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第33回県教弘クラシックコンサート
2021年6月26日(土)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調, op.92
2)玉木宏樹/ドラマ「大江戸捜査網」テーマ〜菊池俊輔/ドラマ「暴れん坊将軍」殺陣のテーマ
3) 渡辺俊幸/大河ドラマ「利家とまつ」〜「永久の愛」
4) 渡辺俊幸/大河ドラマ「利家とまつ」〜「利家のテーマ」
5) 渡辺俊幸/大河ドラマ「利家とまつ」〜「まつのテーマ」
6) 渡辺俊幸/大河ドラマ「利家とまつ」〜「信長のテーマ」
7) 渡辺俊幸/大河ドラマ「利家とまつ」〜「戦国の世」
8) 渡辺俊幸/大河ドラマ「利家とまつ」〜メインテーマ「颯流(そうりゅう)」
9) (アンコール) E.バーンスタイン/映画「荒野の七人」テーマ

●演奏
角田鋼亮指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松浦奈々)
殺陣:河口博昭,伊五澤利夫,坂本純基,井口淳 *2,4,6 8



Review by 管理人hs  

6月恒例の日本教育公務員弘済会石川支部主催の「県教弘クラシックコンサート」を聞いてきました。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)設立時から続いている演奏会ですが,昨年度はコロナ禍の影響で中止。今年も5月に石川緊急事態宣言が発出された時にはどうなるかと思ったのですが,無事行われました。

内容は昨年度予定していた内容を1年延期したもので,「OEK×The殺陣」という副題が付いていました。過去,OEKはファンタスティックオーケストラコンサートとして,同様の公演を既に行っていますが,私自身は初体験。興味津々という感じで,整理券を申し込み,聴いてきました。


この日は退場時に整理券全部を後で回収していたので,記念撮影

まずプログラムを見て「おっ」と思ったのが,ベートーヴェンの交響曲第7番が前半になっていたことです。OEKの公演の場合,この曲がメインになるのが「当然」でしたので意表を突かれた気分でした。OEKが演奏する交響曲を聞くのも3月以来で,「久しぶりに交響曲を生で聞きたい」という思いもこの公演を選んだ理由でした。

が。殺陣との共演の方は,いわばオーケストラとダンサーが共演するバレエ公演のようなものですので,その点では,やはり後半が殺陣になる方が相応しいと思いました。そして,実際そのとおりでした。

後半はまず,大昔のテレビ時代劇「大江戸捜査網」の音楽で開始。曲は和風というよりは洋風(西部劇風?)で,「ウェストサイド物語」の中の「アメリカ」のように,複数の拍子が組み合わさった感じで,生き生きと進んでいきます。個人的には,時代劇の音楽の中でも「いちばん格好良い曲」と以前から思っていた曲で,それをいきなり聞けてテンションが上がりました。そんなにしっかりと観ていた記憶はないのですが,なぜかこの音楽を聞くと,休日の昼頃の”空気感”が蘇ってきます。

そして,お馴染み「暴れん坊将軍」のテーマ。現在でも,甲子園の応援の定番曲ですね。ヴィブラスラップ(北島三郎の「与作」で活躍する,カーッという印象的な音を聞かせるあの打楽器)の音が入ると,気分が盛り上がります。ここで,赤,黄,緑,水色の着物を着た殺陣師たちが乱入してきて,色々なパターンの絡みを披露。

時代劇の中のように,切られたらそのまま横になっているのではなく,あくまでも「舞い」ということで,動きは止まっても,倒れることはなく,そのまま音楽に乗って次の動作に続いていったり,見得を切ったり...という感じで進んでいきました。この日は本来のステージに加えて,客席に張り出すような形で特設ステージが作られていたので,伸び伸びと殺陣ができたと思います。緊張感と素速い動きとの流れの良さは見ていて不思議と飽きませんでした。


この「特設ステージ」は前回の共演時にはなかったようです。

そして4人の殺陣師からのご挨拶がありました。

その後は,NHK大河ドラマ「利家とまつ」の音楽が組曲のように続きました。こうやってきくと,渡辺俊幸さんの音楽は非常に分かりやすく,「大河ドラマ」の王道を行く音楽だなぁと改めて思いました。「利家とまつ」が放送されて20年近くになりますが,今でも古びることなく,演奏されている点で,OEKにとって大きな財産となっている曲だと思いました。金沢在住の人たちにとっての「スター・ウォーズ」組曲に当たるのが,「利家とまつ」組曲ではと密かに思っております。

