OEKfan > 演奏会レビュー


石川県立音楽堂開館20周年記念事業 OEK&仙台フィル合同公演
楽都の響き:今,感謝を込めて
2021年9月12日(日)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

石川県立音楽堂開館20周年 記念式典
1) バルトーク/弦楽器,打楽器とチェレスタのための音楽
2) プロコフィエフ/古典交響曲 ニ長調, op.25
3) 渡辺俊幸/NHK大河ドラマ「利家とまつ」〜メインテーマ
4) 池辺晋一郎/NHK大河ドラマ「独眼竜政宗」〜メインテーマ
5) 武満徹/「波の盆」オーケストラのための
6) サン=サーンス/交響曲第3番ハ短調, op.78「オルガン付き」〜第2楽章(後半)
7)(アンコール) 夕焼け小焼け

●演奏
山田和樹*1,4-5,7; 川瀬賢太郎*2-3,6-7指揮オーケストラ・アンサンブル金沢*1-3,6-7; 仙台フィルハーモニー管弦楽団*1,4-7,黒瀬恵(オルガン)*6, 木村かをり(ピアノ)*1
案内役:池辺晋一郎



Review by 管理人hs  

石川県立音楽堂開館20周年記念事業OEK&仙台フィル合同公演「楽都の響」が石川県立音楽堂コンサートホールで行われたので聴いてきました。





実は,私自身,演奏会のレビューを書き溜めるようになったのは,石川県立音楽堂の完成がきっかけの一つでしたので,感慨深いものがあります。20年間,少なく見積もっても月2回は音楽堂に出かけていましたので,12ヶ月×2回×20年=480回となりますが,500回以上出かけているのは確実です。自宅,職場の次に長い時間を過ごしている場所ということになります。また,その大半についてレビューを書いてきました。我ながら,根気強く続けられたなと感じています。


演奏前や休憩時間に音楽堂20年の歩みを振り返るようなスライドショーを投影していました。

今回のプログラムですが,「音楽堂らしさ」「石川県らしさ」そして音楽堂の設立に多大な力のあった「岩城宏之さんらしさ」がポイントだったと思います。その記念公演をオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と一緒に祝ってくれたのが,仙台フィル(SPO)でした。10年前の東日本大震災直後以来の合同公演です。指揮者は,山田和樹さんと川瀬賢太郎さんの2人。この2人の指揮者が「らしさ」溢れる記念公演を大きく盛り上げてくれました。

まず,OEKとSPOの弦楽セクションが左右に分かれて配置して演奏されたのがバルトークの「弦楽器,打楽器とチェレスタのための音楽」でした(ピアノ,チェレスタ,打楽器類は真ん中に配置)。この選曲は,打楽器奏者でもあった岩城さんへのオマージュの意味もあったと思います。ピアノには,岩城さんの奥さんの,木村かをりさんも参加していました。

山田和樹さんの指揮は,熟練の指揮ぶりでした。緊張感の高さ,密度の高さを維持しつつ,堅苦しくなりすぎることはなく,所々,余裕を持って遊ぶような部分もありました。いかにも岩城さん好みのこの作品ですが,いつの間にか,私自身,以前よりもこの曲の面白さが分かるようになって来た気がします。

第1楽章,2群に分かれたオーケストラの各パートが,ゆっくりとしたフーガのように絡んでいく感じ。じわじわと浸みてくるのが,しみじみ良いなぁと思いました。これまでこの曲は,OEKの単独演奏で聴いてきたのですが,今回は2オーケストラ分の弦楽器の厚みが素晴らしく,演奏する声部が動いたり,重なったりたびに響きが変わっていくのが鮮やかに感じられました。

リズミカルな第2楽章になると打楽器の活躍が目立ってきます。打楽器が加わると,音に変化が加わり,さらにチェレスタやハープが加わると単色的だった絵に色が加わります。ティンパニのグリッサンド,よくよく見ると結構変わった奏法をしていたシンバル...どんどん,バルトークの語法にはまっていく感じが快感でした。そして,この曲は実演だと,視覚的にも音響的にも何倍も楽しめるなぁと感じました。

