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2021ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭:大編成で贈るOEKと県民オーケストラの共演スペシャルコンサート
2021年11月3日(水・祝)15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ドヴォルザーク/チェロ協奏曲ロ短調, op.104
2) ストラヴィンスキー/バレエ音楽「火の鳥」(1910年版)全曲

●演奏
垣内悠希指揮オーケストラ・アンサンブル金沢,石川県民オーケストラ(コンサートマスター:水谷晃)
遠藤真理(チェロ*1)



Review by 管理人hs  

文化の日の午後,2021ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭の一環で,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と石川県内のアマチュアオーケストラの有志からなる県民オーケストラとの合同公演が行われました。OEKと県内の大学オーケストラとの共演はすっかり恒例になっていますが,社会人を中心としたアマチュア・オーケストラとの共演は,石川県立音楽堂が開館した20年前以来のことになります。

その時は,OEKからの参加メンバーはもっと少なかったのですが,今回は半数以上のメンバーが参加していましたので,正真正銘の合同公演といえます。20年前は,岩城宏之さん指揮で,ホルストの「惑星」などを演奏。今回は垣内悠希さん指揮で(予定されていた原田慶太楼さんから変更になりました),ストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」(1910年版)全曲と遠藤真理さんをソリストに迎えてのドヴォルザークのチェロ協奏曲が演奏されました。

今回まず驚いたのは,オーケストラの人数です。20年前の「惑星」の時も多かったのですが,本日も特に「火の鳥」の時はステージ上はぎっしり埋まり,さらにはバンダ(別動隊)もオルガンステージに出ていました。「火の鳥」については,これまで実演では,組曲版(1919年版,2菅編成)しか聞いたことはなかったのですが,なるほどと思いました。これだけ大人数(4管編成,ハープ3台,打楽器打数)だと,滅多に演奏できない曲だなあと思いました。



前半は,遠藤真理さんをソリストに迎えて,ドヴォルザークのチェロ協奏曲が演奏されました。この曲は過去,OEK単独でも何回か取り上げてきましたが,こちらもオーケストラの編成は大編成でしたので,冒頭から余裕のある響きを楽しむことができました。


この写真のとおり指揮台もチェロも結構ステージの縁ギリギリ。遠藤さんは結構演奏しにくかったかも?

遠藤さんとOEKは,C録音が一枚ありますが,実演で共演するのは久しぶりのことだと思います。大編成オーケストラとの共演ということで,全体的にのびのびと歌うようなスケールの大きさを感じました。遠藤さんの音には,オーケストラの中からスッと浮き上がってくるような輝かしさがあり,堂々たる主役といった充実感がありました。密度の高く,思いがしっかりこもった歌が素晴らしいと思いました。第1楽章第2主題など「ドヴォルザーク節」といった美しいメロディも,テンポを少し落として,味わい深くしっかりと聞かせてくれました。

管楽器は県民オーケストラのメンバーの方が第1奏者を担当していました。ソリストのように活躍していたフルート,郷愁を感じさせる音を聞かせてくれたホルンなど,存分に楽しませてくれました。楽章最後の部分では,トランペットの気持ちの良い音を中心に,すばらしい力感と輝きのある盛り上がりを聞かせてくれました。

第2楽章では,遠藤さんのチェロとクラリネットなどの管楽器の対話が聴きどころでした。遠藤さんのチェロはここでも表情豊かで,「思い」がしっかりと乗った充実した音を楽しませてくれました。楽章の最後の方のしみじみとした,祈りの気分のある雰囲気も素晴らしいと思いました。

第3楽章は力強い行進曲風にスタート。垣内さん指揮による,まとまりのあるオーケストラサウンドをしっかりと聞かせてくれました。遠藤さんもそれに呼応するようにしなやかで力強い音を聞かせてくれました。中盤以降は表情が急に優しい表情になります。そして,独奏チェロとコンサートマスターによる重奏の部分に入って行きます。この辺の推移が,個人的にとても好きで,「聴きどころ」だと思っている部分です。この日のコンサートマスターは,OEKの客員コンサートマスターの水谷晃さん。その艶やかな音が,遠藤さんのチェロと溶け合い,音楽の精彩がさらにアップしていました。この渡り合いの後は,名残惜しさを感じさせる部分になります。思いが溢れるように遠藤さんがしみじみとした音を聞かせた後,最後はオーケストラの総奏で爽快に音を鳴らしきって締めてくれました。



後半は,前述のとおりの大編成による「火の鳥」の全曲。特に目を引いたのはやはりハープ3台でした。ハープ2台ならば,幻想交響曲などがありますが,3台入る曲を実演で聞くのは初めてかもしれません。

