OEKfan > 演奏会レビュー


オーケストラ・キャラバンKANAZAWA 大阪交響楽団
2021年8月20日(金)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) シェーンベルク/浄められた夜, op.4
2) シェーンベルク/6つの歌 op.8〜第1, 2, 4曲
3) マーラー/交響曲第4番ト長調

●演奏
橋直史指揮大阪交響楽団,並河寿美(ソプラノ*2-3)



Review by 管理人hs  

全国的に新型コロナウィルス感染拡大が止まらない中,日本オーケストラ連盟主催で全国各地で「オーケストラ・キャラバン」として行われている公演を聞いてきました。金沢では8月20日から24日の間に3公演が行われました。これだけ短期間に国内の3つのオーケストラを聴ける機会は貴重な機会です(ただし,考えてみると「いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭」ならばありかも)。その1日目,橋直史指揮大阪交響楽団の公演を石川県立音楽堂で聞いてきました。私自身,このホールに入るのは8月になってからは初めて,約1カ月ぶりのことです。


演奏された曲は,シェーンベルクの「浄められた夜」と「6つの歌」 op.8(中の3曲),そしてマーラーの交響曲第4番でした。プログラムの解説を読むと,1902〜1904年に初演された曲ばかり。同時代の空気感を伝える曲を並べた,非常に楽しみなプログラムでした。

演奏も素晴らしいものでした。やはり大編成オーケストラの生演奏は良いなぁと実感しました。後期ロマン派の作品ばかりということで,濃厚で退廃的という先入観を持ちがちですが...橋直史さんの指揮ぶりは,大変明快で,音楽が前向きにぐいぐい進んでいくようでした。「世紀末」というよりは「新世紀」を切り開いていく新鮮さを感じさせてくれるような演奏だったと思いました。

シェーンベルクの「浄められた夜」といえば,ギュンター・ピヒラー指揮OEKによる,緊迫したムード溢れる演奏の印象が残っているのですが,本日の演奏からは,ほのかに暗い感じから,ほのかに明るい感じへと,生き生きと変化していくような爽快さを感じました。冒頭から弦楽器の各パートの音に透明感があり,自然に音楽が流れていきました。

曲はデーメルの詩に基づいたものですが,その展開に応じて曲想がくっきりと変化していました。弦楽合奏版ということで,時々出てくる首席奏者たちによるソロの部分が,くっきり浮き上がるのも実演ならではでした。

全曲を通じて大変雄弁な演奏でしたが,大げさ過ぎる感じはなく,次第に心地よい響きに包み込まれるような淡い喜びに満ちた雰囲気になっていきました。特に曲の最後の部分での,中声部の弦楽器による,軽やかに波打つような透明な響きが素晴らしいと思いました。

橋直史さんは,一見地味な雰囲気の方でしたが,指揮の動作はとても大きく分かりやすく,オーケストラを見事にまとめていました。

2曲目に演奏された,「6つの歌.op.8」も無調音楽になる前のシェーンベルクの作品ということで,第1曲の「自然」から,R.シュトラウスの管弦楽伴奏付きの歌曲などと共通する雰囲気を感じました。トロンボーンやテューバも加わる大編成の曲ということで,ソプラノの並河寿美さんの声は,さすがに埋もれそうになる感じの部分もありましたが,その無理のない澄んだ声には伸びやかなスケール感があり,曲のムードにぴったりでした。この日は,演奏会の時間を短縮するため,6曲のうち3曲だけの演奏になったのが残念でしたが,特に第2曲「紋章入りの盾」は全体の雰囲気が大変ドラマティックで,オペラの1シーンを観るような壮大さを感じました。第4曲「私は倦んだことはない...」は,落ち着きのある大人の歌。じっくりと聞かせてくれました。

後半は,マーラーの交響曲第4番が演奏されました。金沢でマーラーの交響曲が演奏される機会は少ないので,私を含め,この曲を目当てに来られた方も多かったのではないかと思います。その演奏ですが...ものすごく楽しめる演奏でした。まず,第1楽章の冒頭のテンポが結構速く,グイグイ音楽が進んでいく感じがとても新鮮でした。クラリネットが印象的な主題を出す部分ではさらにテンポアップ。これもスリリングでした。かといって,慌てた感じはなく,しっかり歌わせる部分は歌わせ,しっかり酔わせてくれました。

オーケストラの音色も多彩で,その変化を鮮やかに聞かせてくれました。この曲の編成のいちばんの特徴は「フルート4人」だと思いますが,ぴたりと揃ったくっきりと音を聴くと「天国の入口」付近に来ている気分になります。さらに,クラリネットやオーボエが強く演奏する部分では,結構頻繁にベルアップしており,見た目的にも楽しかったですね。楽器の持ち上げ方も,ちょっと斜めに持ち上げる感じだったので,正面から見てもよく分かりました。楽章の最後の方,弦楽器が陶酔的な気分になるところも,響きが重くなり過ぎず,清潔感があって良いなと思いました。

第2楽章はホルンやヴァイオリンソロが活躍しますが,どこか寝覚めが悪い感じで始まった後,レントラー風のワルツの部分で,クラリネットが喝を入れるような感じで乱入。急に気分が変わる感じが,実にマーラー的だなぁと思いました。その他,静かな部分でも,あまりテンポを溜める感じはなく,夢のように音楽が流れていきました。

第3楽章は誠実な思いがしっかりこもった深い味わいのある演奏でした。楽章最後のクライマックスでの大げさ過ぎないけれども,ティンパニの強打,ホルンのベルアップ,キリキリと絞り上げるようなヴァイオリン...しっかり力のこもった盛り上げも印象的でした。この曲の場合,「ソプラノはどこで入ってくるのだろう?」というのも注目です。今回は余韻を残して第3楽章が終わった後,下手側のドアが開いて,白いドレスを着た並河さんがスッと登場。何というか,曲想の変化とぴったりな雰囲気で,一種のシアターピースのような感じで「天使が入ってきた」という視覚的な効果を感じました。

並河さんの声は,ここでもすっきりした感じと暖かみとがバランスよく調和した心地よい歌を聞かせてくれました。第4楽章は,どちらかというと速目のテンポ感で,これまで出てきた主題が色々絡み合う中,多彩な音が聞こえてきました。曲の最後,ハープの音がスッと止まると時間がパタッと止まったような感じになりました。その後,指揮の橋さんの動作も止まったままだったので,拍手が入るまで,とても長い間がありました。幸せな音楽の時間の余韻にずっと浸っていたい,というような長い間だったと思いました。

この日のお客さんの数は多くはなかったのですが,盛大な拍手が続き,大阪交響楽団の皆さんをしっかり見送りました。オーケストラキャラバン金沢公演は,8月23日,24日も行われ,セントラル愛知交響楽団と日本フィルが登場します。コロナの感染拡大は不安ではありますが,一日中,コロナのことばかり考えているのも,精神的には良くないのではと思います。感染防止対策に従った上で,次週も楽しみたいと思います。

PS. 石川県立音楽堂周辺には,開館20周年をアピールする旗などが設置されていました。来月9月が「誕生日」ですね。



 
開館20周年記念公演のポスター。音楽堂のパイプオルガンを描いた,百々俊雄さんのパステル画。とても好きな作品です。

(2021/08/26)