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オーケストラ・アンサンブル金沢第446回定期公演マイスター・シリーズ
2021年10月2日(土)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ハイドン/交響曲第96番ニ長調Hob.I-96「奇跡」
2) モーツァルト/クラリネット協奏曲イ長調, K.622
3) (アンコール)吉田誠/即興演奏
4) シューベルト/交響曲第2番変ロ長調, D.125

●演奏
ユベール・スダーン指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)*1-2,4,吉田誠(バセットクラリネット)*2-3



Review by 管理人hs  

全国的にコロナ関連の警報が解除された2021年10月。爽やかな気候の土曜日の午後,ユベール・スダーンさん指揮によるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)定期公演を石川県立音楽堂で聴いてきました。スダーンさんが金沢に来られるのは...2020年1月のニューイヤーコンサート以来,1年9ヶ月ぶりということになります。



今回のプログラムは,前半がハイドンの交響曲第96番「奇跡」とモーツァルトのクラリネット協奏曲。後半がシューベルトの交響曲第2番という,スダーンさんが得意とする,ウィーン古典派〜初期ロマン派に掛けての作品が集められました。全曲を通じて,スダーンさんの指揮ぶりや解釈は,以前と全く変わらず「スダーンさん健在!」と実感できました。

ハイドンの96番は,スダーンさんらしく,キビキビとしたテンポ感で演奏されつつも全体の軸がぶれない安定感。清澄な響きと強靱な響きが絶妙にブレンドしたOEKのサウンドを聴いて,「やっぱり古典派はよいな」と思いました。

第1楽章序奏部から引き締まった雰囲気がありました。オーボエがじっくりと歌った後,生き生きとした主部へ。このバランスの取れたメリハリの付け方が安心感につながります。しっかりと抑制されつつも,要所でぐっと力強さを増すあたりの様式感も見事だと思いました。この日はバロックティンパニを使っており,品格と華やかさのあるトランペットとともに,祝祭的な気分も感じられました。

第2楽章は落ち着いた歩みの感じられるアンダンテ。甘い感じにならないのがスダーンさんらしいところです。ヤングさんと江原さんによるヴァイオリン・デュオのような部分を初め,加納さんのオーボエ,岡本さんのフルートなど各楽器もくっきりと聞こえてきました。

第3楽章はどっしりとした落ち着きのあるメヌエット。それにしても,この曲ではオーボエが大活躍です。この楽章では,大切なものを愛でるようなソロをたっぷりと聴かせてくれました。

第4楽章は速めでのテンポでザワザワと開始。ここでも,全体を引き締めるようなティンパニのビシッとした響きやトランペットの晴れやかさが印象的でした。



続いてモーツァルトのクラリネット協奏曲が演奏されました。今回の目玉は,OEKとは初共演(多分)となる吉田誠さんがバセットクラリネットで演奏したことです。吉田さんが登場した時,「結構長いなぁ」と思いながら見ていたのですが,そのイメージどおりで,通常のクラリネットより低音部の響きに充実感がありました。吉田さんの演奏も大変表情豊かでした。のびやかな高音部とちょっとミステリアスな気分さえ感じさせる低音部との切り替え,弱音から強音までのダイナミックレンジの広さ...とてもスケールの大きな演奏に感じました。その多彩な音を味わいながら,2つの楽器を1人で操っているような,すごさを感じました。

スダーンさんとOEKは,第1楽章冒頭から推進力溢れる万全のバックアップでした。次々と音楽が湧き出てくるような豊かさを感じさせる演奏でした。吉田さんの演奏も,上述のとおりで,オーケストラの演奏同様,ぐっと音が迫ってくるような豊かさがありました。特に第2楽章の息の長い歌が素晴らしいと思いました。しだいに深い世界へ降りていき,こだわりの弱音の世界に入っていく感じが絶妙でした。バセットクラリネットの音だけが残るような余韻を残して,第3楽章へとつながっていきました。