そしてこのバレエ音楽版「火の鳥」。作品そのものが素晴らしいと思いました。組曲版は「かっちりとまとまった管弦楽作品」としての,聴きごたえがありますが,バレエ音楽版は,組曲版でおなじみの曲の間を次から次へと手を品を変え,多彩な響きでつなぐような豪華さがありました。王子が現れ,火の鳥が現れ,王女が現れ,魔王が現れ...という感じで,ストーリー展開もしっかりと感じられました。大団円に向かって,実に壮大な音楽を楽しむことができました。

まず導入部で一気に引き込まれました。大太鼓と低弦楽器の組み合わせによる,「空気の振動」を持ったような音は,やはり実演でないと伝わらないのではないかと思います。そこに管楽器が加わっていきます。原色的な鮮やかさがあるけれども,どこか混沌とした感じ,があるのが魅力でした。さらに弦楽器のハーモニクスによるゾクゾクする動きやチェレスタによる音のきらめき...次々と独創的な音が続きました。

その後,火の鳥による踊りの部分になったり,火の鳥が嘆く部分になったり,さらに多彩な音楽が続きます。火の鳥の嘆きの部分では,OEKのヴィオラのダニイル・グリシンさんの厚い音が相変わらず素晴らしいなぁと思いました。

そして,この曲でも,合同オーケストラの演奏が見事でした。大変な難曲なのでOEKメンバーが中心になって演奏するのかな,と予想していたのですが,管楽器の方はアマチュアオーケストラが中心でした。フルート,オーボエ,ファゴットなどのソロは,どの部分も安心して楽しむことができました。きっとOEKメンバーの適切な指導もあったのだと思います。特にオーボエの方の演奏は素晴らしかったと思いました。スケルツォ風の部分とか,王女たちのロンドなど,出番が多かったのですが,オーケストラ全体の音とマッチした,非常に自然な音を聞かせてくれました。

曲の後半からは,音楽の起伏がさらに大きくなります。特に大きく盛り上げていたのは,ずらっと並んだトランペットを中心とした金管楽器と,これまた大勢並んでいた打楽器群だったと思います。途中,魔王の一味が乱入してくる部分でのわさわさした不穏な響き,要所要所での,OEKの渡邉さんの大太鼓とティンパニとが一体となって炸裂していた腹に響く音。CDで聞いているとそこまで引き込まれないのですが,実演だと,オペラか何かを観ているような「来るぞ,来るぞ」といったワクワク感がありました(音楽の感じとしては,結構,ドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」あたりに通じるような響きもあると思いました)。



バンダの皆さんは,途中からパイプオルガンの前のステージに登場。トランペット3,ユーフォニアム2,テューバ2が加わり,音楽の流れの中に時折,違和感のある響きを投入している感じでした(上の写真は,開演前に流れていたリハーサル時のスライドショーです。ちょうどバンダの人たちが写っています。)。

いちばん有名な「カスチェイ一党の凶悪な踊り」では,ワクワクさせるリズム感,スピード感にダイナミックさが加わり,聴きごたえ十分でした。組曲版ではトロンボーンによるグリッサンド加えられ,それが結構が目立つので,ちょっとあっさりした感じもありましたが,バレエ音楽の中の一部として見ると,物足りなさは感じませんでした。

続く「子守歌」の部分も有名ですね。ファゴット独奏が誠実さと同時に妖艶さのある音を聞かせた後は,カスチェイが目覚め,倒され,大団円へ。OEKの金星さんによる,ヒロイックな雄大さを感じさせるホルンに導かれて,大きな盛り上がりへとつながっていました。今回は,バンダの金管楽器も加わっていたので,空間的にも大きく広がったような感覚になりました。全曲を通じて,垣内さんの作る音楽は,実に雄弁で,爽快でした。特にこの大団円の部分でのビシッと決まった爽快さが忘れられません。

CDで全曲版を聞くと,「少し長いかな」と思うことがあるのですが,実演だと,まったく退屈する暇がないと感じました。

というわけで,休憩時間を入れて約2時間,大編成オーケストラの魅力にしっかりと浸ることができました。ステージいっぱいの出演者を観ながら,「みんなで演奏,大勢で演奏」というのは演奏する方,聴く方,どちらにとっても最高のしあわせかもと思いました。毎年,合同演奏を行うのは難しいとは思いますが,是非また次の機会に期待しています。

PS.実はこの日,開演時間を1時間間違えてしまいました(14:00開始ではなく,15:00開始でした)。というわけで久しぶりに,金沢駅〜百番街をうろうろとしました。

音楽堂の壁面ですが,ミンコフスキさんに加え,今度,邦楽監督になった野村萬斎さんの顔写真が出現していました。





冬の金沢の観光ガイド。カニだらけですね。


金沢駅の入口付近にあった,実物大パネル。


(2021/11/07)