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ニコラ・プロカッチーニ オルガン・リサイタル:生誕200年のフランクを中心に
2022年2月19日(土)14:00~ 石川県立音楽堂コンサートホール

グリニー/オルガン曲集第1巻~パンジェ・リングァ(舌もて語らしめよ)
バッハ,J.S./さまざまな手法による18のコラール(ライプツィヒ・コラール集)~いと高きにある神にのみ栄光あれ, BWV.664
フランク/大オルガンのための6つの作品~前奏曲,フーガと変奏曲ロ短調, op.18
フランク/コラール第2番ロ短調
アラン/3つの舞曲
フランク/大オルガンのための6つの作品~パストラール(田園風)ホ長調, op.19
ヴィエルヌ/幻想的小品集第3巻, op.54~即興曲
メンデルスゾーン(ベスト編曲)/オラトリオ「聖パウロ」序曲
(アンコール)モーツァルト/アレグロ ヘ長調

●演奏
ニコラ・プロカッチーニ(オルガン)



Review by 管理人hs  

雪が残る土曜日の午後,ニコラ・プロカッチーニ オルガン・リサイタルを石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。プロカッチーニさんは,イタリア出身の若手オルガン奏者で,現在,札幌コンサートホールの専属オルガニストとして活躍されている方です。

プログラムは,今年生誕200年のフランクの作品3曲,アランの「3つの舞曲」,フランス古典期の作曲家グリニーの作品,ヴィエルヌの小品などフランスのオルガン曲を中心に,色々な時代のオルガン曲を楽しませてくれました。構成的には,昨年11月に聴いたミシェル・ブヴァールさんのリサイタルと似た部分もありましたが,バッハやメンデルスゾーンの曲も入っており,よりインターナショナルな選曲となっていました。



最初に時代的にいちばん古い(1699年の作品),グリニーの「パンジェ・リングァ(舌もて語らしめよ)」という作品が演奏されました,明るく澄んだ音を聴いて,しばし建物の外の雪を忘れることができました。3つの部分から成っていましたが,素朴な感じの「ハスキーな声」が出てきたり,人声でアリアを歌うような感じに聞こえたり,心地良く曲想の変化を楽しむことできました。

次の「いと高きにある神にのみ栄光あれ」という作品は,バッハが最晩年にまとめた「ライプツィヒ・コラール集」の中の1曲です。明快で親しみやすいトリオ・ソナタ的な作品(3声部が絡む感じ)で,プロカッチーニさんの演奏からは,暖かな色彩感を感じることができました。

その後は,この日の「主役」といっても良い,フランクの作品が2曲演奏されました。プロカッチーニさんの演奏は,とても誠実で,健康的な雰囲気があったのでフランクの音楽のムードにマッチしているなと思いました。

「前奏曲,フーガと変奏曲」は,何となくとっつきにくそうなタイトルですが,ちょっとメランコリックな気分が流れる,「ロマン派のオルガンだ!」という感じの作品でした。さりげなく表情が揺れ動く感じで,土曜日の午後に聴くのにぴったりという,落ち着いた魅力がありました。強弱の対比,中間部での重厚な気分など,音量・曲想ともに変化に富んでいました。最後の部分での装飾的な伴奏も美しかったですね。終結部で微かに明るくなって終わる,せつない感じも良いなぁと思いました。

前半最後に演奏された,コラール第2番はフランクの最晩年に書かれた,より重量感のある作品で,大変聴きごたえがありました。パッサカリア風の作品ということで,繰り返しながら変化していく感じも聴きどころでした。少しずつスケール感がアップしながら,熱気を帯びてくるようでした。その一方,「天上の音」という感じの透明感のある音が出てきたり,曲の終結部では静かな音が長~く伸ばされて終わるなど,ミステリアスな気分も感じられました。



後半は,ジャン・アランの「3つの舞曲」で始まりました。これがとても面白い作品でした。ジャズ~ポップスなどを思わせるリズムが出てくるなど,足鍵盤が大活躍。ミステリアスな気分,オリジナリティあふれる音色,「いつの時代の曲だろう?」という何が出てくるか分からないような曲想...プロカッチーニさんの生き生きとした刺激的な演奏にぴったりマッチしていました。アランというのは,往年の名オルガニスト,マリー=クレール・アランのお兄さんで,第2次大戦中に29歳で亡くなった作曲家です。過去,何回か石川県立音楽堂のオルガン・リサイタル・シリーズでもその曲が取り上げられてきました。どの曲も才気あふれる作品で,この曲を聴いて,若く亡くなったのが本当に惜しいと改めて思いました。

その後,再度フランク作品となり,「パストラール」が演奏されました。こちらはアラン曲の後で一息つく感じで,穏やかでのびやかな雰囲気で始まりました。中間部でのさざ波が起こるような感じの部分との対比も良いなと思いました。

続くヴィエルヌの「即興曲」は,「ショパンの即興曲やワルツをオルガンで演奏したら...」といったムードがありました。細かく色彩的に動く感じが華麗でした。このヴィエルヌという作曲家もフランスのオルガンの歴史には欠かせない作曲家のようですね。

演奏会の最後は,メンデルスゾーンのオラトリオ「聖パウロ」の序曲をオルガン用に編曲したもので締められました。バッハのマタイ受難曲を再演した,メンデルスゾーンらしくバッハへのオマージュのような敬虔な美しさがあり,曲の最後に向かって前向きに高揚していく感じが素晴らしいと思いました。オーケストラの音をオルガンで演奏するとこうなるのかという面白さがありました。この日の金沢は小雨が降っていましたが,音楽堂内には青空が広がっているような感じでした。

最後,アンコールとして,メンデルスゾーンの続きのような感じでモーツァルトのアレグロ ヘ長調が晴れやかに演奏されて演奏会は終了しました。

プロカッチーニさんは,札幌で活躍されている方ということで(1曲目の後,がんばって日本語でトークをされていました),今後もまた石川県立音楽堂のオルガンを演奏される可能性はありそうですね。これからの活躍に期待をしたいと思います。最後に余談でが,今年度次回のオルガン・リサイタルでは,是非フランクのコラールの3番を聞いてみたいものです。前回のブヴァールさんの時は1番を聞いたので,3番が揃えばこれでコンプリートになります。

(2022/02/26)