OEKfan > 演奏会レビュー


オーケストラ・アンサンブル金沢第449回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
ニューイヤーコンサート2022
2022年1月8日(土) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲
2) モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」〜「とうとう嬉しい時がきた」「恋人よ早くここへ」
3) ドヴォルザーク/歌劇「ルサルカ」〜「月に寄せる歌」
4) 沼尻竜典/歌劇「竹取物語」セレクション(第5景から「月の間奏曲」「姫の告白」「走るおじいさんの間奏曲」「告別のアリア」「帝へ捧げるアリア」)
5) シューマン/交響曲第3番変ホ長調, op.97「ライン」

●演奏
沼尻竜典指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:水谷晃),砂川涼子(ソプラノ)



Review by 管理人hs  

私とっての2022年初コンサート,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のニューイヤー・コンサートを石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。今年の指揮は沼尻竜典さんで,前半はソプラノの砂川涼子さんの歌を交えた,沼尻さん自身の作曲による歌劇「竹取物語」セレクションを中心としたプログラム。後半は,シューマンの交響曲第3番「ライン」が演奏されました。沼尻さんの熟練の指揮による大らかな響き,とても耳馴染みの良いオペラ,正統的な美しさをもった砂川さんの声...色々な楽しみどころのある公演となりました。



前半は,この「竹取物語」をベースとしたプログラムでした。キーワードは「月」。そのつながりで,ドヴォルザークの歌劇「ルサルカ」の「月に寄せる歌」が歌われました。さらにその前にモーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」第4幕,暗闇の中で歌われるスザンナのアリア「とうとう嬉しい時がきた〜恋人よ,早くこへ」も歌われました。夜の静けさの中で歌われる感じが共通しており(多分,月も出てたのかもと勝手に想像),とても取り合わせの良い選曲でした。

演奏会は,この「フィガロの結婚」の序曲で始まりました。OEKが何回も何回も演奏している曲ですが,沼尻さんの指揮は大らかでありながら,細かいニュアンスの変化が豊かで,「さすがオペラに熟練した沼尻さん」と思いました。曲の最初の方で音楽がバーンと爆発する部分がありますが,この辺りは結構ラフな雰囲気で,お祭り騒ぎ的な気分を伝える指揮の動作が曲の気分にぴったりだと思いました。中間部での優しさ溢れる歌わせ方などニュアンスの変化も楽しめました。

続いて,砂川涼子さんが登場。私自身,砂川さんの歌を石川県立音楽堂コンサートホールで聴くのは初めてだと思いますが(確か,富山市で一度聴いたことはあります),まず,そのクリアでバランスの良い声が素晴らしいと思いました。衣装は,月明かりの下で輝いているような白いドレス。この雰囲気と相俟って,ステージは優雅でロマンティックな空気に変わっていました。スザンナのアリアは,結婚したばかりの新妻の歌なのですが,そのしっとりとした艶っぽい気分にすっかり魅了されてしまいました。OEKの木管楽器の音もその気分にしっかりと寄り添っていました。



続く「月に寄せる歌」では,序奏部でのハープのロマンティックな気分,それに続く,どこか霞がかかったような部分をはじめ,まず,ドヴォルザークの音楽が魅力的でした。砂川さんの声とOEKの演奏が一体となって,感動的な雰囲気を作っていました。ポップスで言うところの,サビのメロディでのじわっと盛り上がる気分も印象的でした。静かな月夜だけれども,心は熱いといった歌でした。

前半の最後では,「竹取物語」から5曲が演奏されました。その前に沼尻さんによる大変分かりやすい解説があったのですが,それによると「オペラに昭和歌謡のテイストを入れてみた」とのことでした。ただし,今回の抜粋ではそういう雰囲気はあまりなく,どちらかというとプッチーニとミュージカルの間のような,しっかりと情感に訴えてくるような親しみやすい雰囲気を感じました。「姫の告白」で,銅鑼の音が入ったりすると,「ちょっとトゥーランドットの気分かも」と思ったりしました。

