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クリスマス・メサイア公演
2021年12月12日(日)15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

ヘンデル/オラトリオ「メサイア」HWV. 56(抜粋;1-6,9-14,16-18,21-23,27-32,38-39,43-45,47-48,52-53曲)
(アンコール)きよしこの夜
(アンコール)賛美歌

●演奏
松井慶太指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松浦奈々)
韓錦玉(ソプラノ),小泉詠子(メゾ・ソプラノ),鈴木准(テノール),青山貴(バリトン),春日朋子(オルガン),合唱:北陸聖歌合唱団



Review by 管理人hs  

年末恒例の,北陸聖歌合唱団とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)による「クリマス・メサイア公演」を石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。昨年は,コロナ禍の影響で「合唱なしのメサイア」という異例の公演でしたので,合唱入りは2年ぶり。半世紀以上,メサイアを歌い続けている北陸聖歌合唱団の皆さんにとっても,感慨深い公演になったのではないかと思います。



今回は,第1部を中心としたハイライト公演で,指揮は松井慶太さんでした。松井さんのテンポは,序曲からやや遅めの設定で,特に合唱曲については,しみじみとした「思い」がしっかりと伝わってきました。合唱団の皆さんは,全員マスク(通常のマスクではなく,合唱用マスクといった感じのものかもしれません。顔の下半分を覆う感じのマスクでした)着用での歌唱ということで,少し籠った発声に聞こえましたが,その分,柔らかさがあり,感動を内に秘めたような奥深さを感じました。

# その他,合唱団のスペースの前にアクリル板がずらっと並んでいました。今回,4人のソリストは自分の出番の時だけ,合唱団の前にある座席からステージ前方中央まで歩いて出てきていましたが,これもコロナ対策の一種だったのかもしれません。

OEKは,合唱曲の時はフル編成で,独唱曲の時は首席奏者中心による小編成での演奏でした。小編成の演奏の時は,弦楽器はノン・ヴィブラートで演奏しており,いつもにも増して,すっきりとした清涼感が伝わってきました。序曲の後半のフーガ風の部分なども,大変くっきりとした感じがありました。

今回特に素晴らしかったのは,独唱者の皆さんでした。最初に登場したテノールの鈴木准さんは,個人的に松本隆詞によるシューベルトの三大歌曲集で注目していた方です。その軽やかで品の良い声質と折り目正しい歌唱は,バロック音楽の宗教音楽にもぴったりでした。全曲を通じて,リリカルで芯の強さのある歌唱を存分に楽しませてくれました。

そしてバリトンの青山貴さんの歌唱にも圧倒されました。青山さんといえば,最近はびわこホールでのワーグナー作品でお馴染みですが,第1部前半の5番の叙唱から,その本領を発揮。"Sha〜〜ke"といった感じで単語を長く伸ばすのが印象的な曲ですが,まさに大地が揺れるような声で,威厳のある豊かで美しい声をホール中に響かせてくれました。

第1部の後半は,イエス生誕のクリスマスの場です。11番のバリトンのアリアでは,青山さんの深く沈み込むような声で,イエスが生まれる直前の「暗闇の中」といった気分を伝えた後,12番の合唱曲で晴れやかな気分をゆったりと伝えてくれました。色々な声部から声が飛び込んでくるのがとても心地良く感じました。

13番の田園交響曲も低音をしっかりと効かせた,ゆったりとした表現。そのまま通奏低音が残って,ソプラノのアリアに推移していく辺りの美しさが素晴らしいと思いました。こういう部分を聴いていると「今年も12月。クリスマスも近いなぁ」という気分になります。

ソプラノは,金沢でもお馴染みの韓錦玉さんでした。いつもながら,静かで慈愛に満ちた優しさのある歌を聴かせてくれました。17番の「Glory to God」の合唱曲でトランペット2名がオルガンステージに出てくるのも恒例。「クリスマス・メサイア公演」には欠かせない1曲をじっくりと味わいました。

第1部が終わった後,休憩が入りました(毎回思うのですが,プログラムにどこで「休憩」が入るのか明記されている方が良いと思います。拍手を入れて良い?悪い?という感じになります)。

第2部最初のほの暗く重い合唱曲に続いて,23番のメゾ・ソプラノのアリアになります。この曲も欠かせない大曲ですね。今年は,今年度の岩城宏之音楽賞を受賞した小泉詠子さんが,落ち着きと品のある声でじっくりと聴かせてくれました。OEKの弦楽奏者のノンヴィブラートの虚無的な響きとあいまって,深く染み渡る声を聴かせてくれました。途中,そこまでの静かな雰囲気から一転して,厳しい表情に変わるのですが,この部分での言葉を吐き捨てるような強い表現が大変印象的でした。

第2部は毎年省略される曲が多いのですが,今年はテノールのアリアが続きました。鈴木さんの凜としたキレの良い声が続き,少しずつ明るさが見えてきた後,第2部最後の「ハレルヤ・コーラス」になります。

メリハリの効いた率直な表現で,2年ぶりにこの曲を合唱で歌える喜びがストレートに伝わってきました。この曲に入る直前,松井さんが客席の方を向いて「皆さん,立ち上がりませんか?(少し間)」といった表情を見せました。その効果があってか,今年はとても大勢のお客さんが起立していました。私の座席の回りの人たちもみ続々立ち上がったので,例年は,気恥ずかしくて着席したまま聞いていた私も今年は立ち上がってみました。その結果ですが...立ち上がった方が音がよく聞こえることが分かりました。単純に気持ちよいなぁと思いました。

盛大な拍手の後,第3部へ。ソプラノの韓さんによる,子守歌のような優しさのある45番のアリアの後,47〜48番のバリトンのアリアになりました。ここでも青山さんのシビれるような歌を存分に楽しむことができました。単純に声が大きいというよりは,曲のクライマックスで,音の迫力がぐっと盛り上がってくるようなスケールの大きさを感じさせてくれました。そして,オブリガードの藤井さんのトランペットには,輝かしさと同時に,浮つくことのない落ち着きがありました。「じっくり味わうメサイア」にぴったりの雰囲気がありました。

最後のアーメン・コーラスもじっくりとしたテンポで演奏されました。派手に歌い上げるよりは,感動をしみじみと噛みしめるようでした。その中から次第に壮麗な気分が盛り上がっていく感じが感動的でした。

そして,恒例のアンコールが2曲演奏されました。日本語歌唱による「きよしこの夜」は比較的速めのテンポ。それに続く賛美歌でお開きとなりました。私の座席の近くに座っていた人たちから「懐かしい曲やねぇ」という会話が聞こえてきました。この賛美歌は北陸学院出身の皆さんには定番の音楽のようです。

まだまだコロナ禍の影響が続いている毎日ですが,この日の演奏を聴いて,今年もようやく年末気分が実感できた気がします。来年こそ,新しい再スタートを切れる年になって欲しいものです。

 

(2021/12/17)













演奏前には,春日朋子さんによるオルガンによるウェルカム演奏がありました(私がホールに付いた時には既に半分以上終わっていました。