OEKfan > 演奏会レビュー

オーケストラ・アンサンブル金沢第456回定期公演マイスター・シリーズ
2022年7月9日(土)14:00~ 石川県立音楽堂コンサートホール

1) フォーレ/劇付随音楽「ペレアスとメリザンド」組曲, op.80
2) ラヴェル/ピアノ協奏曲ト長調
3) (アンコール)バッハ, J.S./協奏曲ニ短調, BWV.974~ 第2楽章
4) シューマン/交響曲第2番ハ長調, op.61
5) (アンコール)シューマン(ヨーゼフ・シュトラウス編曲)/トロイメライ

●演奏
ユベール・スダーン指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)*1-2,4-5,三浦謙司(ピアノ*2-3)



Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の2021/2022定期公演マイスターシリーズの最終公演を石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。指揮はユベール・スダーンさん,ピアノは三浦謙司さんでした。

OEKは今度の9月から指揮者陣の体制が変更になりますので,スダーンさんが,プリンシパル・ゲストコンダクターとしてOEKを指揮するのは,この日が最後でした。そのことも反映してか,いつもにも増してスダーンさんの「思い」がOEKの音に強く反映しているように感じました。



この日のプログラムは,前半がフォーレの「ペレアスとメリザンド」組曲とラヴェルのピアノ協奏曲というフランス音楽。後半はシューマンの交響曲第2番。すべて聴きごたえのある演奏でしたが,特に,最後に演奏されたシューマンの交響曲第2番は,確信に満ちた迷いのない演奏で,これからもスダーンさんとセットで強く記憶に残るような演奏だったと思いました。

前半最初に演奏されたフォーレの「ペレアスとメリザンド」組曲は,OEKが過去何回も演奏してきた曲です。第1曲「前奏曲」は,じっくりデリケートな気分で開始。金星さんのホルンの柔らかい高音を聴くと,フランス音楽だなぁという気分になります。静かだけれどもドラマを秘めた開始でした。

軽快な弦楽器の伴奏の上で加納さんのオーボエが静かに流れていく第2曲「糸をつぐむ女」。そして,松木さんの爽やかなフルートが楽しめた第3曲「シシリエンヌ」。風が吹き抜けていくような演奏でした。曲の後,ハープの残響音をしっかりと聴かせていたのもとても魅力的でした。

第4曲「メリザンドの死」は痛切さのある音楽ですが,重苦しくなり過ぎることはなく,ちょっと不思議な喪失感を感じさせてくれました。曲の最後の部分,音楽がパタっと止まって静寂が訪れたのですが,一瞬時間が止まったようで,「すごい」と思いました。

続いて,OEKと初共演となる三浦謙司さんと共演したラヴェルのピアノ協奏曲が演奏されました。この曲も,OEKは過去何回も色々なピアニストと演奏してきた曲ですが,今回の三浦さんのピアノは,どこを取っても言うことなし,という素晴らしい演奏でした。



第1楽章,ムチの音とピッコロを中心に軽快にスタートした後,三浦さんの落ち着きのあるピアノが入ってきました。三浦さんのピアノには,無駄な力は入っていないので,どの音もくっきりと聞こえ,この曲の持つ多彩なニュアンスが大げさに演奏しなくてもしっかりと伝わってくるようでした。そして急速なパッセージでの鮮やかさ!平然としていながら,キラキラとクリアに演奏するクールさがラヴェルの音楽にぴったりだと思いました。さらには,この楽章でも,1曲目の「ペレアス」同様,ハープの繊細さと,ホルンの高音の美しさが印象的でした。

第2楽章でも,しっとりとしているけれども,ベトつくことはなく,底光りするような安心感のある三浦さんのピアノの音の美しさに引かれました。色々な管楽器が加わっていって,平和な気分にほのか彩りが加わっていく感じも良かったですね。エキストラの方が担当していた,イングリッシュホルンの控えめな優しさのある音も印象的でした。

