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オーケストラ・キャラバンKANAZAWA セントラル愛知交響楽団
2021年8月23日(月)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ビゼー/「アルルの女」第2組曲
2) ラヴェル/ピアノ協奏曲ト長調
3) (アンコール)ドビュッシー/月の光
4) ムソルグスキー(ラヴェル編曲)/組曲「展覧会の絵」
5) ビゼー/「アルルの女」第1組曲〜メヌエット

●演奏
松尾葉子指揮セントラル愛知交響楽団*1-2,4-5
萩原麻未(ピアノ*2-3)



Review by 管理人hs  

オーケストラ・キャラバン金沢公演,前週の大阪交響楽団に続き,松尾葉子指揮セントラル愛知交響楽団の演奏会を石川県立音楽堂で聴いてきました。プログラムは,ビゼーのアルルの女第2組曲,ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調(ピアノ独奏:萩原麻未),ムソルグスキー(ラヴェル編曲)の「展覧会の絵」ということで,「ほぼ」フランス音楽の名曲集でした。



ベテラン指揮者の松尾葉子さんについては,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の設立当初から何回か客演をされているのですが,私自身,OEK以外を指揮されるのを聴くのは今回が初めてかもしれません。松尾さんの指揮ぶりには,音楽をこれ見よがしに大げさに盛り上げたり,神経質に強弱を付ける部分がなく,非常に率直に自然体の音楽を作っていたのが印象的でした。

最初に演奏された「アルルの女」第2組曲は,井上道義指揮OEKが結構よく取り上げてきた曲で,その「大きくうねるようなドラマ」を感じさせるような演奏の印象が残っています。今回の松尾さんの指揮の場合,「ファランドール」などは,最初から速目のテンポで,「最後に一気にダッシュする」というよりは,直線的に盛り上がっていく感じでした。個人的な好みとしては,もう少しケレンミが欲しいかなと思いましたが,その分,大げさになるのを避けた「粋さ」を感じました。

その他の曲も,率直かつあっさりとした演奏で,サクソフォーンの音などを交えて,フランスの田園風景を自然に感じさせてくれるようでした。有名な「メヌエット」のフルートのソロも自然に吹いてくる「風」を感じさせるようでした。

2曲目に演奏されたラヴェルのピアノ協奏曲ト長調は,この日のプログラムの中で,特に素晴らしいのと思いました。この曲も,OEKの各種公演で,金沢では,色々なピアニストで何回も演奏されてきた曲です。その中でも萩原さんのピアノは特に素晴らしい演奏だったと思いました。どこを取ってもお見事した。

萩原さんのピアノは多彩なニュアンスに富んでおり,しかも,そのタッチには,常に乱暴にならない美しさがありました。基本的に安定した落ち着きを保ちつつも,曲想の変化に応じて,鮮やかさや軽やかさをしっかりと感じさせてくれました。

第2楽章での,まろやかでありながらも重苦しくならない艶っぽさ。シンプルな音から奥行きが伝わってくるようでした。どの音も吟味されており,しっかりと磨かれた上で,その音を自然に使っている感じでした。

第3楽章での速いパッセージでも全く乱れることのない鮮やかさも見事でした。ジャズ的な気分,自由奔放な音楽の弾み方...それらがすべて洗練されていました。恐らく,萩原さんはこの曲をこれまで何回も演奏されてきたのだと思います。しっかりと手の内に入った安心感の上での自在さが溢れる演奏でした。

オーケストラの方は,何回もこの曲を演奏してきたOEKの小粋な感じの演奏に比べると,「演奏するのが大変そう」という部分があったのですが,萩原さんの演奏をしっかり盛り上げる,生きの良さが随所に溢れていると思いました。

その後,萩原さんの独奏で,ドビュッシーの「月の光」がアンコールで演奏されました。ピアノの音色が,ラヴェルの時とはガラリと変わり,全体のトーンがぐっと落ち着いた感じになり,ホール内が夜の気分に包まれました。フランスの音だなぁと思いました。

後半演奏された,「展覧会の絵」もとても充実した演奏でした。冒頭のプロムナードのトランペットの音〜金管合奏にも,堂々とした落ち着きと華やかさがあり,一気に曲の世界に引き込んでくれました。松尾さんの作る音楽には,上述のとおり「もったいぶった感じ」がなく,音楽の多彩や楽しさがストレートに伝わってきました。

「古城」も速目のテンポでしたが,サクソフォーンの音にコクがあり,とても心地の良い音楽が広がりました。「ビドロ」では,最初に出てくるテューバ(小型のテューバでしょうか)の”ちょっといつもと違うな”といった感じの音,小太鼓を中心に生々しく盛り上がる感じが聞きものでした。

「サミュエル・ゴールデンベルクとシュムイレ」では,トランペットの高音が続く難所を見事に聞かせてくれました。「リモージュの市場」での軽快さと落ち着きが混然一体になった感じも良いと思いました。「カタコンブ」でも金管楽器の音のバランスが素晴らしいと思いました。その中からトランペットが突き抜けて聞こえてくるのも爽快でした。

「バーバ・ヤーガの小屋」も大げさ過ぎず,ストレートに進む感じ。中間部の静けさとの対比が鮮やかでした,そして,「キエフの大門」に続いていきますが,ここでも「ナニコレ珍百景」的に”タメ”を作るような感じはなく,美しく無理のない音でしっかりと聞かせるという演奏でした。その点で薄味の演奏でしたが(こてこての油彩というよりは水彩画風でしょうか),その分,各曲の「形」がしっかりと見えてくるような気がしました。何よりも,トランペットを中心に各楽器がしっかりとした音を聞かせていたのが良いなと思いました。

アンコールでは,「アルルの女」の第1組曲の中のメヌエットが演奏されました。演奏会全体を通じて見ると,「アルルからスタートして,アルルに戻ってくる」構成。これしかないという選曲でした。

今年初めて行われた「オーケストラ・キャラバン」企画。コロナ禍が収まらない中での開催でしたが,考えてみれば,ちょっとした「旅」気分も味わわせてくれます。前週は大阪のオーケストラによるオーストリアの音楽,この日は愛知県のオーケストラによるフランス音楽,翌日は日本フィルによるロシア音楽。この日の演奏を聞きながら,夏の定番企画に育って行って欲しいなぁと思いました。

(2021/08/26)