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オーケストラ・アンサンブル金沢第454回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
2022年04月22日(金) 19:00~石川県立音楽堂 コンサートホール

1) ミヨー/バレエ音楽「世界の創造」作品81a
2) イベール/アルト・サクソフォンと11の楽器のための室内小協奏曲
3) 藤倉大/Umi(海) (2014/2017)
4) イベール/交響組曲「パリ」
5) (アンコール)イベール/交響組曲「パリ」~ブローニュの森のレストラン

●演奏
田中祐子指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)
上野耕平(サクソフォン*2)



Review by 管理人hs  

田中祐子さん指揮によるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)定期公演フィルハーモニー・シリーズを石川県立音楽堂で聞いてきました。田中さんは,ここ数年,OEKを何回も指揮されていますが,金沢で行われる定期公演に登場するのは今回が初めてです。本来は,丁度2年前の4月の定期公演に登場予定でしたが,コロナ禍で中止になってしまいましたので,今回はその「リベンジ」公演ということになります。



この日のプログラムは,ミヨー,イベールといった20世紀フランスの作曲家の作品と近年人気の藤倉大さんの作品を組み合わせたもので,田中さんの意欲がしっかりと前面に出た生き生きとした公演となりました。もう一つの注目は,若手サクソフォン奏者,上野耕平さんとの共演でした。上野さんは,イベールの協奏曲での独奏に加え,藤倉さんの作品以外の2曲でも「OEKのメンバー」として演奏される大活躍でした。その艶っぽい音色と粋な演奏を,演奏会全体を通じて堪能できました。

最初に演奏された,ミヨーの「世界の創造」は,1989年4月のOEKの記念すべき第1回定期公演でも演奏された作品です。定期公演で取り上げられるのは...もしかしたら,その時以来かもしれません。冒頭から上野さんのサックスの音を中心とした甘く蠱惑的な響きに包まれた後,ガーシュインのような雰囲気になったり,ストラヴィンスキーの「兵士の物語」のような雰囲気になったり,変化に富んだ,この曲でしか聞けないような響きを楽しむことができました。

ちなみにこの曲の編成ですが,サクソフォンに加え,ヴァイオリン2,チェロ,コントラバス,クラリネット2,オーボエ,フルート2,ファゴット,ホルン,トランペット2,トロンボーン,ティンパニ,打楽器といった感じで(ざっと見た感じなので間違っているかもしれません),弦楽器の数が少なく,管楽器の方が多いという,オーケストラとしては異色の編成。一見,ジャズのビッグバンドを思わせるような感じで,ミステリアスだけれども重苦しくなく,ちょっとチープな感じもする...というオリジナルな響きを「創造」していました。そして田中さんとOEKメンバーの作り出す音楽には,何とも言えぬ密度の高さとクリアで生き生きとした鮮やかさとがありました。このよく練られた響きは,実演でないと味わえないものだと思いました。

曲は序曲の後,それほど長くない5つの場の音楽が続きました。不器用な感じだけれどもノリの良いフーガ,神妙なブルースのような気分,金管が盛り上げたかと思えば,ヴァイオリンが甘く熱い歌を聞かせる...という感じで続いていきました。曲の最後の方はキビキビとしたカーニバルという感じになった後,甘く静かな雰囲気で終了。色々な気分が交錯しながら浮かれている感じが,春の気分に合っているのではと思いました。



続くイベールの「アルト・サクソフォンと11の楽器のための室内小協奏曲」も,各楽器1名程度の編成で,ミヨーの編成とかなり似ていました(こちらはヴィオラが加わっていました。)。曲の雰囲気的にも,絶妙のカップリングだと思いました。

冒頭,どこか雑然とした感じで始まった後,上野さんのサックスが入ってくると,一瞬にして視界が晴れて,空気が颯爽とした感じに変貌。これが粋で格好良かったですね。軽快で若々しい雰囲気に溢れた演奏でした。上野さんの音はキリッとクールだけれども,この楽器ならではの暖かみとクリアさもあり,本当に心地良い音を聞かせてくれました。音楽の方も流れよく進み,室内楽的な緊密な気分の中,あっという間に第1楽章が終わりました。

第2楽章はサクソフォンのモノローグで開始。上野さんの音は,どこを取っても美しいのですが,この部分では特にその魅力を味わうことができました。しつこくなり過ぎず,シュッとした感じなのに,しっかりとしたボリューム感と艶っぽさのある素晴らしい響きを十分に楽しむことができました。