この日のティンパニはお馴染みの菅原淳さん,ピアノは木村かをりさんということで,この2人のベテラン奏者がしっかりと全体を支える支柱になっているようでした。特にティンパニは表情が豊かで,鋭さだけではない,味と余裕が感じられました。

第3楽章は,渡邉さんのシロフォンの冴えた音でスタート。楽章全体は,どこか湿気のある夜のムード。チェレスタが怪しい色彩感を放っていました。

第4楽章には躍動感と同時に,厚みのある弦の迫力が魅力でした。前半はじっくりと演奏していたので,所々,ちょっとジャズっぽい雰囲気かなと思わせる部分もありました。途中,ピアノが連弾に切り替わる部分がありましたが(チェレスタ奏者が木村さんのとなりに移動),その辺りからギアが入れ替えられ,一気にハンガリーの血が騒ぐような雰囲気に。硬軟まじえ,多彩な表情を持った豊かな音楽が広がっていました。そして,最後はバチンと強烈にはじく,バルトークならではコントラバスのピチカート(この日のOEK側のコントラバスのエキストラは石川県出身の岡本潤さんでした)が決まり,一気に終了。

緊張感があふれる,密度の高い演奏である一方,山田さんの指揮は非常にこなれたもので,全曲を通じて成熟したまとまりの良さを感じさせてくれるような,見事な演奏でした。


この日のプログラムはプラスティック製のフォルダーに入っており,山田さん,川瀬さんに加え,当初登場予定だtった沖澤のどかさんからの「ひとこと」メッセージも入っていました。

休憩後は,記念公演に相応しく,もう少しリラックスした雰囲気の曲目が並びました。まず,各オーケストラの単独演奏のステージが続きました。最初はOEKの単独演奏で,川瀬賢太郎さん指揮による「OEK十八番の一」のプコロフィエフの古典交響曲が演奏されました。7月に井上道義さん指揮で聴いたばかりの曲ですが,非常に新鮮に響いていました。

第1楽章は元気よく開始。各楽器がくっきり聞こえてきて,特に木管楽器がソリストのように活躍していました。この古典交響曲については,OEKのメンバーたちが「盛り上げ方のツボ」を既に心得ており,色々な表現の引き出しも持っているのではないかと思います。演奏全体に余裕が感じられました。

第2楽章はじっくりと演奏。それでも重苦しくはならず,弦楽器が清潔感溢れる美しいメロティを聴かせてくれました。第3楽章は若々しく素直なガボット。フルートをはじめとした木管楽器がここでも大変表情豊かでした。

第4楽章はスピード感たっぷりのキリッとしたスマートな表現。「これから新しい20年が始まるぞ」といった感じの生きの良さを感じました。

その後は,音楽堂完成直後にNHK大河ドラマのテーマ曲を演奏することになった「利家とまつ」のメインテーマが演奏されました。この曲も何回も何回も聴いてきた曲ですが,川瀬さんの指揮で聴くのは初めてです。大変のびやかで率直な演奏。利家が20歳ぐらい若返った感じでした。

続いては山田和樹さん指揮SPOのコーナーになりました。まず「利家のまつ」に呼応するように,1987年のNHK大河ドラマ「独眼竜政宗」のテーマが演奏されました。両オーケストラそれぞれに,ご当地テーマ曲があるというのが,大変面白いところです。しかも,この曲を作曲したのが,石川県立音楽堂洋楽監督でもある池辺晋一郎さん。この日も池辺さんが司会でしたので,「これしかない,やるしかない」という曲でした。

この曲も過去数回実演で聴いたことがありますが,正統派大河ドラマという堂々とした押し出しの良さのある曲であり,演奏でした。個人的には,曲の最初の方,半音階で金管楽器が下降していく部分が格好良いなぁといつも思います。そしてオンドマルトノの音も特徴的です。今回はシンセサイザーで代用していました(ただし,私の席(3階)からだと音があまり鮮明に聞こえませんでした)。

