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オーケストラ・アンサンブル金沢第439回定期公演マイスター・シリーズ
2021年3月13日(土)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

ベートーヴェン/交響曲第2番ニ長調, op.36
ベートーヴェン/交響曲第8番ヘ長調, op.93

●演奏
鈴木雅明指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)



Review by 管理人hs  

2021年3月の2回のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演には当初,芸術監督のマルク・ミンコフスキさんが登場する予定でしたが,コロナ禍による入国制限が続いているため来日ができず,代役として,バッハ・コレギウム・ジャパンの音楽監督で古楽のスペシャリストとして世界的に高く評価されている鈴木雅明さんが登場することになりました。プログラムは2回ともそのままで,ベートーヴェンの交響曲を一気に4曲。この日は,第2番,第8番の2曲を聴いてきました。


2枚の立看板,どちらも鈴木さん。左が金の鈴木さん,右が銀の鈴木さんですね。

演奏は,期待通りの素晴らしさでした。鈴木さんは,昨年末のNHK交響楽団の公演でもヘルベルト・ブロムシュテットの代役として登場し,ハイドン,モーツァルト,シューベルトの交響曲の演奏を指揮しました。この演奏は,NHKの放送で観たのですが,今回の演奏も,それらと共通するような,知・情・意のすべてが高いレベルで統合されたような,熱量と情報量が非常に大きい聴きごたえのある演奏でした。その根底に,ベートーヴェンの音楽についての確信の強さが感じられました。感服しました。

考えてみると,生誕250年と言われていた割に,昨年1年間は実演ではベートーヴェンの交響曲を1曲も聞いていなかったので(「皇帝」は2回聞きましたが),久しぶりにベートーヴェンの交響曲を聴いて,妙に元気が出た気がしました。

第2番も第8番もベートーヴェンの9つの交響曲の中では,ややマイナーな位置づけではあるのですが,個人的には年々好きになってきている2曲です。鈴木さんの指揮の下,この両曲の斬新さやキャラクターを改めて浮き彫りにしてくれるような演奏でした。


弦楽器はコントラバスとチェロが下手奥に来る,対向配置でした。

第2番の方は,まず冒頭の引き締まった力強い響きと澄んだ弦の響きのコントラストが印象的でした。何も迷いがなく,しなやかさと剛毅さのメリハリが効いた序奏部でした。弦楽器きはノン・ヴィブラート的な響きが中心で,特に音を長く伸ばした時の清澄さが素晴らしいと思いました。アビゲイル・ヤングさんのリードの下,細かい部分までニュアンスの変化が付けられており,全曲を通じて鈴木さんのプランが鮮やかに表現されていました。

主部に入るとスピード感たっぷりに生気とニュアンスの変化に溢れた音楽を聞かせてくれました。細部まで音楽に意味が込められているようでした。その一方,ライブならではの感情が爆発するような,アクセントの強さも随所にあり,非常にスリリングでした。楽章の終結部なども,エネルギーが溢れ出るようでした。

第2楽章もヴィブラートの少ない軽く透明な弦楽器の音が素晴らしく,明るいのにどこか一抹の寂しさのある空気感を感じました。ラルゲットということで,テンポは重くなりすぎることなく,どこか散歩をするような(ハイリゲンシュタットの気分でしょうか)テンポ感がありました。第1楽章と好対照を成す平静な音楽でしたが,途中,ヴァイオリンに痛切さのある響きが出ていたり,木管楽器のアクセントが効いていたり,起伏に富んでいました。終結部でのしんみりとしたフルートの美しさも絶品でした。

第3楽章はキリッとしたテンポ感で演奏されました。ストレートだけでもニュアンス豊かで,機械的でない人間的な演奏になっていたのが魅力でした。中間部でのアクセントの付け方やティンパニに入れ方も個性的で,往年の音楽評論家・宇野功芳さんなら「命をかけた遊び」とでも言いそうな,独特の大胆さがありました。

第4楽章にも切れの良い音楽でしたが,力んだところはなく,チェロや木管楽器を伸びやかに歌わせていました。その後,色々な表情の音楽が続きましたが,特に印象的だったのが終結部での弦楽器の強烈な響き。この集中力の高さには痺れました。この曲の持つ,過激さを改めてクローズアップしてくれるような演奏だったと感じました。



休憩後(定期公演で20分の休憩が入ったのは,コロナ後初でしょうか)の第8番も同様に,強烈な部分と流れるような部分の対比が鮮やかな演奏で,充実感がありました。ストレートで清澄な弦,ゆらぎ感のある歌と強烈なアクセントとの対比,各楽器がソリスティックに浮き上がって聞こえてくる楽しさ...第1楽章から魅力に溢れていました。特に展開部でのエネルギーを溜め込んでいって,発散するような感じが「ベートーヴェン的だなぁ」と思いました。

プログラムの飯尾洋一さんによる解説には,第1楽章最後の部分について,「俗に「あー,くたびれた」という「歌詞(?)」が添えられたるにする」と書かれていましたが,「なるほど」と思いました。それだけエネルギーに溢れた演奏でした。

第2楽章のメトロノーム風のリズムを刻む部分は,木管楽器のきっちり整った端正さと,弦楽器の表情豊かな歌が見事に溶け合い,何とも言えず幸福な時が流れていました。その一方,この楽章中,何回か出てくる「ダダダダダ,ダダダダダー」といったフレーズでの目を覚まさせるようなユーモラスな強烈さが効果的でした。

第3楽章も速すぎず,遅すぎず,色々な楽器が次々と花開いていくような音楽でした。トリオの部分は,ホルンが少々不安定な感じでしたが,この部分についてだけは指揮者なしで自発的な室内楽を楽しんでいるような揺らぎのある気分が出ていました。

第4楽章も速過ぎるテンポではないけれども,切れ味十分の引き締まった音楽を聞かせてくれました。楽章の最後の部分はティンパニが大活躍しますが(この日はバロックティンパニを使っていました),強引な感じはなく,爽快に全曲を締めてくれました。

両曲とも,隅々まで鈴木さんらしさが浸透している一方で,OEKの自発性も感じられました。この双方の熱量が合体した,素晴らしいベートーヴェンでした。

というわけで,感想は,3月18日公演に続きます。




会場に掲示されていたポスター2種類。外側を向いていたのが少々気になったので,自宅に帰ってから,チラシ2枚を内向きに並べてみました。



(2021/03/21)




公演立看板