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オーケストラ・アンサンブル金沢第447回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
ベートーヴェン全交響曲チクルス第4回
2021年10月21日(木)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

ベートーヴェン/交響曲第4番変ロ長調, op.60
ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調, op.92
(アンコール)ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調, op.92〜第2楽章

●演奏
マルク・ミンコフスキ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)



Review by 管理人hs  

マルク・ミンコフスキ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)によるベートーヴェン全交響曲チクルスの4回目が石川県立音楽堂で行われたので聞いてきました。演奏されたのは,第4番と第7番。個人的には1980年代,カルロス・クライバーがバイエル国立管弦楽団との来日公演でこの組み合わせの公演を行い,FMで生放送された時のことを思い出します。飯尾洋一さんがプログラムの解説に書かれていたとおり,楽章の構成やリズムへのこだわりという点で共通性のある,魅力的なカップリングと言えます。



OEKの編成は,チクルス過去3回同様,弦楽器の各パートについて1,2名程度編成を増強していました。コントラバスがステージ奥の中央に並んでいたのも同様でした。



前半に演奏された第4番では,この効果が序奏部から発揮されていました。神妙だけれどもゆとりのある弦の響きで始まった後,音楽がぐっと盛り上ってくる迫力が印象的でした。ちょっとしたピチカートの音にも強さがあり,ドラマを感じさせてくれました。

主部に入る部分は大仰な感じになる演奏も多いのですが,ミンコフスキさんの指揮ぶりは自然で,もったいぶったところがありませんでした。その後は,リズムとアクセントが生きた推進力のある音楽が続きました。呈示部の繰り返しは行っていませんでした。展開部では神妙さもありましたが。深刻ぶることはなく,一貫して推進力のある楽章になっていました。

第2楽章では,ヴィオラなどがしっかりと刻むリズムとその上でしっとりと流れる第1ヴァイオリンの歌との対比が印象的でした。木管楽器でも遠藤さんのクラリネットのデリケートな音が見事でした。

第3楽章は比較的さらっとした感じで,力みのない脱力した音楽が続きました。第4楽章は,予想通りの急速なテンポ。ここでも弾むリズムの上に生き生きとした音楽が流れていました。前半の楽章では,管楽器のミスがちらほらと目立ったのですが,この楽章の見せ場である,ファゴットの高速のパッセージは,くっきり・鮮やか!演奏後,金田さんはミンコフスキさんからまず最初に立たされていました。

この生き生きとした無窮動的な動きは延々と続き,次第に力感を増していきました。コーダの部分では低弦の迫力のある動きの後,しっかりと間を取り,切れよく鮮やかに締めてくれました。


開演前には前回同様,ミンコフスキさんのビデオメッセージが流されました。

後半の第7番の方は,第1楽章序奏部から,予想以上に雄大な雰囲気がありましたが,木管楽器がしっかりと独特のリズムで弾んでいるのも印象的でした。ターラッラ,ラーラッラという感じ...と書いてもなかなか伝わりませんが,各楽器が順番に引き継いでいくうちに,迫力が増していく,といった感じでした。この辺がミンコフスキさんらしいところだと思います。

主部に移行する部分での全体を先導するような松木さんの雄弁なフルートも聞きものでした。この楽章では呈示部の繰り返しを行っていましたが(第4番の1楽章は繰り返しなし。この「読めない」感じもミンコフスキさんらしさでしょうか),2回目では音楽の盛り上がりが更に一段アップするようなところもミンコフスキさんの特徴ですね。一気にテンションが上がり,しっかり目が覚めたようなお祭り気分になっていました。

展開部以降,ミンコフスキさんは大きく手を広げたりして,さらに起伏に富んだ音楽になっていました。コーダではコントラバスのオスティナートをベースに凄みのある音楽になっていました。,

第2楽章は一転して透明感溢れる音楽。弦楽器の各パートの絡み合いがとても美しかったですね。ここでも弦楽器の中低音の深い音に雄弁さを感じました。迫り来る悲しみといった感じで,音楽が熱くなってくるとヴィブラートをしっかりと効かせて演奏するなど,変幻自在な演奏でした。楽章途中で弦楽器の内声部がしっかりと聞こえてくる感じも良いなぁと思いました。前回の「田園」の時もそうでしたが,いつもは聞こえてこない音が浮き上がってくるような面白さがあるのもミンコフスキさんらしさだと思います。楽章の最後の部分では,ヴィオラのピチカートの音が印象的に響いていました。最後の音はたっぷりと長く伸ばしており,深い余韻を感じました。

第3楽章は速く軽快な音楽。基本的にストレートに進む音楽でしたが,途中「ターララ,ターララ」というフレーズを独特のねっとりした感じで執拗に聞かせ,段々音楽が巨大化していく感じがすごいと思いました。

第4楽章は急速なテンポ。「ワンツー,ワンツー」とリズムを効かせて,前に進んでいくロックな感じが続きました。この楽章も繰り返しを行っていましたが,その度に表情を変えていあした。楽章後半はさらにパワーアップ。この曲ではホルン3本で演奏していましたが,随所でテンションの高い音を聞かせて盛り上げてくれました。コーダではコントラバスを中心にオスティナートをじっくりと効かせた後,速いテンポが一段さらにアップ。気合のこもった力強さで全曲を締めてくれました。ものすごく急速なテンポでありながら,荒れ狂った感じにはならず,どこか清々しい風が吹き抜けたような,「爽快な熱狂」といった印象の残る演奏でした。5番の時同様,OEKメンバーにも「やり切った」感があったのではないかと思います。

そしてアンコールがありました。演奏されたのは7番の第2楽章。これは,「この曲の初演時にも,この楽章がアンコールされました」たというエピソードを再現してみましたという趣向。ミンコフスキさんも一度やってみたかったのだと思います。

というわけで,今回もまた,色々と新しい発見をさせてくれるようなベートーヴェンを楽しませてくれましたが,今回は,ステージマナーの方でも色々と変わったことをしていました。次のような感じです。

  • ミンコフスキさんが指揮台に登場する時,下手側の弦楽器メンバーがさっと左右に広がって通り道を開け,ミンコフスキさんは両手を広げて悠々と登場。
  • 曲の後,ミンコフスキさんは袖まで引っ込まず,指揮台の横に置いてあった椅子(ピアノ用の椅子?に座って一休み。出入りするのも大変なので,これは結構合理的かもしれません。奏者と一緒に立ったり座ったりする指揮者というのも面白いですね。
  • 7番の後は,メンバーを送り出した後,ミンコフスキさんが退出していたので,自然にミンコフスキさん一人だけが呼び出される形に

というわけで,相変わらず色々面白いことを考えるなぁと思いながら見ていたのですが...この一連のマナーは,「コロナ対策」によるものだったようです。そういえば,指揮台付近の客席最前列にはカバーがされており,ミンコフスキさんとの「ディスタンス」がしっかりと取られていました。


というわけで,今回の公演の実現に向けても色々なご苦労があったことを改めて感じました。このチクルスも残すは第9だけ。今回の4番7番の演奏を聞いて,地元合唱団を交えての「お祭り」のような公演になることを期待してしまいました。

(2021/10/30)