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オーケストラ・キャラバン:九州交響楽団金沢公演
2022年6月20日(月) 19:00~ 石川県立音楽堂コンサートホール

ドーシー/ウードルズ・オブ・ヌードルズ**
真島俊夫/シーガル*
石川亮太/日本民謡による狂詩曲*
リード(中原達彦編曲)/アルメニアン・ダンス Part1**
ビゼー/「アルルの女」第2組曲**
ラヴェル/ボレロ**
(アンコール)スーザ/行進曲「星条旗よ永遠なれ」**

●演奏
現田茂夫指揮九州交響楽団
須川展也(サクソフォーン*ソロ,**オーケストラパート出演)



Review by 管理人hs  

昨年から始まった「オーケストラ・キャラバン」の一環で行われた,九州交響楽団金沢公演を石川県立音楽堂で聴いてきました。九州交響楽団が金沢で公演を行うのは,今回が初めてとのことです。



プログラムの肝は「サクソフォンが加わるオーケストラ曲」でした。ソロで登場したり,オーケストラのメンバーとして登場したり,全ての曲でサクソフォン奏者の須川展也さんが演奏に加わっていました(そういえば,今年4月のオーケストラ・アンサンブル金沢の定期公演での上野耕平さんも同様だったことを思い出しました)。前半は通常吹奏楽で演奏する曲(アルメニアン・ダンスなど)をオーケストラで演奏,後半はクラシック音楽でサックスが入る曲(「アルルの女」と「ボレロ」)を演奏,ということで,プログラムを通じて,明るく開放的な気分を楽しむことができました。


右が本公演のプログラム。左が九響のシーズンプログラムです。OEK以外の定期公演リストを眺めるのがとても新鮮でした。

前半はまず,須川さんのサックスのソロをフィーチャーした作品が3曲演奏されました。須川さんは白っぽい衣装を来て登場し,不思議な色合い(赤が混ざっていたかな...)のサックスを演奏。須川さんがステージに登場しただけで,客席のテンションが上がった感じでした。

最初に演奏された,ドーシー作曲「ウードルズ・オブ・ヌードルズ」という曲は,須川さんの鮮やかな音と指の動きを堪能できる「挨拶がわり」の1曲でした。いきなりテンションの高い,ジャズっぽい作品ということで,一気に別世界に連れていかれました。ドラムスのリズムに乗って,,無窮動的に音が動いていくあたり,「麺がグルグルと巻いている」イメージだったかもしれません。中間部での,余裕たっぷりの語り口。最後は,須川さんお得意の超高音で締めていました。サクソフォーンという楽器の,有無を言わさず,一気に主役になってしまうような,良い意味での「押しの強さ」も味わえる楽しい曲でした。

2曲目は,真島俊夫作曲「シーガル」という作品でした。1曲目とは打って変わって,ゆったりとしたバラードっぽい作品。オーボエのソロで始まった後,それを受けるようにサックスのソロが続きました。どこかエンニオ・モリコーネの曲の世界(「ニューシネマ・パラダイス」とか「ミッション」といった映画音楽の世界ですね)につながるような,甘い切ない世界を味わわせてくれました。須川さんの演奏には,時間の感覚を忘れさせてくれるような陶酔感がありました。ちなみに,真島さんといえば,数多くの吹奏楽作品で有名ですが(特に「宝島」のアレンジは永遠不滅ですね),実は,この曲はもともと,アルト・サックスと弦五部,オ-ボエ,ハープのための作品で,今回がオリジナルのスタイルということになります。

3曲目の石川亮太作曲の日本民謡による狂詩曲は,発想としては,外山雄三作曲の「ラプソディ」と同様で,日本の有名な民謡が次々と出てくるラプソディです。途中,緩徐楽章風になったり,カデンツァのような感じになったりする点で,サックス協奏曲的な感じもある作品でした。この曲では,サックスの色々な「音と技」を楽しめました。ねっとりとした歌い回しになったり,ハスキーボイスになったり,尺八のような音になったり,打楽器的な音を聴かせたり...多彩な表現を楽しませてくれました。最後は阿波踊り+ソーラン節でしたが,阿波踊りには絶妙のスウィング感があり,サックス向きなのではと思いました。お祭り的なエンディングということで,打楽器も大活躍でした。

前半最後は,吹奏楽の定番中の定番の曲,アルフレッド・リード作曲のアルメニアン・ダンスPart1を中原達彦さんがオーケストラ用に編曲した版が演奏されました。もしかしたら,この日いちばんの注目曲だったかもしれませんね。私自身,吹奏楽版は実演で何回か聴いたことがありますが,オーケストラ版で聴くのはもちろん初めてのことです。その第1印象は,スケールが大きくなったなぁというものでした。曲の冒頭の一撃のパンチ力が素晴らしかったですね。弦楽器のカンタービレが出てくると,オリジナルの管弦楽曲のようなスケール感を感じました。その一方,吹奏楽版でのクラリネットの合奏が作りだすような独特の音色感もやはり魅力的だなとも思いました。