組曲の中のいくつかの曲では,ソロ楽器も活躍します。特にヴァイオリン独奏の入る「永久の愛」(大河ドラマでは「紀行」テーマ。オリジナルでは樫本大進さんが演奏していました)は懐かしかったですね。この日のゲスト・コンサートマスターの松浦奈々さんがしっかりと聞かせてくれました。ヴァイオリンとホルンが絡むあたり,何となくコルンゴルトの曲などを思わせる耽美的な雰囲気がある曲です。

その他,「利家のテーマ」「まつのテーマ」では,イングリッシュ・ホルンやフルートの温かみのある音が印象的でした。当時「戦国ホームドラマ」というキャッチフレーズだったと思いますが,そういう気分がある曲で,どれも懐かしくなります。

「信長のテーマ」は,途中,映画「アラビアのロレンス」の音楽を思わせるようなちょっとエキゾティックな雰囲気になります。この部分では刀だけでなく槍を加えての殺陣となっていました。

途中,殺陣師の皆さんによる,「刀の入ったことわざ」実演コーナーがありました。このコーナーも楽しかったですね。演技の時とは一転し,トークになると,急に皆さん明るい雰囲気になり,着物の色合い的にも「笑点」の世界に近いムードでした。

紹介されたのは「切羽詰まる」「シノギを削る」「ソリが合わない」「元の鞘に収まる」。それぞれ刀の部分名が使われているのですが,実演+解説付きで見ると,「なるほど」と思いました(他人に話したくなりますね)。

最後は,「利家のまつ」のメインテーマ「颯流」でした。金沢ではすっかりお馴染みの曲ですが(「金沢百万石まつり」などでも使っていそうです),この日の公演の締めにぴったりの音楽でした。前半ゆったりとした音楽が続いた後(この部分,木管楽器があれこれ細かく入る辺りも良いですねぇ),テンポアップした後半で4人の殺陣師がわさわさと登場。この気分もぴったりでしたが,最後の最後,シンバルが入る部分で突き刺され,最後の「ババーン」と音が伸ばされた部分で全員が見得を切る...振付と音楽がピタリと合った納得のエンディングという感じでした。

今回,「殺陣とオーケストラのコラボ」を初めて見ましたが,リアルな部分とダンス的な部分とのバランスがとても良く,後腐れのない,爽快感すらある,チャンバラの世界に結構はまってしまいました。いっそ,「普通のクラシック音楽と一緒に殺陣をやってもらっても面白いかも」と思いました。

前半に演奏された,ベートーヴェンの交響曲第7番はOEK十八番の曲。角田鋼亮さんの指揮の下,古典的な交響曲としてのまとまりの良さ,要所要所での切れ味の良さを感じさせてくれる演奏を聞かせてくれました。熱狂的になりすぎなかったのは,やはり前半での演奏だったからかなと思いました。

第1楽章,力まずにズドンと始まった後,序奏を通じて,「音楽できる喜び」がじわじわと広がった後,主部へ。いつもどおり松木さんの明るく闊達なフルートが気分を盛り上げてくれました。ちなみに,この日は後半の編成の関係か,この曲でもホルンが4人でした。全曲を通じて,少々粗っぽい感じでしたが,曲に力強さを加えていました。

第2楽章との間のインターバルは非常に短かく,角田さんは指揮棒を下げないままでした。この楽章も大げさ過ぎず,淡い悲しみがスッとよぎっていくような感じでした。

その他の楽章の間はしっかり間を取っていましたが,この日は,チューニングに時間がかかる,バロックティンパニを使っていたこともその理由だったかもしれません。

小気味よくスマートに進む第3楽章の後,第4楽章では躍動感だけではなく,低音を中心とした安定感も感じさせてくれました。その上で各楽器がしっかりと歌っていました。コーダの部分での金管楽器の「吼え方」もイメージどおりの力強さでした。

演奏会の最後には,アンコールで,映画「荒野の七人」のテーマ曲が,殺陣付きで演奏されました。そして演奏後のご挨拶の時には,指揮者の角田さんが4人の殺陣師に取り囲まれるという小芝居。指揮棒を振ると,4人は見事退散というのも楽しかったですね。

というわけで,会場の老若男女(結構,お子さんも多かった印象)のお客さんはしっかりと楽しんでいました(インタビューしたわけではありませんが,客席はそういう雰囲気でした)。コロナ禍の中,こういう時間も必要だなぁと改めて思いました。そして,改めて「利家とまつ」の音楽はOEKの財産だなと実感しました。

PS. 殺陣師の親分の河口さんが,曲と曲の間で,OEKメンバーに「大澤さん!元気ですか?」「坂本さん!元気ですか?」といった感じで親しげに声を掛けていましたが...刀を持って声を掛けられると,結構,怖かったかもしれませんね。もしかしたら,殺陣師の仲間に加わって欲しいのでは,思ったりしました。

(2021/07/03)