第2楽章の後半はテンポが上がり,実質的には第3楽章となります。この部には,有無を言わさぬ鮮やかさがありました。速いパッセージもまろやか。闊達な音楽が平然と続き,爽やかな甘さが後に残りました。最後の方に出てくる,カデンツァでは,対照的にじっくりと聞かせる音楽に。何という奏法かは分かりませんが「パタパタ」とした音も聞こえてきて,不思議な空気感を作っていました。チェロ以外,全員立ったまま演奏していたOEKメンバーの演奏も鮮やかで,タイトル通りの「室内楽的な気分のある協奏曲」をしっかりと楽しむことができました。

後半最初は藤倉大さんによる「UMI(海)」という作品でした。ここまで弦楽器の数が室内楽程度の数でしたので,ここで初めてオーケストラっぽい編成になりました。最近,藤倉さんのお名前を色々なところで聞くのですが,実はその作品を実演で聴くのは今回が初めてでした。そのオリジナリティ溢れるサウンドを聞いて,注目を集めている理由が分かる気がしました。

第1楽章冒頭,弦楽器の静かな音がグリッサンドで動いていくような響き(飛行機が離陸するような感じ)から,「初めて聞く音」の連続でした。叫ぶような強い和音が出てきたり,寄せてくる波を思わせるように音が変化したり,チェレスタの上で色々な楽器が次々と音をつないでいったり...オリジナルな質感を持った多彩な響きに浸ること自体が面白い作品でした。第2楽章は,最後大きく盛り上がる感じで,心地よい調和の世界に入っていく感じでした。ドビュッシーに交響詩「海」という名曲がありますが,それを21世紀的に表現したらこんな感じになるのかなと,思わせるような作品でした。

演奏会の最後は,イベールの交響組曲「パリ」でした。実演で聴くのは初めての曲でしたが,個性的な小品が6つならんだとても楽しい作品でした。定期公演の「トリ」を締めるには,やや雑然とした感じかなという気はしましたが,オーケストラの各楽器がソリスティックに活躍する部分も多く,日常の憂さばらしにはぴったりといった曲でした。

1曲目「地下鉄」は,映画音楽「ジョーズ」の音楽を思わせるような,列車の描写が楽しかったですね。第2曲「郊外」はトランペットによる呼び声を描写したようなファンファーレの後,独奏ヴァイオリンなどが出てきたり,軽快な気分の音楽がコロコロと変わっていく感じでした。第3曲「パリのイスラム寺院」では,加納さんのオーボエを中心に,怪しいけれどもクールな雰囲気が漂っていました。打楽器の乾いた感じのリズムも独特でした。

第4曲「ブローニュの森のレストラン」では,トランペットやトロンボーンののびのびとした響きが爽快。スピード感のあるワルツが快適でした。ここでも上野さんのサックスが大活躍でしたが,それに続く藤原功次郎さんのトロンボーンも最高でした。このところ頻繁にOEKの公演に加わっている藤原さんの演奏は,イベールの音楽の持つ自由な気分にぴったりでした。実はこの第4曲はアンコールでも演奏されたのですが,この時は,上野さんも藤原さんも立ち上がっての演奏(吹奏楽部を彷彿させる気分?)。特に藤原さんは見るからにノリノリで,さらにパワーアップ。遊び心満載の大らかな演奏で,一気に主役になってしまいました。

第5曲「定期船イル・ド・フランス号」は,第1曲と対を成すような汽船を描写した音楽。クラリネットの音が本物の汽笛のようでした。両曲とも乗り物好きには「たまらない」曲だったと思います。第6曲「祭の行列」は,お祭り気分のある行進曲。曲の最後にぴったりの上機嫌な作品。ここでも藤原さんのトロンボーンの伸びやかさが印象的でした。

ちなみにこの曲ではピアノ,チェンバロなど4つの鍵盤系楽器を1人で演奏していました。これもまた,見慣れない光景でした。

というわけで,上野さんのサックス,藤原さんのトロンボーンなど気持ちよく響く管楽器の音を中心に,この1週間の嫌なことをすべて忘れさせてくれるような,金曜日の夜に聴くのにぴったりの演奏会でした。

(2022/04/21)