最後の「告別のアリア」と「帝へ捧げるアリア」は,多分,このオペラを最初から全部観たら「涙が止まらないかも」と思わせる,熱い思いの溢れる曲でした。「告別のアリア」の方は,メロディがとても分かりやすい愛唱歌風でした。そのシンプルさが情感にストレートに訴えてくる感じでした。「帝へ捧げるアリア」は,このオペラの核となるアリアなのだと思います。砂川さんの歌には,姫に相応しい凜とした美しさがありました。最後の部分では大きく歌い上げており,大変立派なプリマドンナの歌唱だと思いました。

沼尻さんが「ドリフターズのテイストを入れた」と紹介していた「走るおじいさんの間奏曲」は,ちょっと聴いた感じドリフ感はなく(もしかしたら視覚面がないと分かりにくいのかもしれません),どちらかというとスマートで粋な感じの曲だと思いました。

最初の「月の間奏曲」は,とても素直な感じのワルツ(沼尻さんは「シューベルトの即興曲風」と紹介していました)で,これもまたストレートに耳に入ってくる曲でした。

今回の5曲を聴いただけでも,改めて,沼尻さんの多才さを感じさせてくれまでした。このオペラは今月,びわ湖ホールで上演されるそうですが,機会があれば金沢でも全曲を取り上げて欲しいものです。初演に際しては,石川県立音楽堂洋楽監督でもある池辺晋一郎さんも関わっていたとのことなので,大いに期待しています。

後半のシューマンの「ライン」は,トロンボーン3本,ホルン4本が入る曲ということで,OEKの定期公演で演奏される機会はあまり多くない作品ですが,室内オーケストラ編成だとあまり重苦しい雰囲気にはならないので,この曲の持つ開放的な気分には合っているのではと思いました。

沼尻さんの指揮ぶりは,全曲を通じてあわてることはなく,第1楽章冒頭から大らかな流れを感じさせてくれました。とても気持ち良くラインの旅をしている感じが良かったのですが,音楽の雰囲気としては,ちょっと緩い感じだったかもしれません。

第2楽章は,「きわめて中庸に」という,結構変わった感じの指示の入ったスケルツォ。ここでも,ゆったりと波に揺られているような気分がとても心地良かったですね。中間部での,遠くから聞こえてくるようなホルンの音が良いなぁと思いました。

第3楽章では,弦楽器と木管楽器による静かな対話が楽しめました。弦楽器の優しい響きを木管楽器が美しく彩っているようで,OEKならではの親密な気分がありました。

第4楽章は満を持してトロンボーン3本が登場。ケルン大聖堂での式典のイメージを持った楽章です。同じモチーフが色々な楽器で演奏され,音がホール内を飛び交うような立体感が素晴らしかったですね。ただし崇高で近寄りがたいというよりは,お互いに言葉を掛け合うような暖かみがあったのは沼尻さんらしさなのかなと思いました。

第5楽章は十分な躍動感があると同時に,とてもがっしりとした,地に足の着いた音楽になっていました。音楽全体に奥ゆかしさと奥行きがあり,スケールの大きさを感じました。楽章最後は,もっと激しく盛り上げる演奏もありますが,今回の演奏は力強く堅固な雰囲気でビシッと締めてくれました。

沼尻さんとOEKは,約30年前のOEKの設立当初からつながりがありますが,今回の熟練の指揮ぶりを聴いて,音楽の立派さをそのまま伝えてくれる素晴らしい指揮者になられたなぁと改めて思いました。沼尻さんは,今年の楽都音楽祭にも登場されるので,そこでのドイツ・オーストリア系の作品の演奏にも期待したいと思います。

さて,どら焼きです。恒例の茶菓工房たろうさん提供による,OEKどら焼きのプレゼントが今年もありました。すっかりニューイヤーを彩る名物になりましたね。夕食後にしっかりと味わわせていただきました。ごちそうさまでした。









今回も会場でCDを購入し,直筆サイン入りカードをいただきました。



ANAホテルでは成人式。正月飾りも立派なものでした。




こちらはホテル日航金沢。前田利家の甲冑が飾られていました。


(2022/01/13)




門松と立看板






恒例のメンバー のサイン入りの新年のご挨拶