える」ということで,歌詞のある曲にアレンジしたとのことです。この朝ドラは見ていなかったのですが,少女時代からお母さんになって...というストーリーを表現するような壮大な作品に仕上がったとのことです。

今回の平原さんの歌を聞いて,そのとおりだと感じました。少女時代を思わせる可憐な声で始まった後,声にどんどん自信があふれてきて,大きく盛り上がっていくような,歌で聞く朝ドラといった歌唱でした。

次の「シェヘラザード」は,リムスキー=コルサコフの同名のオーケストラ曲の中のメロディ(第3楽章)を使って渡辺さんがアレンジした作品です。弦楽器中心のアレンジの上に低音を中心とした平原さん大人っぽい声がしっとりと聞こえてくるような歌でした。聞いていて,どこか懐かしいような気分にさせてくれました。

前半最後に歌われた「明日」は,個人的に今回の公演の中で特に印象に残った作品でした。「今はおかしな世界になっているが,心の豊かさだけは失いたくはない」といった平原さんのトークを聞いた後だと,特にその思いが浸みました。曲はハープのみの伴奏で始まりました。1人1人のお客さんに語りかけるような,丁寧にコントロールされた声が見事だと思いました。

第2部はビゼーの歌劇「カルメン」前奏曲で始まりました。そのイメージ通りの感じで,平原さんは鮮やかな赤のドレスに着替えて登場。ビゼーの「カルメン」の中の「ハバネラ」をアレンジした曲が歌われました。ジャズ歌手としての平原さんの魅力がたっぷり感じされました。誘惑するような雰囲気,鋭く叫ぶような高音,一気に低音へ...一人でオペラを演じているような歌だと思いました。

続く「ダニーボーイ」は,「ロンドンデリーの歌」としても知られているし,「You raise me up」(平原さんがこの曲の一節を英語でサラッと歌ってくれました。これがまた良かったですね)としても知られている,名曲中の名曲です。誰が作ったか分からないトラディショナルな曲で「天から降ってきた曲」というエピソードも紹介されました。この曲でも,色々なドラマを秘めた伸びやかな歌を聞かせてくれました。

「尾崎豊ではありません」という前置きとともに紹介された「I love you」はマスカーニの歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」の音楽をベースにアレンジされた作品でした。「会いたいのに会えない夫婦の物語を歌った歌」ということで,この曲もまたドラマティックかつ浸みる歌でした。低音から超高音へと一気に駆け上るような感じが,聞いていて大変スリリングでした。

最後に,平原さんのデビュー曲であり代名詞の曲である「Jupiter」が歌われました。冒頭,本家ホルストの「木星」の冒頭と同じフレーズが出てきて,「おっ」思わせた後,おなじみの歌が始まりました。この曲でも,迫力のある低音から輝きのある高音までが自在に駆使され,最後の曲に相応しい華やかなアレンジ(この曲のアレンジは宮川彬良さんと書かれていました)とともにバシッと締めてくれました。

振り返ってみると,一つとして同じスタイルの曲はなく,変化に富んだ歌唱の連続でした。渡辺俊幸さんをはじめとした各曲のオーケストレーションも変化に富んでおり,平原さんが途中何回も語っていた「生オーケストラと共演できる喜び」を実感することができました。

アンコールでは,おなじみのスタンダードナンバー「ムーン・リバー」がゆったりと歌われ,しっかりと音楽に酔わせてくれました。

考えてみれば,私自身,クラシック音楽以外のコンサートに行くのは本当に久しぶりのことでした。クラシック音楽系以外については,クラシック音楽以上に大変な状況なのかもしれませんが,平原さんの確信に満ちた歌を聴きながら,「希望」を感じることができた公演でした。。

PS. OEKのファンタスティック・オーケストラ・シリーズでは,アーティストのトークの楽しみの一つです。次のようなことを話されていました。

  • 毎年行っていたミャンマーで行われ,参加していたイベントが中止に。今後のミャンマー情勢が心配。
  • 恵方巻きは...食べられず。
  • 金沢のお弁当は「すき間が多い=品が良い」印象。渡辺さんも「確かにそうかも」と同意。
  • 本日,新曲「Save your life」を配信開始。皆さん聞いてください。

(2021/02/11)





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