第3楽章も大変切れ味の良い演奏でした。全曲を通じて,管楽器を中心に,各パートがソリストになったような演奏を聴かせてくれましたが,特に小クラリネットを演奏していた,この日のエキストラ吉田誠さんの明るく主張する音が印象的でした。急速なテンポということで,楽器によっては,少々,雑然とした感じに聞こえるような部分もあったのですが,これもまたこの曲のキャラクターとも言えるのかもしれません。両端楽章で,賑々しく活躍していた打楽器チームも,ムチの音をはじめ,要所要所で存在感を発揮し,ビシッと演奏を引き締めていました。

アンコールでは三浦さんの独奏でマルチェロのオーボエ協奏曲の第2楽章が演奏されました。ピアノ独奏版(あとでアンコールの情報をOEKの公式サイト調べてみると,J.S.バッハ編曲によるものとのことでした。へぇという感じでした)で聴くのは初めてでしたが,その淡々とした音の美しさにすっかり魅了されました。三浦さんのソロ・リサイタルも是非聴いてみたいと思いました。

後半はシューマンの交響曲第2番が演奏されました。この曲については,シューマンの不健康な精神状態が反映した曲と言われています。確かに,第1楽章などはハ長調なのに,冒頭の金管のファンファーレからどこか沈んだ雰囲気が漂っています。しかし,本日の演奏は,楽章を追うに連れて,健康的な気分に変わっていくように思えました。

第1楽章は,主部~展開部になると音と緻密に重ねていき,「シューマンのこだわり」「こだわりのシューマン」といった気分になります。スダーンさんの緻密で熱い音楽作りがしっかり伝わってきました。

スダーンさんの指揮ぶりは,急速なテンポでも,手綱をビシッと締めており,第2楽章でもずっしりとした安定感を感じました。この楽章の終了後,スダーンさん自身,第1ヴァイオリンに向かって拍手をしてびっくりしましたが,躍動するけれども全くブレのない見事な演奏だったと思います。

第3楽章の美しく自然な歌も素晴らしかったですね。よく音の通る,管楽器のソロなども交え,とても健康的な世界が広がっていました。ここでも第1ヴァイオリンの凜とした美しさと癒やしの気分を兼ね備えたようなカンタービレがお見事でした。楽章が終わり,深い沈黙に吸い込まれる...はずでしたが...同時にケイタイの呼び出し音が鳴ってしまったのは残念でした。

第4楽章は迷いのない力強い音で開始。ドイツ風の行進曲を聴くような充実感と開放感がありました。途中,クラリネットのソロが出てきましたが,ここでの吉田さんの音が素晴らしかったですね。スダーンさんのパッションが乗り移ったような音でした。

コーダの部分では,ティンパニが曲全体を支配するような,ほれぼれするような素晴らしい強打を聴かせてくれて,見事に締めてくれました。スダーンさんは,拳を握るように指揮されていましたが,まさにパンチ力のある終結部でした。

この日は,前半のフランス音楽の時は通常のティンパニ,後半のシューマンではバロックティンパニを使っていましたが,その独特の落ち着きのある音が威力を発揮していました(演奏後,スダーンさんは各奏者を順番に立たせていたのですが,ティンパニの方を立たせるのを忘れていたようですね)。

全曲の演奏後,スダーンさんは英語で挨拶をされて,アンコールを1曲演奏しました。シューマンのトロイメライを管弦楽用に編曲したものでした。ヨーゼフ・シュトラウスという人名が耳に残りましたが,どこか後期ロマン派風のトロイメライという美しさがありました。「思い出に浸る夢」というよりは,「これから先の夢」を描いているような明るさがありました。スダーンさんの「置き土産」という感じの演奏でした。

スダーンさんがプリンシパル・ゲストコンダクターとしてOEKを指揮するのは今回で最後でしたが,この日の演奏を聴いて,まだまだ,OEKと演奏して欲しい曲はあるなぁと思いました。ウィーン古典派の交響曲も色々聴いてみたいし,シューマンの他の交響曲(個人的には4番)なども聴いてみたいものです。

(2022/07/17)