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金沢市立安江金箔工芸館 第54回きらめきコンサート
ピアノの詩人たちに魅せられて〜シューマン、リスト、ショパン〜
2021年2月13日(土)14:00〜 金沢市立安江金箔工芸館 1Fホール

シューマン/森の情景, op.82
リスト/「愛の夢」第3番
リスト/ラ・カンパネラ
ショパン/ノクターン第8番変ニ長調, op.27-2
ショパン/ワルツ第7番嬰ハ短調, op.64-2
ショパン/スケルツォ第2番変ロ短調, op.31
(アンコール)ショパン/ノクターン第2番変ホ長調, op.9-2

●演奏
大澤美穂(ピアノ)



Review by 管理人hs  

この日の金沢は,4月ぐらいの陽気。午後から自転車に乗って,金沢市安江金箔工芸館まで出かけ,ピアニストの大澤美穂さんによる,「きらめきコンサート:ピアノの詩人たちに魅せられて〜シューマン,リスト,ショパン」を聞いてきました。


金沢市内の文化施設では,色々なイベントを行っていますが,この館の入口横の多目的スペースは,かなり広いので,「きらめきコンサート」と題した室内楽や器楽によるミニ公演もすっかり定着しています。今回で54回目となります。


今回出かけようと思ったのは,コロナ禍の中,ピアノ独奏の生演奏をむしょうに聞きたくなったからです。石川県立音楽堂での公演はかなり戻って来ていますが,文化施設での公演に行くのは1年数か月ぶりのことです。そして,今回のプログラムに入っていた,シューマンのピアノ曲「森の情景」を一度生で聴いてみたかったというのも理由の一つです。

この日のプログラムは,シューマン,リスト,ショパンという同世代の作曲家のピアノの名曲を,大澤さんの解説とともに,約1時間楽しむという内容でした。臨場感溢れるピアノの音を間近で聴き,3人の作曲家の個性をしっかりと楽しむことができました。大満足の公演でした。



最初に演奏された,お目当ての「森の情景」は,シューマンのピアノ曲の中では,珍しく後期に書かれた作品で,暗い森に入っていくような,ちょっと不気味な作品かな,という印象を持っていたのですが,大澤さんがトークの時に「シューマンのピアノ曲には暖かみを感じています」おっしゃられていたとおり,曲の最初から,あたたかな雰囲気に包みこまれるようでした。不気味な森に迷ってしまうというよりは,ドイツのメルヘンの世界に入っていくような親しみやすさを感じました。

1曲目から,まろやかでくっきりとしたピアノの音にやさしく包みこまれるようでした。その後は色々な雰囲気の短い曲が続きます。きっぱりとした歯切れ良い曲,シンプルで瑞々しい曲...4曲目の「呪われた場所」はタイトルは不気味なのですが,重苦しくはなく,淡々と語りかけてくるようでした。第5曲「心地良い場所」の爽やかさと好対照を作っていました。

この曲集の中でいちばん有名な,第7曲「予言の鳥」では,静かでクリアな世界が広がりました。研ぎ澄まされたようなミステリアスな時間にずっと留まっていたい気分になりました。勇壮な第8曲「狩の歌」の後,終曲「別れ」になります。「別れ」といっても,どことなく優雅な響きがあり,森を抜けて,明るい希望が見えてくるような清々しさがありました。

現在,世界中が「コロナの森」に迷い込んでいるような状況ですが,この音楽を聞きながら,何とか抜け出して,終曲のような穏やかな気分になりたいものだと感じました。

その後演奏された,リストとショパンの作品は有名な曲ばかりでした。リストの「愛の夢」第3番やショパンのノクターンop.27-2では,しっかりと歌いこまれた充実感のある時間に浸ることができました。間近で聞くと,どちらの曲も音楽がぐじぐい迫ってくるように感じました。

リストの「ラ・カンパネラ」は,間近で聴くと,ピアノがまさに「鐘の音」のように響いていました。「金箔」にぴったりの「金属的なキラキラ感」を味わうことが出来ました。

ショパンのワルツ第7番は,ゆらぎと憂いのある音楽。重苦しくなりすぎることはなく,明暗の交錯する魅力的な音楽がしっかりと流れていきました。やっぱり良い曲だなぁと思いました。

最後のショパンのスケルツォ第2番では,切れ味良く,ズバっと切り込むように始まった後,多彩な曲想が続きます。特に中間部でピアノの音が静か〜にたっぷり響くのが良いなぁと思いました。終盤は荒れ狂う雰囲気になりますが,くっきりとした響きだったので,演奏後はすっきりと空が晴れ渡るような気分になりました。

アンコールでは,ショパンのノクターン第2番が気持ちよく歌われるように演奏され,公演は終了しました。

大澤さんは,コロナ禍の中でも色々と工夫をしながら,演奏活動を続けられているとのことです。今回の内容も落ち着いた語り口のトークと演奏のバランスがとてもよく,どの曲についても「大人のピアノ」を楽しませてくれた気がします。


3月16日に大澤さんが登場する室内楽コンサートのお知らせもされていました・YouTubeで配信もされるとのことですが,そのための寄付金を募集中とのことでした。

終演後,大澤さんのCDを販売しており(正真正銘の実演販売です),「森の情景」の入ったものを購入。さらには,大澤さんからサインもいただきました。サイン入りCDのコレクター(?)としては,久しぶりの機会だったので,うれしかったですね。



家に帰ってから,このCDを聞いてみたのですが,演奏会同様,端正な演奏で,何回聞いても飽きが来ません。ベヒシュタイン社のピアノを使っているとのことですが,その重すぎず,派手過ぎない響きも大澤さんのシューマンに合っているのではと思いました。


終演後,浅野川大橋を渡って帰宅。穏やかな風景が広がっていました。


(2021/02/16)





公演の案内

入場者はこの展示も観ることができました。