OEKfan > 演奏会レビュー


オーケストラ・アンサンブル金沢特別公演
ミンコフスキ&OEKベートーヴェン全交響曲演奏会(2番&8番)
2021年7月13日(火)18:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール

ベートーヴェン/交響曲第2番ニ長調, op.36
ベートーヴェン/交響曲第8番ヘ長調, op.93

●演奏
マルク・ミンコフスキ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)



Review by 管理人hs  

前週の土曜日に続いて行われた,マルク・ミンコフスキ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)によるベートーヴェン・チクルスの2回目。演奏されたのは,2番と8番という偶数番号の2曲でしたが...これまで聞いたこともないような「明るい狂気」が漂うような,ミンコフスキさんならではのベートーヴェンとなっていました。曲ごとに「違うベートーヴェン」を楽しませてくれるのがミンコフスキさんらしさだと思います。



まず印象的だったのは,両曲の最終楽章を中心とした狂ったようなスピード感!ミンコフスキさんによる,事前のインタビュー動画では,この2曲について「クレイジー」という言葉を使っていましたが,それを鮮やかに体現したような演奏だったと思います。この2曲を組み合わせたのは,その類似性を示すためだったのかなと感じました。



最初に演奏された第2番は,冒頭から,非常に引き締まった響き。一気呵成の若々しい推進力がありました(1楽章呈示部の繰り返しは行っていませんでした)。この日もステージ正面奥,に並んだコントラバスの迫力が素晴らしく,主部ではメロディが流麗に流れるというよりは,パパッパー...といった感じのリズムが心地良く弾んでいました。その一方で,音楽が進むにつれて,どこか思いつめたような,焦燥感のような気分も盛り上がり,楽章最後ではものすごく大きなエネルギーが放出されていました。

第2楽章は一息ついて,暖かな気分になりました。甘過ぎないけれども,思いがしっかりこもった音楽が続いた後,中間部では,次第に深い世界へ。人数が増強されていた第2ヴァイオリンやヴィオラが日頃耳にしているのと少し違った感じでリズムを強調していたりして,どんどん孤独で不思議な世界に入り込んでいくようでした。楽章の終結部は,軽やかな寂寥感を持った岡本さんのフルートの音の後,軽やかさを取り戻してに終了しました。

第3楽章はパチッと引き締まったパンチ力のある音楽。フォルテとピアノが短い周期で交替する,この楽章ならではのコントラストを楽しめました。中間部での加納さんのオーボエも切れ味が良かったですね。そしてその勢いを保ったまま第4楽章へ。この楽章での狂気を持ったスピード感は,これまでに聞いたことのないものでした。滑らかに歌い込んだチェロがしっかりクローズアップされたり,ただ速いだけでない変化にも富んでいました。硬質で密度の高い音楽が続いた後のコーダも聞きものでした。じっくり間をとった後,生き生きとしたリズムが出てきて,大きく爆発。そして狂ったような切れ味とスピード感。甘さを廃した,辛口の第2番だったと思いました



後半の第8番にも同様の気分があり,この2曲を並べた意図を感じました。第1楽章は,第2番同様,引き締まった速目のテンポで始まった後,第2主題でテンポをぐっと落として,別世界へ。ただし,すぐにまた元に戻って,狂気が爆発するような雰囲気に...この曲でも,色々な表情が短い周期で交替する面白さ,ヴィオラやチェロパートのリズムの強調などを存分に楽しむことができました。第2番と違っていたのは呈示部の繰り返しを行っていた点です。この辺の「曲ごとに変えてくる」のもミンコフスキさんらしさでしょうか。

第2楽章もおっとりとした優雅さよりは,リズムが前のめりに進んでいく感じがあり,「何かたくらんでいるな」というムード。どこか攻撃的な鋭さを感じさせる音楽になっていました。

第2楽章の後,あまりインターバルを置かず,第3楽章へ。ここでもグイグイと音楽が意志的に進んでいきました。ファゴットの音がしっかり聞こえて来たり,独特の雰囲気がありました。トリオでのチェロ・パートのゴツゴツとした表情も大変印象的でした。OEKが過去,この部分を演奏する時は,メンバーに「まかせたぞ」という感じの室内楽的な雰囲気になることが多かったのですが,これまでに聞いたことのない凄みを持った音楽になっていました。

第4楽章は,ここまでの総決算という感じの狂気の速さ。ビシビシ,ピリピリと迫ってくるような第1主題と穏やかさのある第2主題と対比は,第1楽章の構成と似ているなと感じました。そして,バロックティンパニの乾いた音など,曲の至るところ出てくるそわそわとした感じ。コーダの部分では強烈なビートを聞かせた,ロック音楽のような世界。さすがにこのスピードだと「完璧」に演奏するのは難しかったと思いますが,それを越えた「挑むような迫力」を感じました。

ミンコフスキさんの事前インタビュービデオでは,「(今回の8番は)オリンピックよりすごい」と語っていましたが,確かに「限界に挑む感じ」には,スポーツに近いものを感じました。OEKの皆様,大変お疲れさまでした,と言いたくなるようなハードな演奏だったと思います。

というわけで,前回の1,3番とは全く違ったベートーヴェンの世界が広がっていました。個人的には,この2曲については,健全さや優雅さのある演奏が好みではあるのですが,今回のミンコフスキさんの演奏は,過激でクレージーな側面を強調して,一味違ったイメージを伝えてくれた気がします。チクルス第3回の第6,5番への期待をさらに高めてくれる公演でした。


これは休憩時間中に撮影(19:00過ぎ頃)。まだまだ明るかったです。

PS. この日の公演は,実質的な演奏時間が60分に満たない長さ。18:30開始だったこともあり,20分の休憩時間を含めても終演時間は20:00前。これもまた異例でした。

(2021/07/22)