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竹田理琴乃ピアノリサイタル
2021年9月17日(金)18:30〜 石川県立音楽堂交流ホール

ショパン/ノクターン第16番変ホ長調,op.55-2
ショパン/エチュード嬰ハ短調, op.10-4
ショパン/エチュードイ短調, op.25-4
ショパン/ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調, op.35
ショパン/アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ, op.22
ショパン/前奏曲嬰ハ短調, op.45
ショパン/ワルツ第5番変イ長調, op.42
ショパン/ポロネーズ第7番変イ長調, op.61「幻想」
(アンコール)ショパン/マズルカ(曲目不明,2曲)

●演奏
竹田理琴乃(ピアノ)



Review by 管理人hs  

金沢市出身のピアニスト,竹田理琴乃さんのリサイタルを石川県立音楽堂交流ホールで聞いてきました。竹田さんは,来月10月にワルシャワで行われる,第18回ショパン国際ピアノコンクールの本大会に出場されます。この日のプログラムはオール・ショパン・プログラム...ということで,本大会で演奏予定の曲を並べた最終調整を兼ねた壮行公演といえます。



竹田さんの演奏は,2008年の北陸新人登竜門コンサートでのオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)との共演以来,考えてみると10年以上も聴いていますが,ついにここまで来たか,という感慨にふけっています。これまでの集大成のような見事な演奏の連続でした。

演奏されたのは,ノクターン,エチュード,ポロネーズ,前奏曲,ワルツ,そしてソナタ第2番という多彩なものでした。

最初に演奏された,ノクターン第16番の最初の音から,磨かれた音を聞かせてくれました。メロディは素直でシンプルなのに,一音一音が静かにしっかりと耳に染み込んできました。竹田さんは,演奏途中のトークで「心を込めて演奏します」と語っていましたが,その言葉どおりの演奏でした。

次に演奏されたのは,急速で鮮やかだけれども,機械的にならず雄弁に聞かせるエチュードop.10-4(「別れの曲」の次の曲)。軽く弾むように生き生きと進むエチュードop.25-4。この軽やかさは竹田さんのピアノの大きな魅力だと思います。

前半最後は,ピアノ・ソナタ第2番「葬送」が演奏されました。第1楽章冒頭の1音は全く力んだところのない平静さ。全体にしっかりと抑制が効いており,ソナタらしいバランスの良さがありました。その中で,途中に出てくる抒情的なメロディなどはしっかりと歌われ,瑞々しい詩情が漂っていました。

展開部ではパッと気分が代わり,音楽がドラマティックに盛り上がる部分では,強打が連続したり,ゴツゴツとした雰囲気に変わったり,多彩な表現が次々と出てきました。それらが全て粗っぽくないのも竹田さんの素晴らしさだと思います。

第2楽章でも躍動感と安定感が共存したような音楽を聴かせてくれました。特に柔らかでデリケートな中間部では,目が詰んだ音による安定感のある音楽が流れており,印象的でした。

第3楽章「葬送行進曲」は平静な歩みで始まった後,少しずつ音楽が大きく盛り上がって行きました。中間部での純粋さに溢れた美しさも忘れられません。重くなり過ぎることのない誠実な歌の世界にずっと留まっていたいと思いました。

第4楽章は「墓場を吹き抜ける風」といった殺伐とした感じはなく,どこか艶やかさがあり,幻想的で不思議な世界に連れていかれたように感じました。



後半は,「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」でスタート。これもまたお見事としか言いようのない演奏でした。前半の品の良い優雅な気分を受け,ファンファーレ風のフレーズ(この音も見事)。その後は,これでもかこれでもかと続く煌めきの連続。竹田さんの演奏は大変軽やかで,しつこさがありません。音色が多彩で,どれだけれも聞いていたくなります。そして,さわやかでゴージャズな気分にさせてくれました。

前奏曲op.45は嬰ハ短調ということで,近年特に人気の高い,ノクターン嬰ハ短調遺作のような雰囲気の曲でした。はかなげでメランコリックな雰囲気にしっかりと浸ってしまいました。続いて演奏されたワルツop.42は長調だけれども,どこかメランコリック。竹田さんの演奏には,ノリの良いせつなさ的な気分があり,大変魅力的でした。

演奏会の最後は,幻想ポロネーズでした。常に自然な息づかいを感じさせながら,曲が進むにつれて深い深い世界に入り込んでいくような演奏でした。ずっとこの世界にいたいと思わせながらも,最後はそこから立ち上がり,力強く終了。内面のドラマを感じさせるような,大変聴きごたえのある演奏でした。

演奏会の後,竹田さんから「ショパンコンクールに参加してきます。悔いのないように演奏したい」といった言葉と支援してくれている関係の皆さんへの感謝の言葉があった後,マズルカのアンコールがありました。竹田さんには,選ばれたわずかな人しか出られない大舞台で自分の思う通りのショパンを「心をこめて」演奏してきてもらいたいと思います。きっとポーランドの聴衆も魅了することでしょう。

そして,その結果とは別にして...竹田さんによるショパン全曲演奏シリーズといった企画などあれば,是非参加してみたいものです。期待をしています。

(2021/09/23)