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第20回北陸新人登竜門コンサート〈弦管打楽器部門〉
2022年5月15日(日) 15:00~ 石川県立音楽堂 コンサートホール

1) モーツァルト/交響曲 第1番 変ホ長調 K. 16
2) モーツァルト/クラリネット協奏曲 イ長調 K. 622
3) モーツァルト/フルート協奏曲 第2番 ニ長調 K. 314
4) モーツァルト/交響曲 第31番 ニ長調 K. 297/300a 「パリ」

●演奏
ユベール・スダーン指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)
藤田菜月(クラリネット*2),安嶋美裕(フルート*3)



Review by 管理人hs  

今回で20回目となる北陸新人登竜門コンサートが石川県立音楽堂コンサートホールで行われたので聴いてきました。今年は,弦・管・打楽器部門で,,木管楽器奏者のお二人がオーディションに合格しました。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と共演したのは,まだ音楽大学在籍中の次のお二人でした。

  • 藤田菜月(クラリネット;富山県出身;東京音楽大学在学中)
  • 安嶋美裕(フルート;金沢市出身;愛知県立芸術大学在学中)

これは偶然だったのだと思いますが,お二人とも演奏曲目がモーツァルトの協奏曲。そして,それとコーディネートしたのだと思いますが,OEK単独で演奏した曲もモーツァルトの曲ばかり。今回の指揮者は,古典派音楽をプログラムの中心としているユベール・スダーンさんでしたので,定期公演を思わせるような,モーツァルト尽くしのプログラムとなりました。



藤田さんが演奏した曲はクラリネット協奏曲,安嶋さんが演奏した曲はフルート協奏曲第2番という,どちらも有名な作品。連休が終わったばかりの,初夏の日曜の午後に聴くにはぴったりの両曲でした。ユベール・スダーンさん指揮OEKによる万全の演奏の上で,それぞれ気持ちの良いソロを聴かせてくれました。

前半,藤田さんの演奏したクラリネット協奏曲は,スムーズなテンポ感で演奏されていました。スダーンさんのテンポ設定は,いつもどおりキリッと締まったインテンポ。安心のバックアップの上で,藤田さんは,デリケートで柔らかな雰囲気のある演奏を聴かせてくれました。特に弱音で演奏される低音が特に美しいなと思いました。この日,藤田さんはバセットクラリネットを使っていましたが(遠目に見ても,やや大きめかなと感じました),その効果が出ていたと感じました。第2楽章は,澄んだ音でしっかりと歌われていました。明るさの中に淡い悲しみを滲ませたような気分が楽章全体に漂っていました。第3楽章では途中,ちょっとヒヤッとする感じの部分がありましたが,ここでも明快なソロを聴かせてくれました。

後半に登場した安嶋さんの演奏は,曲の性格にもよると思いますが,より外向的な演奏で,スダーンさん指揮のグイグイと迫ってくるような勢いのあるOEKの演奏にぴったりマッチしていました。まだ粗削りの部分はあるように思いましたが,音楽にしっかり乗っている感じがとても心地良かったですね。第1楽章のカデンツァでは,一瞬,「フィガロの結婚」のフレーズが出てくるなど(どなたのカデンツァでしょうか),楽章を通じて生き生きとした雰囲気のある演奏でした。やや速めのテンポでしっかり演奏された第2楽章の後,第3楽章でも闊達で伸びやかさのある演奏を聴かせてくれました。

そして,今回のオール・モ-ツァルト公演で良かったのは,最初と最後に演奏されたスダーンさん指揮OEKによる交響曲2曲でした。両曲とも,アーティキュレーションや強弱の変化が明快な,インテンポでのる自信に溢れた演奏。どちらも瑞々しさと堂々とした安定感があり,両曲とも聴きごたえ十分でした。

最初に演奏された交響曲第1番は,演奏会全体の序曲のようでした。第2楽章でホルンに出てくる「ジュピター音型」はちょっとぼんやりとした感じではありましたが,全曲を通じて,キビキビとしたテンポによる若々しさと,堂々とした安定感とが両立した充実感のある演奏でした。

最後に演奏された31番「パリ」は,OEKの楽器編成がフル編成になり,演奏会全体を締める華やかさがありました。第1楽章冒頭から,芯のあるくっきりとした音でスタート。迷いの全くない力強さと隅々まで磨かれた美しさがありました。コーダの雰囲気も壮麗でした。

第2楽章は,プログラムの解説には2つの版があると書いてありましたが,今回演奏されたのは,3拍子版(多分)で,私自身,この版で聴くのは初めてだと思います。生き生きとした感じと優雅さとが両立した魅力的な演奏でした。

第3楽章は,まず,冒頭の第2ヴァイオリンの鮮やかな音の動きに耳を奪われました。緻密で勢いのある素晴らしい出だしでした。トランペットやティンパニなどは,しっかりと祝祭感を盛り上げてくれていましたが,他の楽器とのバランスがとても良く,さすが音楽堂で聴くOEKのモーツァルトだと思いました。途中に出てくる,フーガのような音の音の絡み合いも充実感十分でした。

今回のプログラムは,「図らずもモーツァルト尽くし」になったのだと思いますが,2人の若いソリストの演奏に加え,さすがスダーンさんという熟練の演奏を楽しむことができました。今年の9月以降,スダーンさんはOEKの指揮者陣から離れることになりますが,連休中の楽都音楽祭での大活躍に続いての登場ということで,今後も特に「古典派担当」として,OEKとのモーツァルト演奏を色々聞かせて欲しいなと思いました。


演奏会前の石川県立音楽堂前。団体で聴きに来ている,高校生の姿が目につきました。

(2022/05/23)