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第17回カレッジコンサート:オーケストラ・アンサンブル金沢&石川県学生オーケストラ合同公演
2021年03月07日(日)14:00〜 石川県立音楽堂 コンサートホール

ヴェルディ/歌劇「ナブッコ」序曲
ショスタコーヴィチ/交響曲第5番ニ短調, op.47

●演奏
横山奏指揮石川県学生オーケストラとオーケストラ・アンサンブル金沢の合同オーケストラ(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)



Review by 管理人hs  

3月7日の午後,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と石川県学生オーケストラによる合同公演「カレッジコンサート」を石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。



この時期恒例のカレッジコンサートですが,行われるのは2年ぶりのことでした。ちょうど1年前の3月上旬から,全国的にほぼすべてのクラシック音楽の演奏会が中止になり,そのあおりを受け,直前まで開催予定だった昨年のこの公演も中止になってしまいました。出演予定だった学生オーケストラのメンバーは大変悔しい思いをされたことでしょう。その後も各大学のオーケストラは,お客さんを入れての演奏会はほとんど行っていないようなので,この日の公演は,色々な意味で感慨深いものになったのではないかと思います。1年遅れになりましたが,実施できて本当によかったと思います。



演奏曲目は,昨年合同演奏する予定だった曲がそのまま今年にスライドし,ヴェルディの歌劇「ナブッコ」序曲とショスタコーヴィチの交響曲第5番が演奏されました。休憩時間なしの丁度1時間ぐらいの公演で,公演時間としては短めでしたが,大編成のオーケストラ・サウンドに浸るのは大変爽快でした。

指揮は沖澤のどかさんから横山奏さんに変更になりました。横山さんは,2018年に行われた第18回東京国際音楽コンクール〈指揮〉で2位になられた方で,OEKを指揮するのは,今回が初めてとのことです。



例年のカレッジコンサートと違う点は,2曲ともOEKの奏者が首席奏者を務めていた点です。例年,メインの曲は学生側が首席を務めるのですが,さすがにショスタコーヴィチを限られた練習時間で仕上げるのは難しかったのかもしれません(練習についても,例年よりは時間を取れなかったのではないかと思います)。

最初に演奏された,ヴェルディの歌劇「ナブッコ」序曲は,有名な「行け,我が想いよ,金色の翼に乗って」のメロディが途中に出てきて,最後はヴェルディならではの躍動的な気分の中で終わる曲です。冒頭のトロンボーンとチューバの和音から柔らかな音のバランスがとても良く,心地よかったですね。最後は,イキイキ,キビキビとした雰囲気で締められ,「春ももう間近」という気分にさせてくれるような演奏でした。

続いて,ショスタコーヴィチの交響曲第5番が演奏されました。こちらも,OEKメンバーがトップ奏者ということで,アビゲイル・ヤングさんのヴァイオリン,松木さんのフルートなど,要所要所でたっぷりとプロの技と味を聞かせてくれました。全体的に荒々しく熱狂的に盛り上がるという感じではなく,美しい壮麗さと丁寧さが際立った演奏を聞かせてくれました。OEKは過去,この曲を演奏したことはありませんが,「OEKがショスタコを演奏したらこうなるのか」と思わせる,興味深い演奏でした。

第1楽章冒頭のインパクトのある出だしは,低音がバシッと決まっていました。その後に続く抒情的な部分では,弦楽器の音が非常に美しく,どこか妖艶な気分が漂っている感じでした。行進曲調の部分の鮮やかさ,ハープ,ピアノなどを加えた硬質でカチっとまとまった響き...緻密さと壮麗さが共存しているような演奏でした。

第2楽章も提言の力強い響きでスタート。ヤングさんの闊達なヴァイオリンを中心に,余裕と緻密さのあるスケルツォでした。第3楽章も弦楽器がじっくりと聞かせてくれました。恐怖におびえる中での一時の安らぎの音楽といった雰囲気がありました。威圧的に響き過ぎない,美しさが印象的でした。チェレスタの音が神妙に入ってくるあたりもこの楽章の魅力ですね。

第4楽章は,大学生たちとOEKとが一体になった堂々とした,輝きに満ちた雰囲気で開始。そして,ピッコロが加わって強烈さがアップ。コーダの部分では,弦楽器が同じ音を演奏し続ける部分が大変鮮烈でした。耳に刺さるようでした。コーダのテンポは,最後の最後まで遅いままで,しっかりと抑制を効かせながら,エネルギーがどんどん蓄積し,大太鼓とティンパニが強烈な音を炸裂させて終了。聴いていてドキドキさせるような雰囲気がありました。何か,1年間の色々な「思い」がこもったような濃い響きでした。

指揮の横山さんは,合同オーケストラを気持ちよく鳴らし,非常に完成度の高い音楽を聞かせてくれました。アクの強さはないけれども,じっくりと曲に向き合った誠実な気分は学生オーケストラにぴったりだと感じました。コロナ禍の中,昨年までと大きく変わったのが,次々と日本人指揮者がOEKを客演していることです。機会があれば,OEKの単独公演での共演にも期待をしたいと思います。

(2021/03/13)




公演のポスター