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第34回教弘クラシックコンサート:モーツァルト・アリア集 & ジュピター交響曲
2022年6月18日(土) 14:00~ 石川県立音楽堂 コンサートホール

1) モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲 K. 492
2) モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」K. 492~恋とはどんなものかしら
3) モーツァルト/歌劇「魔笛」K. 620~「ああ私にはわかる、消え失せてしまったことが」
4) モーツァルト/アリア「偉大な魂、高貴な心を」K. 578
5)モーツァルト/交響曲第41番ハ長調, K. 551「ジュピター」
6)(アンコール) モーツァルト/アヴェ・ヴェルム・コルプス
7)(アンコール) モーツァルト/ディヴェルティメント K.136~第3楽章

●演奏
鈴木恵里奈指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:石上真由子),木村綾子(ソプラノ*2-4,6)



Review by 管理人hs  

6月中旬の土曜日の午後,第34回教弘クラシックコンサートを石川県立音楽堂で聴いてきました。この公演は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の創設時から毎年この時期に行われている日本教育公務員弘済会石川支部主催による入場無料の演奏会です。昨年までは「県教弘クラシックコンサート」という名称でしたが,今年からは「教弘クラシックコンサート」に変更になりました(回数の方は継続しており,34回目となります。)。



指揮は,今年の1月にOEKが初演した新作オペラ「禅」を指揮した鈴木恵理奈さん,ソプラノは楽都音楽祭でも大活躍されていた木村綾子さん。そして,オーケストラはOEKでした。



演奏会に先立って主催者の方からご挨拶があり,今年度から演奏会の名称を変えたので,原点に立ち返って,OEKや若手演奏家を応援する内容にしたとの説明がありました。OEKファンとしては大変うれしいポリシーですね。OEKが何回も演奏してきたモーツァルトを若手指揮者と地元で活躍する歌手の演奏で楽しむオーソドックスな内容となりました。

演奏された曲目は,前半が歌劇「フィガロの結婚」から序曲と「恋とはどんなものかしら」,歌劇「魔笛」から「ああ私にはわかる、消え失せてしまったことが」,コンサート用アリア「偉大な魂、高貴な心を」。後半は交響曲第41番「ジュピター」の1曲ということで,実質的な演奏時間はやや短めでしたが,曲の間に鈴木さんと木村さんによるトークが入っていましたので,休憩も含めて90分ぐらいの長さでした。

鈴木さんの指揮には,慌てた感じはなく,テンポが速くなっても,常に音楽に余裕が感じられるような,気持ちの良い演奏を聴かせてくれました。ステージに登場する時の動作もとても堂々としており,非常に健康的な雰囲気がありました。これから,OEKを指揮する機会も増えてくるかもしれませんね。

最初に演奏された「フィガロ」の序曲もそういう感じの演奏で,オペラ指揮者として活躍の場を広げている鈴木さんらしい演奏だったのでは,と感じました。しなやかで繊細な表現と同時に,ゆったりとした気分のある音楽を楽しませてくれました。

続いて登場した,木村さんの歌も充実した内容でした。今回歌われたアリアでは,少年ケルビーノの恋する気持ちや,恋人に振られたと思って絶望的に落ち込むパミーナの気持ちが歌われていたのですが,鈴木さんが語っていたとおり,「モーツァルトのオペラの中で歌われている感情は普遍的だ」と思いました。アリアだけを切り取って聴いただけで,全曲へのイメージが大きく広がるような演奏でした。

ちなみに鈴木さんは「恋とはどんなものかしら」の曲目解説の時に,聴きどころをピックアップして,イタリア語の歌詞をいくつか紹介されましたが,これが実に良かったですね。イタリア語の熱さが伝わって来て,聴く前にテンションが上がりました。鈴木さんは,ケルビーノのことを「ズボン役」として紹介されていましたが,鈴木さんの指揮ぶりにもケルビーノを彷彿とさせるような瑞々しい熱さを感じました。

木村さんは,楽都音楽祭の司会でも落ち着いた進行をされていました,今回の歌唱も安定した内容で,特にパミーナのアリアでの凛とした感じと,深く落ち込んだ感じの対比が素晴らしいと思いました。コンサート用アリアの方は,初めて聞く曲でしたが。決然とした強さと貴婦人のような包容力のようなものを感じさせてくれました。

後半では「ジュピター」交響曲が演奏されました。演奏前のトークにあったとおり,鈴木さんは各楽章のキャラクターをしっかり,的確に描き分けていました。4幕からなるオペラといったところでしょうか。第1楽章冒頭から,堂々とした落ち着きがありましたが,新しいフレーズが出てくると,ふっと柔軟性が出てきたり,古典的な均衡を保ちながら,生きた音楽が流れてきました。楽章の最後が,柔らかく終わるのも良いなぁと思いました。

第2楽章も落ち着きのある演奏でしたが,もたれるようなところはなく,弱音をベースとした,しっとりとした美しさのある空気感に包み込まれました。第3楽章については,「やや速めのテンポで,実用向けというよりは演奏会用のメヌエット」として演奏するとおっしゃられていたとおりでした。ただし,極端に速いテンポでくはなく,しなやかな優雅さを感じました。この楽章でも,一瞬,フッと表情が変わるような感じがとても魅力的でした(OEKの反応がとても良いのだと思います。)。

第4楽章も速めのテンポだけれども慌てたところのない演奏で,精緻さと同時に余裕を感じました。フルートをはじめとして,OEKの各パートが色々な場所からソリスティックに立ち上がってくるのを味わえるのは,実演ならではの楽しさですね。最後のフーガの部分は,巨大な音楽が立ち上がるというよりは,澄み渡った晴れた夜空に美しく星がきらめくような爽快さを感じました。これは,個人の勝手な感想ですが,鈴木さんのトークを聴いて,いつも以上に色々とイメージを広げながら聴いてしまいました。

アンコールは2曲ありました。まず,木村さんの歌を交えて「アヴェ・ヴェルム・コルプス」が演奏されました。合唱曲としては何回も聴いたことはありますが,独唱で聴くのは...多分初めてだと思います。天上の音楽というよりは,人間的な情感のあふれた音楽に聞こえたのが,とても新鮮でした。

アンコール2曲目は,ディヴェルティメントK.136の第3楽章。鈴木さんは指揮台まで走るような感じで登場しましたが,何かそのテンポ感とぴったりで,すごいと思いました。若々しさが溢れており,聴いていてとても嬉しい気分になりました。

というわけで,やっぱりOEKのモーツァルトは良いなぁと原点に立ち返ったような気分にさせてくれる演奏会でした。

(2022/06/26)