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和洋の響:OEK×京響 GOLD LINE 金糸が古都を繋ぐ
2021年2月14日(日)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) 旭井翔一/雲烟縹渺(うんえんひょうびょう)(世界初演)
2) シューベルト/交響曲第5番変ロ長調, D.485〜第1,2楽章
3) シューベルト/劇付随音楽「ロザムンデ」op.26, D.797〜間奏曲第3番変ロ長調
4) 池辺晋一郎/ワルツと語ろう:オーケストラのために(井上道義委嘱作品)
5) チャイコフスキー/交響曲第4番ヘ短調, op.36
6) (アンコール)ジョン・グラム/NHK大河ドラマ「麒麟がくる」〜テーマ曲

●演奏
広上淳一指揮オーケストラ・アンサンブル金沢*1-3,6;京都市交響楽団*4-6



Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と京都市交響楽団(京響)の合同公演「和洋の響き」が石川県立音楽堂コンサートホールで行われたので聞いてきました。指揮は京都市交響楽団の常任指揮者で,OEKにも頻繁に客演している広上淳一さんでした。

OEKは過去何回も色々なオーケストラとの合同公演を行ってきましたが,この日の公演は,その中でも特に充実し,かつ楽しい内容でした。前半はOEK,後半は京響という分担で,両オーケストラの良さを十分に楽しむことのできる曲が選ばれていたのも良かったですね。後半に演奏された,チャイコフスキーの交響曲第4番をはじめ,すべての演奏が充実していました。



OEKは,過去,現代の作曲家による和洋楽器のコラボ作品も頻繁に演奏してきましたが,この日の公演のタイトルは「和洋の響」ということで,オーケストラの共演と楽器の共演の二重のコラボの意味になっていました。今回演奏された和洋コラボ作品は,今回の公演のために公募で選ばれた新作,旭井翔一さんによる「雲烟縹渺(うんえんひょうびょう)」という作品でした。タイトルだけ見ると難しそうですが,音楽の雰囲気としては,荘重な雰囲気で始まった後,大河ドラマのテーマ曲を思わせるような,華やかでリズミカルな部分が続き,会場は大いに盛り上がりました。

曲が始まると,真っ暗なステージがパッと明るくなり,金剛流能楽師,金剛龍勤さんの能舞もスタート。能舞との共演がこの曲のもう一つの目玉でした。2月11日にプレイベントとして,金剛さんによる能の楽しみ方についての講座が行われ,それを聞いていたこともあり,能舞の型,手に持っている木の枝(?)の意味であるとか,能面の意味であるとか,色々なことを考えながら楽しむことができました。

今回,金剛さんは小面の面を使い,何かを祈るような動作をされていた(と思う)のですが,全体としては,音楽の雰囲気そのままにのびやかな雰囲気があり,古典的な能の世界とは一味違う華やかな気分を感じさせてくれました。金剛流の特徴は踊りにある,と先日のプレ講座で金剛さんは語っていましたが,流派の特徴ともうまく合致していたのでは,と感じました。

北川聖子さんの箏,今藤長龍郎さんの三味線も鮮やかでした。技術的に大変難しいものだったらしく,箏でバルトークっぽいピチカートが入ったり,三味線がリズム楽器のようになっていたり,クラシック音楽よりもっと広い世界を感じさせるような音楽だと感じました。

旭井さんの音楽には,豪快な雰囲気もあったのですが,中間部ではメランコリックでロマンティックな雰囲気になったり,最後の部分では急速なテンポになったり(「銭形平次」の雰囲気があるのでは,と買ってに思って聞いていました),大変分かりやすい作品でした。OEKのレパートリーとして,今度は加賀宝生との共演をしても面白いのでは,と思いました。

続いてOEKの単独演奏で,シューベルトの交響曲第5番から第1,2楽章とロザムンデ間奏曲第3番が演奏されました。どちらもOEKの得意とする曲で,広上さんも大変楽しそうに指揮をされていました。春の一日,のどかで幸福感に溢れているけれども,ふっともの悲しくなる。そんな感じが漂う,言うことなしの演奏でした。

広上さんは,演奏後のトークの中で細かいニュアンスの変化を表現できるOEKの力を絶賛されていましたが,第1楽章の第2主題の部分などまさにそんな感じでした。絶妙の脱力感があったり,ふっと溜息をつくような感じになったり,すごいなぁと思いながら聞いて居ました。

第2楽章もしみじみと「幸福感」を味わっているような演奏で,ずっとその場に留まっていたくなるような気分になりました。

交響曲の方は,時間の関係で,前半の2つの楽章だけだったのが大変残念でしたが,こうやって2つだけ切り出してみると,どこか「未完成交響曲」のような感じにも聞こえてくるのはなかなか新鮮でした。

ちなみに,この曲ですが,昨年3月のコロナ禍で公演が中止になり始めた頃に,京都市交響楽団の演奏をライブWeb配信で視聴したのを思い出しました。広上さんも色々な感慨を感じながら指揮をされていたかもしれませんね。

ロザムンデの方もOEKのアンコール曲の定番なので,何度も聞いてきた曲ですが,今回の演奏は特に最後の部分で,大きく間を取った後,ぐっとテンポを遅くし,これまで味わったことのないような深い情緒を感じさせてくれました。さすが広上さんという指揮でした。

