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ミシェル・ブヴァール オルガン・リサイタル:フランス・オルガン音楽の魅惑
2021年11月9日(火)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

第1部 16〜18世紀
1) ジェルヴェーズ編纂/フランス・ルネサンスの「舞曲集(ダンスリー)」(シャンパーニュ地方のブランル,ブルゴーニュ地方のブランル,アルマンド,ブランル・サンプル)
2) デュ・コーロワ(1549-1609)(イゾワール編)/「若い娘」による5つのファンタジー(3声-3声-4声-4声-5声による)
3) デュ・モン(1610-1684)/2つの三声によるプレリュード(三手連弾)
4) クープラン,L.(1626-1661)/ファンタジー第26番,第59番
5) シャルパンティエ(1643-1704)(ブヴァール,M.編曲)/「テ・デウム」への前奏曲(三手連弾)
6) クープラン,F.(1668-1773)/「教区のためのミサ曲」〜ベネディクトゥス「テノール声部のクロモルヌ」
7) クープラン,F.(1668-1773)/「修道院のためのミサ曲」〜「グラン・ジュによる奉献唱」
8) ド・グリニー(1671-1703)/「オルガン・ミサ曲」〜グローリア(テノール声部のティ
9) エルスによるレシ,トランペットまたはクロモルヌ管んためのバス,5声のフーガ)
10) ダカン(1694-1772)/ノエル第6番

第2部 19〜20世紀初頭
11) フランク(1822-1890)/コラール第1番ホ長調
12) ヴィエルヌ(1870-1937)/ウェストミンスターの鐘
13) ブヴァール,J.(1905-1996)/バスク地方のノエルによる変奏曲
14) デュプレ,M.(1886-1971)/行列と連祷
15) アラン,J.(1911-1940)/連祷
16) デュリュフレ,M.(1902-1986)/アランの名による前奏曲とフーガ
17) (アンコール)ブヴァール,J./プロヴァンスのノエルによる変奏曲
18) (アンコール)トゥルヌミール/「復活のいけにえ」によるコラール即興曲

●演奏
ミシェル・ブヴァール,宇山=ブヴァール康子*3,5(オルガン)



Review by 管理人hs  

ヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂首席オルガニストである,ミシェル・ブヴァールさんのオルガン・リサイタルが石川県立音楽堂で行われました。演奏されたのは,フランスのオルガン作品ばかり。時間を気にせずにずっと聞いていたのですが,終演時間(アンコール2曲を含め)を見てびっくり。21:15頃まで2時間以上に渡り,フランスのオルガン音楽のエッセンスに浸ってきました。



前半は16世紀から18世紀の音楽で,素朴で明快な音楽をゆったりと楽しませてくれました。作曲者名さえ知らない曲が続きましたが,音色の変化がとても面白く,色彩感豊かな心地よい世界を堪能しました。ほぼ作曲者の生年順に曲は配列されていたようです。

最初の曲は16世紀当時の流行曲を集めた「ダンスリー(舞曲集)」。明快な大らかさが感じられました。次の「若い娘」による5つのファンタジーも当時の流行歌に基づく作品。これはプログラムを通じて同様だったのですが,素朴さと当時に,多彩な音の変化を楽しめました。

デュ・モンの作品は,太陽王ルイ14世の時代の作品。3声の作品ということで,この日,通訳や譜めくりなどアシスタントを担当されていた,宇山=ブヴァール康子さん(奥様でしょうか)が演奏に参加していました。オルガンを連弾する姿を見ながら,曲自体から親密さを感じました。

ルイ・クープランは有名なフランソワ・クープランの叔父です。ファンタジー2曲のうち1曲目は,どこか怖い雰囲気の音色。2曲目はトランペットのよう。これはブヴァールさんの演奏の特色かもしれませんが,明るい豪快さを感じさせる演奏でした。

シャルパンティエの前奏曲は,前半の中では唯一聞いたことのある作品でした。通常はトランペットが中心になって演奏されるファンファーレですが,今回は,これをブヴァールさんが3手連弾用に編曲したものが演奏されました。欧州のクラシック音楽のライブ放送時の「テーマ曲」のような感じでお馴染みです。そのトランペットの雰囲気そのままの晴れやかさがあり,リラックスした気分が伝わってきました。