第3楽章はくっきりとした力強い演奏。闊達な音の動きが続き,大きく伸びやかに羽を広げていくような若々しさと開放感を感じました。吉田さんは低音を演奏するとき,楽器を足の間にはさむようにうつむき加減で演奏されていましたが,楽器の奏法も通常のクラリネットとは少々違うようでした。低音のくぐもったような響きからホール全体に広がるような輝かしい高音へと音が鮮やかに変化していく様子が良いなぁと思いました。

アンコールではバセット・クラリネットのみによる独奏曲が演奏されました。OEKの公式ツイッターの情報によると,吉田さんによる即興演奏とのことでした。楽器を使ってお客さんに話しかけてくるような雰囲気のある,まさに即興演奏という感じの演奏でした。

考えてみると,バセットクラリネット用の独奏曲というのは...ほとんどない?と思いますので,「自分で作る」のがいちばんなのかもしれないですね。モーツァルトのクラリネット協奏曲の断片がところどころで出てきていたので,カデンツァのような雰囲気がありました(よくよく考えてみるとこの曲自身にはカデンツァがなかったですね)。聴いたばかり曲の残像がチラつくようで,アンコールにぴったりの曲だと思いました。

後半は,シューベルトの交響曲第2番が演奏されました。考えてみると,前半がハイドンの後期の曲,後半がシューベルトの初期曲という構成は,7月の井上道義さん指揮の定期公演と同じ(ちなみに指揮台を使っていなかった点も共通)。OEKならではのプログラム構成と言えます。

シューベルトの2番を実演で聴くのは久しぶりでしたが,色々な「諸先輩方」の影響を感じさせつつも,シューベルトらしい歌が要所要所で湧き出てくる魅力的な曲です。基本的には,前半のハイドンと同様,キビキビした感じと安定感と強靱さが同居した演奏。まとまりの良さと充実感がありました。

第1楽章序奏部は輝きと清澄さのある響きで開始。フルートが加わって,音楽がさらに浮遊していく感じに心地よさを感じました。主部に入ると音楽が生き生きと流れていく「無窮動」的感覚のある音楽に。ベートーヴェンの「プロメテウスの創造物」序曲と「そっくり?」という感じのワクワク感のある音楽ですね。それでも音楽はきちんと整っており,清潔な部屋にいるような心地よさを感じました。楽章の終結部は,安定感溢れる立派な音で終結。過不足のない音楽を聴いた満足感がありました。

第2楽章は愛らしい主題の後,コンパクトだけれども変化のある展開が続く変奏曲。ハイドンの交響曲第94番「驚がく」の第2楽章と似た感じがします。最近,こういう音楽を聴くと,「こんな感じの人生を送れると良いなぁ」とつくづく思います。びっくりはさせないけれども,穏やかな変化に富んだ音楽をしみじみ味わいました。

第3楽章はピリッとくるような短調のメヌエット。ぐっと迫ってくるような演奏でした。ティンパニの音が隠し味のように迫力を作っていました。トリオでは第1曲のハイドン同様,オーボエの歌。パリッとした感じにムードが代わり,加納さんがソリストのように聴かせてくれました。

第4楽章は弦楽四重奏のような編成で開始。軽快な楽章に相応しいスタートでした。その後,瑞々しさのある音楽がぐんぐん進み,次第に巨大化していきました。細部までくっきり描かれた生き生きした音楽が続きました。パッと飛び込んでくるような遠藤さんのクラリネット音も印象的でした。楽章の最後は,緊迫感を持った熱さのある音楽。コンパクトながら充実感のある音で全曲を締めてくれました。

というわけで,スダーンさん指揮OEKによる古典派の交響曲。これからまだまだ聴いていきたいと思います。期待しています。


PS. 今回,初めて吉田誠さんの演奏を実演で聞いた記念に,久しぶりに会場でCDを購入。その特典として,吉田さんとスダーンさんのサインの入ったカードをいただきました。ブラームスとシューマンのクラリネット作品は,秋の夜に静かに聴くのにぴったりの音楽でした。


(2021/10/09)












昨年度は中止になった9月恒例の「金沢おどり」。今年は開催されます。