5/8拍子になる部分(「おーい,僕のナザン」の部分)での民族的な感じ,ゆったりとした三拍子の部分(「アラギャス山」の部分)での情感の豊かさなど,立派な管弦楽作品となっていました。最後の「行け,行け」の部分では,オーケストラ版だと,吹奏楽版以上に軽快な感じでした。が,アマチュアの吹奏楽団が熱く演奏する感じも良いなぁと感じますね。変わらないのは,パーカッションの爽快さでしょうか。この日の客席には,制服を来た学生・生徒さんの姿を沢山見かけましたが,若い人たちに大きな刺激を与えてくれる演奏だったのでは,と思いました。



後半は視点が逆転し,クラシック音楽の中でサクソフォンが使われている曲が2曲演奏されました。というわけで,必然的にフランス音楽ということになります。

私自身,九州交響楽団の演奏を実演で聴くのは初めてでしたが,ラテン系の音楽の開放感にぴったりなのではと思いました。「九州=南の方=明るい」という先入観を持っているせいもあるかもしれませんが,ビゼーのアルルの女組曲第2番の第1曲パストラールの冒頭の脱力したのびやかな音を聞いて,とてもリラックスした気分になりました。これは,指揮者の現田茂夫さんの指揮の力も大きいと思います。フルートに続いて,サクソフォーン。そして,中間部でプロヴァンスの太鼓の音が聞こえてくると,行ったことはないけれども,南フランスの気分になりますね。

2曲目の「間奏曲」では,後半,九響メンバーとして参加していた須川さんのサックスの抑制された美しさを実感できました。3曲目は有名なメヌエット。楚々とした感じのあるフルートの後,管楽器が次々加わって,色彩感が出てくる感じが素晴らしかったです。終曲のファランドールは,少々大仰に感じられるくらい遅~いテンポで開始。最後の部分は力強く盛り上がっていましたが,全体的に無理なくしっかりと楽しませてくれるのが現田さんの指揮の特徴かなと思いました。

演奏会の最後はラヴェルの「ボレロ」でした。いちばんの「重労働」の小太鼓奏者は,指揮者の真正面,フルートの前という「特等席」でしっかりと,しかし,ラテン的なカラッとした感じを伝えるリズムを刻んでいました。演奏後,現田さんは「ソリスト」のような感じで指揮台の横まで連れてきて,何度も小太鼓奏者の方の健闘をたたえていました。

前半,弱音が続く部分は各楽器のソロが続きて,聴いている方も緊張した感じになりますが,その中ではやはり,ソプラノ・サックス担当の須川さんの聴かせ上手な演奏が素晴らしいと思いました。調性が違うフルート,ピッコロなどが一緒に演奏する部分もいつも注目しているのですが,音のブレンドが素晴らしいと思いました。そして,難所と言われているトロンボーンのソロ。明るくスリムで伸びやかな演奏がお見事でした。

その後,一気に色彩感が増します。この日の演奏は,第1ヴァイオリンの音が加わるととても優雅な雰囲気に変わった気がしました。そして,最後,小太鼓が2台に増え,第1ヴァイオリンが力強く加わるあたりから,気分がより開放的になってきます。終結部では満を持して,銅鑼,シンバル,大太鼓などが最後列で炸裂(視覚的にも目立ちますね)。演奏を聴きながら,今度生まれ変わったら(?),この日の演奏のように,銅鑼を思い切り叩いてみたいなぁと思いました。

そして,アンコールが1曲ありました。これはもしかしたら九響さんの得意のパフォーマンスなのかもしれませんが,スーザの行進曲「星条旗よ永遠なれ」が演奏されました。佐渡裕さん指揮シェナ・ウィンドオーケストラのアンコールの定番ですが,そこまでは速いテンポではなく,しっかりと手拍子を楽しめるような快適なテンポ。そして,最後の部分では,オーケストラメンバーが全員起立(チェロの皆さんも立ってましたねぇ)!やはり,皆で盛り上がるお祭りのような開放感が九州交響楽団さんの持ち味なんだなぁと幸せな気分になりました(月曜日から既に疲れ気味だったのですが,とりあえず疲労感がリセットされました)。

というわけで,サックスの魅力とフランスのオーケストラ音楽の魅力の両方をしっかりと楽しめる演奏会でした。オーケストラ・キャラバン企画は,今後も色々と楽しみですね。何より金沢に居ながらにして全国各地のオーケストラを安価で楽しめるのが良いと思います。コロナ禍が契機となって始まった企画ですが,是非,継続して欲しいと思います。今度は(個人的な思いですが),札幌や山形など,これまで金沢に来たことのない「北の方」のオーケストラの演奏を聴いてみたいものです。


この日のプログラムに入っていたメッセージです。多くの方から惜しまれていることが分かる文章ですね。

(2022/06/26)








一体どういう収録でしょうか?楽しみです。


この日,同じ時間帯に金沢市アートホールでは,デニス・ブリアコフさんのフルート・リサイタルも行なわれていました。こちらも聴いてみたかったですね。