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石川県ジュニアオーケストラ第27回定期演奏会
2021年3月28日(日)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第1番ハ長調, op.46-1
2) 倉知竜也編曲/オーケストラのためのディズニー・メドレー
3) バッハ,J.C.F./「ああ,お母さんに聞いて」による変奏曲(きらきら星変奏曲)
4) エルガー/行進曲「威風堂々」第1番
5) チャイコフスキー/幻想序曲「ロメオとジュリエット」

●演奏
鈴木織衛指揮石川県ジュニアオーケストラ*1-2,4-5, 黒瀬恵(オルガン*3-4)



Review by 管理人hs  

年度末最後の日曜日の午後,石川県立音楽堂コンサートホールで行われた,石川県ジュニアオーケストラの第27回定期演奏会を聞いてきました。指揮はこのオーケストラを長年指導されているお馴染みの鈴木織衛さんでした。この定期演奏会は毎年この時期に行われるのが恒例でしたが,1年前はちょうどコロナ禍の影響が出始めたばかりで,ギリギリになって中止。2年ぶり,待望の演奏会となりました。



この日は,鈴木さんのトークを交えての進行。いつもにも増してとても滑らかなトークで,各曲のイメージをさらに広げながら聴くことができました。2年分の情報量があった気がしました。

最初に演奏されたスラヴ舞曲第1番は,鈴木さんの説明によると,最初の音がハ長調の和音。晴れ渡った空がパッと広がるような開放的な気分がありました。落ち着いたテンポだったので,春の穏やかな青空といった感じでした。

2曲目の倉知竜也さん編曲による,ディズニーメドレーは,元々は神奈川フィル用にアレンジされたもので,このジュニア・オケのレパートリーになっているものです。含まれていたのは次の曲でした
  • ミッキーマウス・マーチ(1955年)
  • ビビディ・バビディ・ブー(「シンデレラ」1950年)
  • ハイホー(「白雪姫」1937年)
  • ジッパ・ディ・ドゥー・ダー(「南部の唄」1946年)
  • スーパー・カリフラジリスティックエクスピアリドーシャス(「メリー・ポピンズ」1964年)
  • チム・チム・チェリー(「メリー・ポピンズ」1964年)
  • イッツ・ア・スモール・ワールド(1964年)

金管楽器や打楽器が活躍する,明るく開放的な響きが多いアレンジで,聴いていてアメリカ西海岸の気分(推測ですが...)を感じました。途中,「ジッパ・ディ・ドゥー・ダー」から「スーパー・カリフラジリスティック...」に続くあたりの,テンポが一段アップするようなノリの良さが良いなぁと思いました。大編成で演奏すると,心地良い重量感が出てくるのも魅力です。その一方,「チム・チム・チェリー」などでのひっそりとした柔らかさ。鈴木さんの滑らかな指揮ぶりそのままの音楽になっていました。

ディズニーの音楽については,鈴木さんが語っていたとおり,50年以上演奏されているような曲ばかりで,すでにクラシック音楽といった感じの曲が多いですね。今回の編曲・演奏を聴きながら改めてそう感じました。

続いて,この日のゲストとして,オルガンの奏者の黒瀬恵さんが登場しました。黒瀬さんからは,石川県立音楽堂コンサートホールのパイプ・オルガンについての説明(扉に桜と紅葉が描かれています)やオルガンの多彩な音色(超低音から超高音まで,トランペットのような音も出ます...)についての説明がありました。ちなみに,鈴木さんは,超高音のことを「若い人にしか聞こえないモスキート音」と言われていましたが,確かに(?)...私には聞こえなかったですね。

演奏されたのは,オルガンの色々な音を次々聞かせてくれるような,J.C.F.バッハによる「きらきら星変奏曲」でした。作曲者のJ.C.F.バッハは,ヨハン・クリストフ・フリードリヒ・バッハということで,有名なバッハの息子の一人です。初めて聞く曲でしたが,かわいらしい音やハスキーな音が出てきたり,気軽に楽しむことができました。「きらきら星変奏曲」と言えば,モーツァルトの作品を思い浮かべる人が多いと思いますが(少し前に藤田真央さんの演奏で聴いたばかり),そちらに比べると,とっても真面目な感じで,折り目正しい感じ。作曲家のキャラクターがよく出ていて面白いなぁと思いました。

その後,オーケストラのチューニングが行われました。鈴木さん自身,ちょっとヒヤヒヤしたと語っていましたが...これがないとオーケストラを聞いた感じになりませんね。

続いて,黒瀬さんのオルガンも加わっての「威風堂々」第1番が演奏されました。とても良く演奏される曲ですが,パイプオルガン入りというのは,意外に聴いていないかもしれません。

エルガーについては,アマチュアの作曲家だったのが,「愛のあいさつ」が大ヒットした後,この「威風堂々」では国王にも認められ,さらに中間部のメロディに歌詞が付けられて第2の国会のようになったり,どんどん出世。「開運の作曲家」という説明がありました。こういうお話も面白かったですね。

優雅で品の良い気分のある行進曲が続いた後,パイプ・オルガンは曲の最後の部分で加わりました。重低音が加わった,壮大な気分は,オーケストラのメンバーにとっても,お客さんにとっても印象に残る演奏になったことでしょう。

その後,メンバーの座席移動があったのですが,その時にはメンバー自身による消毒作業を行っていました。あれこれ影響を受けているのだなと改めて思いました。ただし,こういったことも後から振り返れば,「忘れがたい思い出」となることでしょう。

メインで演奏されたのは,チャイコフスキーの幻想序曲「ロメオとジュリエット」でした。1年前に演奏予定だった作品をようやく演奏することができ,感慨もひとしおだったのでないかと思います。

各楽器のソロが続く,緊迫感あふれる序奏の後,オーケストラのメンバーが一丸となって,ドラマティックな気分と甘い雰囲気を持った音楽を丁寧に演奏していました。この日の編成は,フルート+ピッコロのパートがものすごく多かったのですが,曲の至るところで活躍をしていました。途中,OEKの加納さんのイングリッシュ・ホルンが出てきたり,上田智子さんのハープが出てきたり,「大人たち」も素晴らしいサポートをしていました。曲の最後の部分での「死の気配」が漂うような静けさ,ティンパニの一撃の後,すべてが昇華されたように音が一つにまとまる感じもとても良いなぁと思いました。

というわけで,2年ぶりのジュニアオーケストラの演奏会をゆったりと楽しませてもらいました。来年はどういう曲を聞かせてくれるのか楽しみにしています。

PS. 音楽堂の外は,桜が満開に近づいていました。

ホテル日航金沢の後ろの,白髭神社の桜です。
 

もてなしドーム前の桜。


(2021/04/03)




公演のポスター