その後,岩城さんの盟友,武満徹作曲のドラマ「波の盆」の音楽が演奏されました。この曲は,武満さんの死後,どんどん人気が高まっている曲です。OEKはテーマの部分だけCD録音していますが,今回は組曲版が演奏されました。自然な息遣いの感じられる,美しく柔らかな演奏でしたが,途中,雰囲気が暗転したり,なぜか急に行進曲が乱入してきたり,「一体どういう場面で使われたのだろう?」と想像が広がりました。

演奏会の最後は,石川県立音楽堂コンサートホールのパイプオルガンにちなんで,サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」の第2楽章後半が合同演奏で演奏されました。音楽堂のオルガンといえば,「いちばん頻繁に演奏されている」黒瀬恵さんということで,いきなり,黒瀬さんの演奏するオルガンの音がバーンと飛び込んできました。これは爽快でしたね。

せっかくの「オルガン付き」だったので,全曲聴きたいなと思ったのですが(やはり,コロナ禍の中,演奏会の長さ的な制約があったのだと思います),いきなりオルガンの音が入ってくるのも良いなと思いました。オーケストラとオルガンのバランスも「ベスト!」という感じで,威圧的になりすぎず,ゴージャズな気分に浸ることができました。

ピアノ連弾が途中入りますが,ここでは木村かをりさんもしっかり参加されていたのも嬉しかったですね。曲の最後の部分はティンパニも大活躍。骨のある力強い響きでクライマックスを強烈に盛り上げてくれました。


終演後のステージ。パイプオルガンの部分だけ照明が残っていました。


最後,アンコールが1曲演奏されました。山田和樹さんが再登場し,「お客さんもハミングで参加してください」という呼びかけの後,「夕焼け小焼け」が演奏されました。コロナ禍で合唱曲があまり演奏されない中,会場が幸せな空気に包まれました。そしてこの曲の指揮ですが...何と山田さんと川瀬さんの2人が分担。最初は川瀬さんが,お客さんの方を向いての「合唱指揮」でしたが,最後の部分では,2人が仲良く(?)並んでオーケストラを指揮。「20年に一度か?」と思わせる珍しい光景でした(オーケストラのメンバーはどちらを見ていたのか,それとも見ていなかったのか...色々気になりました)。

演奏会の,お土産は20周年を祝う紅白饅頭のプレゼント。こういう時に和菓子が出てくるのも金沢らしいところです。
 



さて20年後は,一体どんな世の中になっているのでしょうか?2041年ということで,仕事の多くにAIが入り込んでいることでしょう。音楽堂の入口の案内もAI内蔵ロボット...という時代になっているのかもしれないですね。

とりあえずは(当面の願いは),何とかコロナ禍に収まってもらいたいですね。そして,その後は,これまで同様,毎日毎日,1回1回の公演を楽しんで行きたい,と個人的には思っています。音楽堂の関係者の皆様に改めて感謝をしたいと思います。


To the futureと書かれた最後のスライド

PS. 公演に先だって,谷本石川県知事の列席の下,記念式典が行われ,特別功労者表彰などがありました。こういう「式典好き」も石川県らしいところでしょうか。

PS.20周年を記念して,音楽1階のチケットボックス付近の「展示コーナー」がリニューアルされていました。

岩城宏之メモリアルコーナー
 

右の写真の真ん中のの四角い箱は「手回しオルガン」。確か岩城さんがグルジアかどこかで購入してきたもののはずです(NHKの番組で放送したのを観た記憶があります)。その後,音楽堂のロビーでお披露目されていたこともありますが...「うるさくてたまらん」ような音だった記憶があります。
 

音楽堂20年の歩みのパネル




邦楽監督に就任する野村萬斎さん関係のプロモーション映像


サイモン・ラトルとホセ・カレーラスのサイン


上述のスライドショーの写真です。まず,2001年の開館時の公演の写真。時節柄,ものすごく密ですね。


2011年は,東日本大震災直後の仙台フィルとの合同公演の終演後の写真。仙台フィルとはこの時以来の共演ということになります。


Yesterdayということで,前日のリハーサルの写真です。


(2021/09/18)