フランソワ・クープランの作品は2曲演奏されました。1曲目の「クロモルヌ」では,ちょっとくぐもった感じの憂いのある空気がとても詩的でした。時空を越えて音楽の魅力が伝わってきました。ちなみにクロモルヌというのは,当時流行していた管楽器の一種で,この時代のオルガンには必ず含まれていたリード管ストップとのことです。2曲目の「グラン・ジュ」の方は,豪快な音で掛け合いをするようなスケール感豊かな作品でした。ブヴァールさんの演奏は,豪快さのある演奏ばかりでしたが,うるさい感じにはならず,爽快感が残るのが良いと思いました。

ド・グリーニーのグローリアは3つの部分からなる作品で,各部分ごとに違った音色と気分を楽しむことができ,聴きごたえがありました。2曲目のバス声部はヴィオラ・ダ・ガンバを模したものとプログラム解説に書かれていました。なるほどという感じでした。素朴で力強く,確かに弦楽器を思わせる響きでした。

前半最後はダカンのノエル(クリスマス民謡)でした。この日は後半でもノエルが演奏されたのですが,そろそろ年末が近いことを意識されていたのでしょうか。軽快なリズムを聞いていると浮き浮きとした気分になります。繰り返しやエコーが多く,音量の変化もくっきりと付けていましたので,いつまでも聴いていられるなぁ...といった趣きがありました。

後半は,19世紀から20世紀前半の音楽が演奏されました。こちらの方もほぼ年代順でしたが,各曲間・各作曲者間のつながりも考慮されていました。

後半最初に演奏されたフランクのコラール第1番は,この日演奏された曲の中でいちばん長い曲(多分。15分ぐらい)で,その厚みのある暖かみが大変魅力的でした。ワーグナーのオペラ(「タンホイザー」の巡礼の合唱的な気分)を思わせるような,濃厚で少し甘美な世界は,石川県立音楽堂のパイプオルガンにぴったりだと思いました。途中でくっきりとした音が出てくる部分がありましたが,この部分での「厚い音」にもしびれました。曲の終わりに向けて,どんどん深く壮大な世界に入っていくのは,「聴いていて癖になりそう」と思いました(フランクオルガン作品特集に期待しています。)。

その後演奏された曲は,フランクの弟子のヴィエルヌ(日本の学校でもおなじみのウェストミンスターのチャイムのメロディによる描写的な作品),ヴィエルヌの弟子のJ.ブヴァールと系図をたどるような配列でした。ちなみに,J.ブヴァールという人はミシェル・ブヴァールさんのおじいさんです。言ってみれば「フランク直系の演奏」ということで,フランクの演奏が素晴らしかったのも納得という感じでした。

J.ブヴァールの「ノエルによる変奏曲」には,繊細な透明感と神秘的な美しさがあり,きらっと光るような魅力を感じました。

プログラムの最後のコーナーは,「連祷(リタニー)」つながりの3作品でした。デュプレの「行列と連祷」は,同一モチーフを繰り返すうちに音楽の輝きが次第に増していくような魅力的な作品。続いて,このデュプレの曲をモチーフとしたJ.アランの「連祷」。最後は,J.アランを追悼してデュリュフレが作曲した「アランの名による前奏曲とフーガ」。「連祷の連続」というアイデアがとても面白いと思いました。

アランの作品は以前にも一度聞いたことがあります。ちょっとポップスを思わせるような,ハッとさせる新鮮さのある音楽で,若くして亡くなった才能をデュリュフレが悼む気持ちが分かるような作品であり,演奏でした。曲の最後の和音の斬新さが印象的でした。

デュルフレの作品は,「アラン」の名前を示すテーマを呈示した後,速いパッセージが神秘的に続くような作品。最後に力強く澄んだ音で「フランス・オルガンの歴史」を締めくくってくれました。

アンコールでは,ブヴァール,J.によるプロヴァンスのノエルによる変奏曲とトゥルヌミールという作曲家による小品(即興演奏?)が演奏されました。

ブヴァールさんの演奏は,多彩な音色に加え,音量の変化もかなりくっきりと付けていました。各曲とも最後の音を堂々と長く伸ばし,どの曲も自信にあふれていました。フランスのオルガン音楽の王道の歴史を楽しんだ2時間でした。

(2021/11/14)