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アビゲイル・ヤング・アンド・フレンズ第2夜
2022年5月17日(火)18:30~金沢市アートホール

1) シェーンベルク/弦楽四重奏のためのスケルツォ ヘ長調
2) ブラームス/クラリネット五重奏曲ロ短調, op.115
3) ブラームス/弦楽五重奏曲第2番ト長調, op.111
4) (アンコール)ブラームス(編曲者不明)/子守歌

●演奏
アビゲイル・ヤング,江原千絵(ヴァイオリン),ダニイル・グリシン,般若佳子*3-4(ヴィオラ),ソンジュン・キム(チェロ),遠藤文江(クラリネット)



Review by 管理人hs  

1週間前に続いて,「アビゲイル・ヤング・アンド・フレンズ」と題して行われた室内楽公演の第2夜を金沢市アートホールで聴いてきました。出演者は,第1夜から少し変わり,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のコンサートマスター,アビゲイル・ヤングさん,第2ヴァイオリン首席奏者の江原千絵さん,ヴィオラ客演首席奏者のダニイル・グリシンさん,チェロ奏者のソンジュン・キムさん,クラリネット奏者の遠藤文江さん。そして,客演のヴィオラ奏者の般若佳子さんの6人でした。



今回もテーマはブラームスで,ブラームスの五重奏曲2曲を中心に,「弦楽四重奏プラス・ワン」の音の厚みと楽しさを実感できるプログラムでした。第1夜に続き,ヤングさんを中心とした熱いアンサンブルで会場もヒートアップしました。

この日は,ブラームスの作品の前にシェーンベルクの若い時の室内楽曲が1曲演奏されました。後年の無調音楽時代の曲とは一味違った,ブラームスの音楽につながるような曲でした。ちょっとゴツゴツした感じの音楽には少々とっつきにくいところはありましたが,ひねりの効いた絶妙のイントロダクションになっていました。ヤングさんならではの選曲だったと思いました。

その後は,クラリネット五重奏曲と弦楽五重奏曲第2番という五重奏曲2曲が演奏されました。先週は六重奏曲第1番が演奏されましたが,改めて,ブラームスの「やや大きめ」の室内楽作品の魅力を実感できました。それぞれ,「弦楽四重奏プラス・ワン」という編成でしたが,1つ加わることで音の厚みが増し,演奏の楽しさや起伏の大きさも増幅されている感じでした。

ブラームスのクラリネット五重奏曲を実演で聴くのは久しぶりのことでした。ブラームスが作曲活動から引退していた時期(といってもまだ50代)の作品ということで,全体的に物悲しい気分が溢れているのですが,遠藤さんのクラリネットの表現は大変多彩かつ力があり,ぐっと心に迫ってくるような瞬間が沢山ありました。この曲は結構暗いイメージを持っていたので,CDなどではあまり聞いてこなかったのですが,本日の演奏を聴いて,聞きどころに溢れた名曲だなぁと認識を新たにしました。

第1楽章の出だしは,ヤングさんを中心とした弦楽四重奏による美しく力のある響きでスタート。それを遠藤さんのくっきりとしたクラリネットが受けると,一気にブラームスの世界へ。しっかりと音が溶け合った,密度の高い美しさを楽しむことができました。途中,力強く盛り上がる部分があったり,段々と深く沈み込んでいく部分があったり,声高になることはないけれども変化に富んだ聴きごたえ十分の音楽を楽しむことができました。

第2楽章も各楽器の音がじっくりと溶け合った雰囲気で始まったのですが,中間部,クラリネットがドラマティックに大きく歌い上げるような部分が印象的でした。心に刺さるような説得力を持った遠藤さんの演奏でした。楽章の最後の部分の弱音も素晴らしく,クラリネットの表現力の幅の広さを実感できました。

第3楽章は,交響曲第1番の第3楽章のような,のどかな気分のある楽章。生き生きとした音楽が続きました。第4楽章はしっとりと演奏されたテーマの後,変奏が続きました。しっとりとした気分になったり,切迫感のある気分になったり,起伏のある音楽が続いた後,第1楽章最初の雰囲気が戻ってきて,長い旅路が終わったような気分になりました。深々とした情感が後に残る,充実した時間を楽しむことのできた演奏でした。

後半に演奏された,弦楽五重奏曲第2番は,CDも持っておらず,聴くのはほぼ初めての作品でしたが,プログラムの解説(ヤングさんによる,大変充実した内容の解説でした)に書かれていたとおり,交響曲を思わせる充実した気分があり,演奏会の最後を締めるのに相応しい熱さがありました。

まず第1楽章の最初の輝かしい響きが素晴らしかったですね。ヤングさんと江原さんのヴァイオリンが重なり合った,どこか崇高さ之ある響きでした。ブラームスは,この曲を自分の最後の作品にしようとしていたらしいのですが,そのことが実感できるような,全力を注ぎ込んだようなエネルギーが溢れていました。第2主題の方はグリシンさんのとろけるようなヴィオラの音を楽しむことできました。

中間の2つの楽章には哀愁の漂う穏やかさや懐かしさがあり,リラックスして聴くことができました。立体感が感じられたり,虚無的な美しさがあったり,派手すぎないけれども,内容が色々詰まっているなぁと思いました。

最終楽章にはどこかエキゾティックなハンガリー風のムードが漂っていました。がっちりとした構築感もあり,ブラームスらしい音楽だと思いました。楽章の最後は,5人が一体となってどんどんテンポを上げていくスリリングな演奏。晩年の作品とは思えない熱狂が素晴らしく,演奏会全体も大きく盛り上げてくれました。演奏後の拍手も大変盛大でした。アンコールでは,この熱狂をクールダウンするように,ブラームスの「子守歌」。すべてがピタリとはまった選曲でした。

今回のアビゲイル・ヤングさんを中心とした2週連続の室内楽公演企画は,大成功だったと思います。ファンとしては続編を期待したいですね。シューマンやシューベルトも色々な編成の室内楽作品を書いていますので,同様の企画は実現可能だと思います。というわけで,関係者の皆様,是非,よろしく(?)お願いたします。

(2022/05/20)