後半は京響のステージとなり,まず,池辺晋一郎作曲による「ワルツと語ろう」という作品が演奏されました。井上道義さんによる委嘱作品と書いてあったのですが,ダンス好きの井上さんにぴったりの曲と思いました。ファンファーレ風に始まった後,ロシア風のワルツ(ショスタコーヴィチとかが作っていそうな)が出てきたり,五拍子の「ワルツ」(これは曲目解説によるとポール・デズモンドの「テイク・ファイブ」を意識していた?)が出てきたり,何となく武満さんのワルツを思わせるような感じになったり,池辺さん自身,楽しみながら作っていたのでは,と感じさせるような,ウィットのある作品でした。終わり方も「ダダダダン」という感じで,どことなくユーモラスでした。

演奏会の最後に,今回のプログラムの中で特に楽しみにしていた,チャイコフスキーの交響曲第4番が演奏されました。金沢で演奏されるのは,数年前の楽都音楽祭でのユベール・スダーンさん指揮エーテボリ歌劇場管弦楽団による演奏以来だと思います。

冒頭のホルン4本によるファンファーレから,クリアな音がバチッと決まっていました。テンポは速すぎず,遅すぎず。十分な余裕をもって,しっかりと美しいサウンドを聞かせるような演奏でした。この部分以外でも,全曲を通じて要所要所で「運命のモチーフ」のファンファーレが出てくるのですが,金管パートの音のまとまりとボリューム感が素晴らしく,聞いていて幸せな気分になりました。第1ヴァイオリンを中心とした弦楽パートのクリアな美しさ,曲に彩りを加える木管楽器の鮮やかさ...久しぶりに聞く,フル編成オーケストラの音の魅力に浸ることができました。

楽章の途中,弱音のワルツ風になる部分も好きなのですが,気分を変えつつもグイグイと進んでいく感じでした。楽章の最後の部分は,広上さんらしく慌てることなく,じっくりとエネルギーを溜め込んだ後,最後にパーッと発散するような迫力がありました。

第2楽章はオーボエのソロでスタート。ロシアの民話をじっくりと聞くような味がありました。楽章を通じて重く,引きずるような感じがありメランコリックで深みのある表現を味わうことができました。

第3楽章でも慌てることはなく,ノリの良い,余裕のあるウィットを楽しむことができました。何よりフル編成オーケストラによる弦楽器のピチカートの豊かさは,金沢では中々味わえないものでした。対照的に中間部でのピッコロのピリッとした音入りの木管合奏の明快さ。金管楽器の軽快さ。チャイコフスキーの音楽は「うまく出来ているなぁ」と改めて感じさせてくれる演奏でした。

そして,第4楽章。まず最初の一音の集中力が素晴らしかったですね。打楽器を含む全楽器がビシッと揃っており凄いと思いました。その後は,速いテンポではあるものの,常に余裕があり,その分,生き生きとした音楽を楽しめる余地があるようような大人の演奏だったと思いました。広上さんの指揮も冷静でありながら,要所要所で熱く盛り上げる見事な設計。コーダに入る直前では,トランペットの突き抜け感が素晴らしく,歌舞伎の見得を見るような格好良さを感じました。

その後,ティンパニのドロドロドロという音の上にホルンの弱音が出てくると,「この曲ももうそろそろ終わりだな」と「終わって欲しくない気分」が出てきます(個人の感想です)。それを乗り越え,オーケストラの各パートがクリアーな響きで音楽に全く乱れを見せることなく,どんどん音楽が巨大化。広上さんの常に余裕を感じさせる指揮の下(最後の部分,何となく「ラジオ体操第1,背伸びの運動!」といった感じでしたね),大きく開放的に盛り上がって力強く終了しました。お客さんは,皆さんマスクの下で「ブラーヴォ」と口を動かしていたのではないかと思います。

終演後,各オーケストラの事務方トップと広上さんによるトークがあった後,バレンタインのプレゼント代わりにアンコールが演奏されました。演奏された曲が...先週,最終回を迎えたNHK大河ドラマ「麒麟がくる!」のテーマ曲!ドラマで使っていた音源も広上さんが指揮をされていたので,本物を聞いたという感じで,「うれしいサプライズ」といったアンコールとなりました。大編成で聞くと,壮大な交響詩といった感じのスケール感がありました。打楽器の音がとても生々しく聞こえるのもライブならではだと思いました。

さらには各オーケストラや金沢駅百番街提供の商品などの当たる「お楽しみプレゼント」。プログラムの表紙裏に赤いシールの貼ってある人が当選ということで...見事当たりました(百番街の1000円分商品券でした)。



  

というわけで,和洋コラボの盛り沢山なプログラム,聞き応え十分の演奏,さらにはプレゼントにも当選という,言うことなしの公演でした。公演タイトルに入っていた「GOLD LINE」の意味がよく分からなかったのですが,この「金と京のつながり」を今後に繋げていって欲しいと思いました。」

PS. この日のステージですが,パイプオルガンの前に金色の屏風が置いてありました。これが「GOLD LINE」のシンボルのようになっていました。豊国神社所蔵・重要文化財「豊国祭礼図屏風」の高精細複製とのことです。




(2021/02/20)



公演の看板


公演のポスター