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オーケストラ・アンサンブル金沢第445回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
2021年9月19日(日)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) メンデルスゾーン/序曲「美しいメルジーネの物語」, op.32
2) シューマン/ピアノ協奏曲イ短調, op.54
3) ショパン/アンデンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ, op.22
4) シューマン/序曲,スケルツォとフィナーレ, op.52
5) (アンコール)モーツァルト/ピアノ協奏曲第20番ニ短調, K.466〜第2楽章

●演奏
川瀬賢太郎指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング),菊池洋子(ピアノ)*2-3,5



Review by 管理人hs  

爽やかな秋晴れの中,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の2021/2022の定期公演シリーズがフィルハーモニー・シリーズでスタートしました。指揮は川瀬賢太郎さん,ピアノは菊池洋子さんで,メンデルスゾーン,シューマン,ショパンというほぼ同年齢の作曲家による初期ロマン派の作品を並べたプログラムでした。この日の気候同様,さらっと晴れ上がったような演奏が続き,爽快な気分で新シーズンの開幕を迎えることができました。



最初に演奏された,序曲「美しいメルジーネの物語」は,メンデルスゾーンらしい描写的な音の動きと,大げさ過ぎないドラマが絡み合うような作品でした。かなり以前,尾高忠明さん指揮の定期公演で聴いた記憶がありますが,石川県立音楽堂になってからは初めてかもしれません。冒頭クラリネットで始まる部分の,文字通り瑞々しく,キラキラとした水のイメージ。音楽が心地良く流れ,ちょっとミステリアスな気分を交えながら,キリッとした感じで「海のドラマ」を伝えてくれました。

次のシューマンのピアノ協奏曲は,ここ数年,OEKが頻繁に取り上げている協奏曲の1つです。冒頭,オーケストラに挑むような感じで菊池さんのピアノが始まった後は,ロマンティックで柔らかな気分を交え,多彩な表情を見せながら進んでいきました。要所要所でオーボエのソロが出てくる曲ですが,今回はエキストラの高橋鐘汰さんという方がトップ奏者を担当していました。優しく暖かみのある音が大変心地良く響いていました。

第1楽章は元々は単独の幻想曲として作曲された作品ということで,楽章内での気分の変化も大きいのですが,この日の演奏では,特に中間部でパッと別世界が広がるような鮮やかさを感じました。オーケストラとピアノが一体となって静かでセンシティブな音楽が広がっていきました。菊池さんのピアノは細かい部分で本調子でないように思えましたが,楽章の後半からカデンツァにかけて,起伏の大きい堂々とした音楽を聴かせてくれました。

第2楽章は菊池さんの落ち着きと気品に満ちたピアノで始まりました。この楽章ではチェロも聞き物ですが,甘すぎずにしかしじっくりと歌っていました。楽章が進むに連れて,どんどん耽美的になり,ロマン派音楽の佳境に入っていく感じでした。川瀬さん指揮OEKと菊池さんとが一体になって,別世界に連れて行ってくれました。

第3楽章でも菊池さんのピアノは,優雅かつスケールの大きさを感じさせてくれました。シューマンならではの「三拍子の行進曲」風の部分は落ち着いた歩み。その余裕のある雰囲気からファンタジーが広がるようでした。そして,楽章の最後は,これでもかこれでもかと音の波が続く難所。オーケストラと一体になってノリの良いスケールの大きな音楽を聴かせてくれました。



プログラム後半,再度菊池さんが登場し,ショパンのアンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズが演奏されました。実はこの曲,9月17日(前々日)の夜に,今年のショパン国際ピアノコンクールに出場する竹田理琴乃さんの演奏(こちらはピアノ独奏版ですが)で聴いたばかり。こんなに短期間にこの曲を連続して聴く機会もめったにないことだと思います。

まず前半の「アンダンテ・スピアナート」の部分。ピアノの音が美しかったですねぇ。ホール全体に音が染み渡るようでした。このままずっとこの調子でも良いと思わせるぐらいでした。

後半は,ホルンによる見事なファンファーレに続き,オーケストラが加わっての「大ポロネーズ」の部分なります。一転して,ダイナミックで華麗な展開。竹田理琴乃さんの演奏の方が軽やかでしたが,菊池さんの大柄な演奏も大変魅力的でした。品良く健康的な菊池さんのピアノにぴったりの曲だと思いました。

演奏会の最後は,シューマンの「序曲,スケルツォとフィナーレ」という人を喰ったようなタイトルの作品でした。実態は,緩徐楽章のない小交響曲といった感じで,プログラム全体の最後に持ってくるには少々軽い印象はありましたが,それでも「シューマンらしさのツボ」が次々と出てくる聞きやすい作品でした。

川瀬さんはOEKの定期で取り上げる曲を選ぶ際には,「知る人ぞ知る,ちょっといい曲」を意識的に選んでいるようですが,この曲もまたそういう感じでした。作品番号的にも協奏曲が54,この曲が52ということで同時期の作品を並べる関連性も感じました。

第1楽章はミステリアスな感じで始まった後,いかにも初期ロマン派的な瑞々しいメロディが出てきました。じわじわ来るような魅惑のメロディでした。その後も次々とメロディが沸き上がってくるような楽しさがありました。楽章の最後の部分は,「他のシューマンの曲と似ている?」という感じでしたが,その辺も楽しかったですね。

第2楽章は,ひっそりとしたスケルツォでスタート。ちょっと何かをたくらんでいるな,という感じが川瀬さんのキャラ(?)と通じるのではと思いました。

第3楽章のフィナーレも,ちょっと聴いただけで「シューマンだ」と思わせる「らしい」雰囲気。フーガを思わせるようながっちりとした構成感と上へ上へという向上心とが絡み合って,盛り上がっていく音楽でした。全曲を通じて,流れよく音楽が進み,気持ちよく全曲が締められました。

そして,この日は最後に「予定外」といっても良いアンコール曲が演奏されました。川瀬さんとOEKと菊池さんは,9月26日に松江でも公演を行う予定でしたが,この公演がコロナ禍の影響でキャンセルになることが決まってしまいました。この公演のみで演奏予定だったのが,モーツァルトのピアノ協奏曲第20番。しっかりリハーサルもしていたのにもったいない...ということで,松江公演の代わりにこの日,第2楽章だけアンコールとして演奏されることになりました。

この演奏ですが,さすが,モーツァルトを得意とする菊池さんという演奏。ゆったりと流れるというよりは,美しく弾むといった感じの演奏で,純度の高い美しさを味わうことができました。

松江公演がキャンセルになったように,まだまだコロナ禍は収束していませんが,新定期公演のシリーズでは,客席100%利用という「通常の形」となりました。ウィズ・コロナの1年になりそうですが,こういう時だからこそ,しっかと「新様式」を守りつつ,生演奏の良さを楽しみたいと思います。

(2021/09/25)









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